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12章 秘密結社のオキュパイド

セントラルパーク近く、居酒屋『虻川』。

彼女たちはマスコミから逃れ、最早別人となっている。それも其の筈、皺くちゃになったスーツ服と元の煌びやかな顔面は峭刻しょうこくとなり、焦燥に追われていた。

人通りの中、セントラルパークを囲むように存在するビル街の一角、物淋しさに暮れる居酒屋は昼間時のサラリーマンで溢れている。陽の光は燦爛としており、ここぞとばかりに行列を織り成す人々を見ては何処となく疲弊し切るも、やはりマナー性は守らないといけないのか、世界のアバンギャルドとは言えども所詮は抜け殻に過ぎなかった。

行列の先頭、席が開いて店員に呼ばれたのは正午ちょうど。スマホの中のデジタル時計は心地よさそうにしているが、彼女たちは既往、陽の光の暑さに厄介さを覚えつる。微かな達成感も、やり切った事への疲労には敵わずして、相容れぬ齟齬した情を心にかす事を残虐さにかき消した。


呼ばれた先はカウンター、中には依頼人である咲夜の顔も見えた。

暗黙の了解なのか、咲夜の隣には席が2つ空けられており、其処に座るよう勧められた2人は静かに腰掛けた。中はサラリーマンたちの会話で賑やかとしており、どっと疲れが込み上げたユウゲンマガンは雑に用意されたコップの中の水を啜った。


「……成功したようですね。…まあ、此処では詳しく話せないので、後で店の裏に来てください」


2人にだけ聞こえるように囁く咲夜に、ユウゲンマガンとレイラは静かに頷いた。

昼時、彼女たちは空腹に襲われる。咲夜の言葉は無論聞いていたつもりで言えど、身体は精神を背反させ、鮮明な言葉を喋るものだ。腹の虫に襲われたユウゲンマガンは机に寝込むようにして、針のむしろに座るような心境を語った。


「―――何でも屋は疲れるね。特に今、マスコミから追われてるのが辛いものだ」


「貴方たちはいい情報なんですよ。ゼラディウス国民を引き付ける餌、そんなものです」


咲夜は水を啜り切っては再び寝込んだユウゲンマガンのコップに水を汲んだ。

レイラは何を食べようか迷っていて、メニュー表を見ては何をオーダーしようか悩んでいた。

暑いので、彼女は冷やし中華にでもすべきか、と独り言をそそくさと呟く。彼女なりに便宜的な選択をしたつもりだろう。

選択した序で、忽ち寝込むユウゲンマガンの代わりに頭に浮かんだことを、レイラは咲夜に問うた。


「……レイラさん。私たちを此処に呼び出した理由って何かあるんですか?」


「まぁ、本題は後で話します。…此処で言えることとしては、『まだ序幕に過ぎない』って事です」


◆◆◆


昼ご飯を済ませ、会計は咲夜が担当することとなった。

まだ昼時の時間は真っ最中で、行列は途絶えを見せない。2人は咲夜に連れられるがまま、居酒屋の裏にある路地の中へと入っていった。

日差しが暑い大通りとは多少差異がある、湿ったような涼しさ。日陰なのが最も論に近いが、やはりジメジメした暑さより何倍も居心地が良いと断言出来る点では恩倖おんこう、此れに過ぎたるものはない。


彼女に連れられ、別の建物へ入る。其処はさっきの居酒屋の奥の部屋、無論一般人は立ち入りが許されない、スタッフオンリーの場所であった。中は簡素としており、ソファが机を挟んで向かい合うように設置されている。

其処に座るよう勧められた2人は腰かけ、咲夜も静かに座る。持ってきていた革の鞄を机上に展開しては、中から幾多もの書類を垣間見せる。


「……この書類は全て、秘密結社フィオムによる犯行です。

―――便宜上、我々政府はフィオムとの関連性を外部へ話すなと言われておりますが、まぁ曾てゼラディウスを救った貴方たちになら口を開いてもいい、ってことなので…」


書類に書かれることを、ユウゲンマガンは一から目を通した。

その中には散々たる悲惨な現実が淡々と記されていた。神の信託を受けたカルト教団は率爾そつじゼラディウスで暗躍する存在として、麻薬売買や人身売買に手を付けているようであった。

連日、子供の行方不明事件がテレビやインターネットで語られることがあったのを記憶の片隅に置くと、それらが全てフィオムの所為である真実が良く分かった。


「……これらの事件全てが教団フィオムが関連した犯行です。

―――何を企んでるのかは分からないですが、少なからず今回の爆破ミッションは成功したものだと私は断定しています。完全なオキュパイドから逸脱出来たものだって過信してますけどね。

少なからず、今回の事件を受けてフィオムは動き出すでしょう。…貴方を殺しに」


最後に残酷な運命を語った咲夜は、大金の入ったアタッシュケースを机上に展開しては2人の前に見せた。

其れを無言で手渡すようにユウゲンマガンの胸元へ届くが、やはり爆破ミッションは其れ相応に責任を伴うものであることを今更ながらに気が付いた。

その時、奥から見覚えのある人物が姿を見せた。顔面は以前と変わらずして、尚且つ佇まいは御淑おしとやかになっている。咲夜の隣に座るようにして、彼女は2人に挨拶した。


「……お久々です、皆さん」


「……リリカか。すっかり会わなくなったと思ったら、綺麗な人を作っていやがって」


「いやいや、社長こそ何やってるんですか!何でも屋、なんて……」


溜息をつき、ユウゲンマガンの自由奔放さに呆れを見せる彼女。

レイラもそんな存在の彼女に会うのは実に何か月ぶりか、昔の追憶に浸れば其処には今は亡き勇敢な科学者の姿が棚引いて映っていた。


「―――リリカさん、お久しぶりですね」


「ああ、レイラさん。実は私も咲夜さんと同じ、政府広報担当になったんですよ。

―――まぁ、簡潔にお話ししますね。…新たなミッション、『究極召喚獣ディエス・レイ計画』の阻止をお願いします」

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