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11章 攪乱の代償

彼女たちはマスコミから逃れるべく、姿を建物と建物との間に消した。

空中、一天から大地を捜し込むように照らされるスポットライトは大通りを行き、他のテレビ局や新聞社と伍しては2人の行方をここぞとばかりに目を光らせる。

コンクリート製の雑木林は見事に2人を覆い隠すのに十分で、血生ぐさい剣は異臭たりとも現実をわらって愧赧きたんする。深紅の色付けは、冷淡たる刀身の炯々たる眼そのものであったのかもしれない。

朝9時、其れは多くの人と出会うに裕は為すものであり、進みゆく道を翻すことも多々ある事は、やはり逃れる者の宿命たりしものなのか。人と会う事に嫌厭けんえんし、遠い未来を見据えるのは愚か極まりないことだろう。紅く濡れた剣は静寂に差し込む陽光を反射させると、其れは燦爛たる絶望の隠喩、刻苦勉励こっくべんれいしてながらえた血潮の風に身を棚引かせることを喜んだ。


2人は追跡するヘリコプターから逃れる為に駆けることを余儀なくされた。隙間あれば目あり、人行く垣間さえも見出す存在を畏れた。赤く点滅する信号など、彼女らの目からすれば障害物以外の何物でも無かろう。

行き交う車を回避するのは爆破ミッションを遂げた存在なら易とも容易く、動きは俊迅しゅんじん、風よろしく流れる存在となった。

カメラから忌避きひし、空中を舞うプロペラ音に感覚で気づく。現状たりし事象は非ざる自己の庇護に一杯であった。


◆◆◆


太陽が多少天井に近付いた頃時、2人は物侘しさに濡れる場所にたどり着いた。

ゼラディウスシティから離れ、鬱蒼と生い茂る林の裏路地、ゴミ収集車が孤独に待つビル陰であった。

誰もいない事を確認したユウゲンマガンは、やっと自らの場所を見いだせた事に喜びを得た。其れと同時にどっと息が漏れ、疲弊感を募らせる。


「何とか此処まで来れたようだ。…しかし、多くの存物と敵対したようだ」


彼女は終わり切ってしまった事を吐き捨てるが如く、軽々しく口から投げた。

崩れた剣の位置を立て直し、微かな己の声を聞き逃さまいと地面に腰かけては下を見据えた。

レイラも疲れ切っており、ビルの壁に寄りかかってはスマホを取り出し、時間を見た。

薄暗い裏路地の中を一筋の光が蒼天に向かって伸びていく。


「―――午前9時45分。あと2時間15分後に居酒屋集合です」


するとユウゲンマガンは咄嗟に何かに気が付いたかのように立ち上がっては、身体の気怠けだるさを一面に表しながら口を開けた。

其れは表の儁才しゅんさいおもかげすら残さない、過去の遺物を完全に否定した怏々しさ其の物であった。


「……須臾しゅゆの間、碌々と生きる事を、私は自己を稀覯きこう偏執へんしゅうしていた。胸が熱く、焼けただれるような眼界で、私は何を見る事が出来ただろうか。

私が空費していた、あの過去を懐かしく脳裏に浮かべれば、何時しか叢中そうちゅうの思いはしげ薄倖はっこうのへつられた、忘却した感情と拮抗きっこうしていた。

……貪臭い倨傲きょごうだったのかもな、私の歩んだ路程は」


◆◆◆


午前11時半、腕時計の指し示す針は既往流れゆく時をしっかりと刻んでいた。

誰もいない裏路地は終始静まり返っており、遠く空を翔けるヘリコプターがその位置を捉えられることは確実に不可能としていた。

社会の不条理さに憤悶ふんもんを抱きながら、残り30分の時間を見ては外を臨んだ。

正午前のオフィス街、人通りは朝と比肩して寡少しているが、やはり行き交いは存在しており、注意は憶測の中でも必要の限りを見せしめている。

空ではヘリコプターの音は止み、放り捨てられた存在は世界を見計らう。


「……行くぞ、セントラルパーク近くの居酒屋に」


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