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最後の夏のエーデルワイス  作者: 尾久出麒次郎
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第一一話、その4

 あの時と同じだ、妙子は微笑まずにはいられなかった。

 優乃によれば、あの日からも細高のエーデルワイス団は増え続けた。お互い付かず離れずの距離を保ちながら助け合ったりしたという。

「じゃあ、あたしたちって結構好き勝手に動いてたのね」

「どちらかというと単独行動ね、地方大会の後はエーデルワイス団同士で協力し合ったりして……苦労したのよ」

 優乃は今までの苦労を振り返ってるように苦笑すると、妙子は和泉さんという全力でバックアップしてくれる大人がいたことに、自分たちは凄く幸運だったと言える。

 最盛期には三〇にまで増えてメンバーは一六〇人にもなったが先日の隕石群で重傷、あるいは命を落としたメンバーもいて来てる生徒はあの時と同じく、一〇〇人にも満たなかった。

「さあ、始めましょう、エーデルワイス団細高集会を!」

 織部さんはそう言って歩き始めた。クラスでは目立たない大人しい少女だったが、妙子にとってはまるで強い意志を持つリーダーとして成長したようにも見えた。

 彼女の背中は自分のだけでなく、ここにいるエーデルワイス団の仲間たちを背負っているようにも感じた。

「織部さん、なんか一回り大きくなった気がするね」

「うん、きっとあたしたちみたいにいろんなことを見てきたんだと思うよ」

 美由のその表情も夏休み前に比べて、少し自信がついたような表情だった。

 

 優乃によると、八月三一日の夜はみんなで学校に集まろうという提案だった。計画上は夕暮れ前に集まってバーベキューをしたり、花火をしたり、遊んだりして最後の思い出を作ろうという、これにはみんな賛成していた。


「お前たち! これは何の集まりだ!!」


 あの時と同じように、野太い声が広場に響き渡った。

「くそっ……大神だ」

 一輝は小声で呟いた。一輝や零の担任、大神先生が現れた。後ろには高森先生や玲子先生もいる、あの時と同じ光景だったが今回は誰一人、逃げるつもりはない。妙子はキッとした表情で先生たちを見る。



 あの時と同じ光景だと鷹人は一輝と目を合わせ、肯いた。

「あなたたち……こんな時に何やってるの? もうすぐ、夏休みは終わるのよ!」

 それは世界の終わりを意味してる、玲子先生は動揺してるような口調で叫ぶ。

「お前たち、何を考えてるんだ? 何の集会だ?」

 大神先生は苦笑した様子で腕を組んで訊いてるが、目は笑っていない。そして高森先生は厳しい表情で睨むような表情で歩み寄ってくる。

「皆さん、ここで何をしてるかは問いません……でも、いつまで将来から目を背けるつもりですか? エーデルワイス団が、社会にどんな悪影響を及ぼしたか知らないはずがありません……皆さんはこれからどうなさるつもりですか?」

 やつれてるような声だが、覇気は保たれてる。これからどうする? それに答えられる人はいるのか、鷹人が視線を少し動かそうとすると一歩ずつ、確実に砂利を踏み締める音が聞こえる、織部優乃だった。

「先生方。よく聞いて下さい……私たちエーデルワイス団は……九月一日午前〇時を持って……解散します!」

 優乃は凛とした声で担任の高森先生に言い放つと、更に視線を逸らさずに言い放つ。

「解散後は一介の高校三年生に戻り、将来に向けた受験勉強や就職活動を行います」

「それまでに、あなたたちはどうするつもりなの?」

 玲子先生が訊くと、答えられる人間はいるのだろうか? 鷹人は零と目を合わせると肯き合って、一緒に歩み寄った。

「玲子先生、いいえ綾瀬先生……八月三一日の夜、解散前夜祭を行います。その日、学校で開けてもらってよろしいでしょうか?」

「私たち、この夏休みで沢山のものを得て学びました。授業では絶対に得られない、学べないことを……でも、夏休みはもう終わります。解散前夜祭は……私たちなりのケジメです!」

 零も透き通るような声と、毅然とした眼差しで玲子先生と高森先生を見つめる、考えてることは同じだ。一歩も譲るつもりはない、この時しかない今は僕たちのものだと。

「では条件を出します……エーデルワイス団の全責任を持てる大人を、一人でもいいですので今すぐここに連れてきて貰えますか?」

 高森先生の条件にざわついた、でも鷹人は動じなかった。零、妙子、美由、一輝もそうだった、真っ先に気付いたのは玲子先生でエーデルワイス団の全責任を持てる大人がいることを。


「ここにいますよ」


 凛とした声が響き、鷹人は思わず微笑みそうだった。和泉はまるで救世主が降臨したかのように、ゆっくりと踏み締めてハッキリと言葉にした。

「この子達の責任、あたしが持ちます。あたしも、エーデルワイス団の一員です」

 高森先生と玲子先生と対峙するように立つ和泉、緊張した空気が流れるかと思った時、豪快な笑い声が響き渡った。

「ハッハッハッハッハッハッ!! こりゃ傑作だ!! まさか空野、合唱部のピアニストが舞い戻ったかと思ったらこいつらの仲間とはな!! 高森先生、綾瀬先生、私も前夜祭の責任持ちますよ! 目ぇつけてねぇと、何やらかすかわからん奴らだからな!」

 大神先生は両手を挙げて潔く敗北を認めたようだった。すると、大神先生は一輝に視線をやって歩み寄って感慨深そうに笑みを浮かべた。

「三上、お前いい面構えになってきたな! 先生嬉しいぞ!」

「そ、そんなちょっ――先生!」

 大神先生は一輝の頭を豪快にくしゃくしゃに撫でると、生徒たちの何人かが笑うと高森先生は態度を保ったまま肯いた。

「わかりました。空野さん、大神先生が責任を取るなら認めます、但しハメを外し過ぎないように綾瀬先生と私も行きます」

「聞いたあなたたち? これが最大限にできる譲渡よ。くれぐれも近隣に迷惑をかけないようにね」

 それでみんなホッと胸を撫で下ろすと、集会は解散となった。



 和泉はホッと胸を撫で下ろすと、玲子先生は歩み寄ってきた。

「あなた、真島君に託されたの?」

「いいえ、あの子たちに認められたのよ。それに……翔さん、言ってたわ。上の世代に憎悪をぶつける暇があったら下の世代にとって、敬う価値のある人間になろうって」

「そんなこと言ってたの?」

 玲子先生は気さくな笑顔になると、高森先生が歩み寄って質問した。

「まさか空野さん、あなたもエーデルワイス団とは思いませんでした。あの噂を信じてたんですか?」

 和泉は首を横に振って温かい笑顔で、鷹人たちに視線をやる。

「なんとも言えませんわ、あたしはただ……たった一度の青春を全力で過ごそうとする子達が羨ましくて、力になりたいと思っただけなんです」

 そう言うと高森先生は教え子の成長を静かに喜ぶ優しい先生の笑みを浮かべた。

「空野さん、随分丸くなりましたね」

 和泉もかつての担任と笑みを交わす。

「高森先生こそ、昔はアグレッシブだったのにすっかり丸くなって」

「そうそう、昔は綾瀬先生みたいに生徒を追いまわしてたのが懐かしいわ……流石にもう無理はできないけど」

 高森先生も懐かしいそうに微笑むと、玲子先生も懐かしそうな顔になる。

「そうですね、私もよく高森先生によく追いかけられたわ。桐谷君みたいに無茶はできないからよく捕まって絞られたんですよね」

「まさか逃げるために川に飛び降りて無事だなんて……最近の男の子にしては珍しいくらい元気が有り余ってますね」

「ええでも結局、今のエーデルワイス団は誰が作ったかわからずじまいですよ」

 玲子先生の言葉で和泉はふと思い出し、鞄からタブレットを取り出してニュースサイトにアクセスして見せた。

「あの、これを見てください! エーデルワイス団の代表と名乗る人が現れました!」

 画面を見せると、玲子先生と高森先生は驚愕のあまり声が出なかった。



 それは動画サイトの生放送で八月三一日の深夜、代表者と名乗る者が全てを話すという内容で意味深な一文が最後に記されていた。


 エーデルワイスの花が散る時が来た。

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