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最後の夏のエーデルワイス  作者: 尾久出麒次郎
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第七話、その2

 翌朝、鷹人は五時に起きると美由と分担して朝食の味噌汁、鮭を焼き、人数分の納豆を用意すると一輝、和泉、妙子の順で起きてきて、零が最後に起きてきた。

 いつもの二つ結びを降ろして長い黒髪はところどころ寝癖が跳ねていた。

「おはよう、みんな早いね」

「ああ、おはよう零。寝癖、跳ねてるよ」

 ポケーッとした寝起き顔の零はコクリと肯いて洗面台に行くと、美由はさりげなく言った。

「ねぇ鷹お兄ちゃん、今零ちゃんのこと名前で呼んだでしょ?」

「あ……」

 鷹人はしまったと思い、それが顔に出ると妙子は見逃さなかった。

「ヒューヒュー、今日は朝から熱いね!」

「そ、そうだね。今日の最高気温は三六度……今年は猛暑だね」

 鷹人はごまかして言うと、一輝はニヤニヤしながら暴露する。

「またまた桐谷ごまかさなくていいんだぞ、昨日告白してキス寸前までに持ち込んだんだってよ? お前のことだからクサイ台詞で告ったんだろ?」

 鷹人は昨日のことを思い出すと顔から水蒸気が噴出すどころか自然発火寸前まで赤くなり、プルプルと震えていて、足元のデカイクッションを掴んで投げつけた。

「ぼふおぉっ!」

「く、クサイなんて言うなあっ!!」

「やったな鷹人! お前、幼馴染にどんな言葉で恋心をぶつけたんだ!?」

「恥ずかしくて言えるわけないだろ一輝!! あんなのもう一度やれと言われたらやれる訳ないよ!!」

 もう恥ずかしくて恥ずかしくて、女の子みたいに両手で顔を覆いたくなる。妙子と美由はニヤニヤしながら傍観に徹していて和泉も新聞で顔を隠してるつもりだが、絶対笑いを堪えてるに違いない。

 するとリビングの扉が開き、目を覚ました零が戻ってきた。

「あれ? みんなどうしたの?」

「なぁ零、昨日鷹人に――」

 この際口封じに絞め殺してやると言わんばかりに、一輝の背後に回って首絞めにかかって、首を捻り折ろうとする。

「ぐがががががが……ぐいがおれ、ぐいがおれう(首が折れ、首が折れる)」

「こらこらこらこら鷹人君死んじゃうって!!」

 零が止めに入って解放すると、一輝は荒く息する。

「鷹人……これも……翔さんから……教わったのか?」

「まぁね。それじゃみんな朝食にしよう」

 鷹人は涼しい顔で配膳にかかり始め、同時通訳のBBCのニュースを見ながら朝食を食べた。


 持っていく物は昼食の材料に水着、ゴムボート、浮き輪に花火だがランドクルーザーの定員ギリギリで荷物に入るかどうか心配だ。

「さあみんな、ちょっと歩くわよ」

 和泉さんは何を言ってるんだろ? 車はマンションの駐車場にあるはずなのについて行くとマンションを出てしまい、みんなが首を傾げた。ランドクルーザーとは別の車なのかと鷹人は考えると、大当たりだった。

「みんな、これに乗って行くわよ」

 和泉が指す先にあった物に、みんな驚きを見せる。

 キャンピングカーだった。しかも定番であるが夢のまた夢とも言えるキャブコンタイプで一輝は目を輝かせていた。

「スゲェ! キャンピングカーだ! これで行くんですか和泉さん」

「そうよ、さあ乗って!」

 和泉はドヤ顔でキーのスイッチを押して開錠すると、鷹人はキャンピングカーに乗って車内を見回しながら適当な場所に座り、妙子、美由、一輝も続くと和泉は運転席に座る。

「さあみんな、出発するわよ!」

 

 そして一向は六時頃にキャンピングカーに乗って出発、国道3号線を南下してJR富合駅付近の交差点で右折して海に向かって進む。島原湾に面した国道57号線では途中、JR三角線の線路と合流して網田~赤瀬間まで並走した。

 国道266号線、通称:天草パールラインに入って上天草市へ、大矢野島を縦断すると松島有料道路を経て国道324号線に入った。再び海沿いを走って再び国道226号線に入ると天草市を斜めに縦断、ようやく茂串海水浴場に到着。

 途中休憩も入れたから片道三時間以上はかかり、最初の一時間はみんなでワイワイ話していたが、和泉を除いて車の中で寝てしまった。


 鷹人もいつの間にか涎を垂らして寝てしまい、一輝に起こされて目が覚めた時には到着していた。

「着いたぜ鷹人」

「ああ、他のみんなは?」

「まだ寝てるよ、なかなか起きねぇ」

 一輝は口元を引き攣らせていて周囲を見回すと、零はポーッとして起きたが、妙子はグースカ、美由はスヤスヤ寝ている。

「ここは和泉さんに任せて先に行って用意しとこうぜ」

「そうだね」

 一輝の言うことに肯いて鷹人はキャンピングカーを降りた。

 水着に着替えて海岸に行く、鷹人はドキドキが止まらず緊張しながら浮き輪やゴムボートを膨らませてると、一輝は笑みを浮かべながらビーチボールを膨らませている。

「どうした? 大丈夫かお前、やっぱり零の水着姿が楽しみだろ?」

「ああ、正直言ってな……もう一つ気になるけど君は何でブーメランパンツなんだ?」

「その方が開放的で気持ちがいいだろ」

「それ……捉え方によっては危ない発言になるぞ」

 鷹人は苦笑する。一輝は黒のブーメランパンツで引退したとはいえテニスで無駄なく鍛えた肉体を惜しみなく披露し、顔立ちもいいから逆ナンされても不思議ではない、だが恥ずかしがる様子もない。

 因みに鷹人は無難な紺色のトランクスタイプを穿いている。

 ビーチボール、ゴムボート、浮き輪を準備したがその時点で汗だくだ、直射日光に直接肌に晒されてしまえばこんがり日焼けする。

「ヤッホー! お待たせ!」

 妙子の声がして振り向く。

 ピンク色のフリル付きセパレート水着を着ていて、上がタンクトップタイプだ。幼げな顔立ちと相まって可愛らしいが、ものの見事にフラットトップレシーバーな胸で、おませな小学生に見えてもおかしくない。

「二人とも、膨らませてくれてありがとう」

 美由はビーチパラソルを持ってきてくれた。

 水色のモノキニのワンピースタイプで、発育もそれなり良い。四肢は意外と鍛えられてスポーツしてるのかと思われてもおかしくないほど引き締まってる。背中は大胆に露出させていて、翔お兄さんが見たら悪い虫がつかないか顔を顰めそうだ。

「二人とも、お待たせ! ほら零も!」

「待ってよ、お姉ちゃん!」

 和泉は普段のロングポニーテールを下ろして黒髪ロングで零より長いんじゃないかと思う。大胆にも黒ビキニでスタイル抜群な大人の色気をふんだんに醸し出していて、一輝は思わず目を見開き、口を「あっ」と開けてる。

 鷹人はまさかと思って訊いてみた。

「一輝、まさか……」

「ああ……ドストライクだ」

 一輝は不敵な笑みを浮かべる、正直だ! 年上好きだったのかよ! まあ……最後の夏だと鷹人はただ一言送った。

「幸運を」

「ありがとう、でもそのまま返すぜ」

 その意味はもう十分に分かっている、鷹人はもう既に心臓がバクバクで過熱して爆発しそうだった。

「何言ってたの?」

 零は無邪気な笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。

 女子生徒にしては背は高いが和泉を除いて一番胸も豊満で、グラビアアイドルにでもなれそうだ。と鷹人は頬を赤らめる。白の紐ビキニというシンプルだがその分インパクトは強烈で刺激的、鷹人は一歩後に下がり零はそれを見逃さなかった。

「見惚れてる?」

「まあ、うん」

「鷹人君のエッチ、顔真っ赤だよ」

 ニカッと笑みを浮かべながら零は鷹人の頬をプニッと指で突いた。

「さあてみんな、泳ぐわよ!」

 妙子は海へと駆け出し、水しぶきを上げて飛び込んだ次の瞬間。

「冷たあああぁぁい!」

 悲鳴を上げながら上がってきてブルブル震える、準備体操したか?

「海水浴は初めてか? 準備運動も兼ねてこいつで遊ぼうぜ」

 一輝の提案でビーチボールで遊ぶことにしよう。

 妙子はブルブル震えながらも、一輝が飛ばしてきたビーチボールをトスして美由に渡すと、美由もトンと零に渡した。



 体が温まり、海に入るとやっぱりプールとは違って海水は冷たい、でもプールに入ったのは中学の頃の授業だった。最後に海水浴をしたのは確か……中学で沖縄に行った時だった、と零は思い出す。

 シュノーケルを装着して潜ると、外海ということもあって透明度は比較的高く、カラフルで小さな魚も多くいる。少し深い所まで来ると、沖のほうに鷹人がフィンを装着して泳いでいる。

 海面に出ると、大きめのゴムボートに妙子と美由が乗っている。

「零ちゃん見て見て! 桐谷君が面白いことするの!」

 すると妙子が自分を見つけると大袈裟に鷹人に指を差す、どうしたんだろうと思いながら目をやると鷹人は深く潜って勢いよく浮上。上半身が海面に飛び出し、そのまま水しぶきを上げて倒れこむ。

「なにあれ?」

「クジラの真似だって、ほらメスへの求愛行動とかの」

 美由が言うと零は思い出して苦笑した、まさかね……鯨の真似をする鷹人は間抜けに見えたが、結構動きは忠実に再現されていて隠れた特技かもしれないと思いながら近づくと、妙子はニヤニヤしながら茶化した。

「近づいたらムラムラした桐谷君に襲われて、そのまま交尾するかもしれないわよ」

「変なこと言わないの!」

 落としてやろうと妙子の腕を引っ張ると、妙子はボートの紐に捕まったまま引きずり込まれ、バランスを崩して派手に転覆した。

「大丈夫!?」

 すぐに鷹人が泳いでくると、転覆したボートの紐を掴んで縁に立ち、思いっ切り引っ張って立て直した。



 それを一輝は浜辺で見ていた、和泉の背中にサンオイルを塗りながら。

「おお、あいつすっげえ、一瞬でボートを立て直しやがった」

「あら、鷹人君どこでそれを習ったのかしら?」

 和泉もサングラスを外して眺めていた。

「それより悪いわね、サンオイル頼んじゃって泳がないの?」

「いや、いいっす……それと和泉さん……髪、下ろした方が素敵ですよ」

 一輝は頬を赤らめながら率直に言うと、和泉は微笑む。

「大人をからかわないの」

「からかってないっすよ俺」

「もう、純情ね……」

 一輝はそう言われて、あしらわれたような気がした。

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