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短編集

彼女は完璧を求める

作者: 月宮 柊

 私の友達は完璧主義者だ。

 彼女は今恋をしている、年上の人に。

 ある日ふと暗く落ち込んだ声で彼女がポツリと呟いた。


 「完璧な人間になりたい……」


 ちょうどお昼休みの騒がしい教室、その声は危うく聞き逃しそうになった。口に含んでいたお弁当のオムライスを吹き出しそうになる。


 「き、急にどうしたの?」

 「好きな人に聞いたんだ、この間、どんな人が好みですかって」

 「それで?」

 「完璧な人って言われた」


  口をへの字にして彼女は私に言った。


 「完璧な女の人ってどんな人だと思う?」

 「うーん、家庭的で、優しくて……」

 「どれも当てはまらない」


 深刻な顔でそう言った彼女、また思いつめてそうだ。


 「大丈夫だよ、完璧な人間なんていないから」

 「こんなんじゃあ、嫌われちゃう……」

 「そんなことないって」

 「だって、私、可愛くないし、性格悪いし……いいところなんて一つもないよ」

 「そんなことない。可愛いし、優しいじゃんか」


 それは私の本心からの言葉だった。

 しかし、そんな私の言葉は彼女には届かない。


 「あー……死にそう」

 「死なないでー」

 「整形したいなあ……」

 「え?」

 「ねえ、整形した人ってどう思う?」


 正直、整形にあまり良い印象はもってはいない。親からもらった大事な顔を変える、私もあまり可愛い方ではないが整形したいとは思ったことがなかった。

 だから、私は彼女を止めることにした。


 「……やめた方がいいんじゃないかな」

 「どうして?」

 「親とかに怒られるよ」

 「どんなに反対されても整形したい、こんな顔じゃ生きていけないよ」


 私は彼女の顔を整形する必要はないと思っている。

 しかし、何を言っても彼女は聞かない。


 「周りの子達はあんなに可愛いんだよ?負けちゃうよ」


 その日の会話はそれで終わった。


 また別の日、彼女は朝から暗い顔をしていた。


 「どうしたの?なんかあった?」

 「私、先生に嫌われちゃったかも」

 「なんで!?」

 「ここ全く会話してないし、今までも数えるくらいしかしてない、楽しそうに話しているのを見ていると嫉妬する、もうこんな自分嫌だ」


 その日もまた私は同じ言葉しか言えないのだ。


 「大丈夫だよ」




 大丈夫だよ、完璧な人間なんてこの世に存在しないから。

 どんなに美人でもかっこよくても、性格が良くても頭が良くても欠点がない人なんていないよ。

 逆に言えば皆良い所もあるんだよ。自分にしかない良い所が。

 もっと楽に生きてもいいんだよ、人生長いんだから、そんなに思いつめると疲れちゃうから。


 壊れる前に考えてみて。

 これから先もっといい出会いがあるかもしれない、今恋している人よりずっといい人に巡り会えるかもしれないよ。だって男の人はあの人だけじゃないからね。


 だから、そんなに思い詰めないで。

 整形なんてしなくてもそのままでいいよ、ありのまま生きようよ。

 完璧なんて求めなくていいよ、そんなロボットみたいな人間なんて怖いでしょ?


 酷なこと言うかもしれないけど人間は完璧にはなれないと私は思うよ。


 でも、こんなこと彼女には言えない。


 だから、私はいつものように言うんだ。


 「大丈夫だから、そのままでいいと思うよ」


 自分でも何て無責任な言葉だろうって思う。だけどごめんね、私にはこれを言って少しでも彼女が楽になるのを願うことしかできないんだ。

 だって私には人を変えられるほどの力はないのだから。








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― 新着の感想 ―
[一言] 失礼かもしれませんが、彼女に可愛いなぁと思ってしまいました。 教室でお弁当を食べて、真剣に悩む…学生らしくてなんだか懐かしいです。 完璧主義者は大変ですよね。私も完璧というと違うかもしれま…
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