挿入
あなたは……誰?
燃え盛る街の中で少女は少年にたずねた。たずねられた少年はしかし、その問いに答えることは出来ず、ただはあはあと喘ぐばかりであった。
「ねえ、なんであなたはこんなところにいるの?」
少女は語りかけるが、少年はやはり答えられない。少女はその後も質問を繰り返していたが、なにも答えない少年に飽きたのかその場を離れ、燃え盛る街を去っていった。
お父さん、お母さん、どこにいるの……? 少年はただひたすらにそれだけを考え続け。そして―
1
今日も良い天気だ。レーベはそんなことを思いながら一人旅の途中で立ち寄った商業都市フロウスを歩いていた。あてもなく旅をしているわけではなく、一応目的といえるものはある。しかし目的はあってもどんなことをすればそれを達成できるのかは当人ですらわかっていない状況であり、どうすればいいのかを考えつつ気ままに世界各地を彷徨している。
人通りが少ない小道から、人がひしめき賑わっているいる大通りに出たレーベは、その道の中ほどで騒ぎがあるのを目にし興味をもったが、人が多すぎて近づくこともままならず、近寄ることを諦めて大通りを進み続けた。
レーベの恰好は麻のシャツに麻のパンツ、それにマントと旅人としてはごくごく普通なものである。唯一特徴となるものは腰に佩いている巧緻な意匠の長剣であるが、それも例えば、レーベが歩を進めている大通りを見渡せば長剣を帯剣している人間は数え切れないほど存在し、特筆すべきものでもないだろう。体型も中肉中背、容姿も、あまり高くない鼻、黒の瞳、不潔というほどでもないが手入れをしているともいえない黒髪と、本当に目立たない見た目である。
そんなレーベであるが、全くの凡人であるかといえばそうでもなく、多少なりの剣才は持ち合わせている。独学で学んでいたので荒削りな部分があるが、実力は並みではない。それを活かすための長剣であり、そしてなぜ剣の才能を必要としているかというと、およそ百年前から「金属傀儡」と名付けられた、怪異と呼ぶにはあまりにも機械的な怪異が存在するからであり、この「機械傀儡」を倒すためだけにレーベは剣を学んできた。
大通りを進んでいるレーベであったが、自分はなにをしているのだろうかと考えだし、半ば意識を現実世界から自分だけの世界へと移していた。人の多い通りではあったが特にぶつかるようなこともなく淡々と進み続けた。大通りを抜け、フロウスの外の草原に出たところで日が落ち始めてきたので、レーベは寝る準備を始めようとした――が、そこでレーベは金属の擦れるような不快音を聞き、そして。
また現れたか……いったいどこから、なんのために来るんだか。いや、理由なんてどうでもいい。これが俺たち人間に危害を加えるというのならただ倒すだけだ。
腰に佩いている剣を抜き、その動作のままに異形――機械傀儡を逆袈裟の一刀で斬り伏せる。
あまりにもあっけなくついた決着だが、少しでも加減して倒し損ねたていたら、逆にこちらがやられていたかもしれない。いくら楽に倒すことが出来たとしても油断は出来ない。それが機械傀儡というものだ。
それにしてもここ最近、機械傀儡の発生率が異常な気がする。昔はもっと少なかったのではないか。少なくとも街に至近の場所で出たなんて話はほとんど聞かなかったはずだ。なぜこんなことになっている? なにが原因だ?
考えてもらちが明かないと悟り、改めて寝床の整備に取り掛かる。持っていた荷物袋から、2エルほどの色あせた黄土色の大きな一枚布を取り出し地面に敷き、そこに寝転がる。そして目をつぶり、今日の出来事を振り返る。
機械傀儡、今日も出たな。寝てる時に出なきやいいんだけどな。出たら出たで倒すだけ、か。いつになったら俺はあいつを――