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命刻の治癒術師  作者: 瀬乃そそぎ
第一章 神と魔術師 God_and_Extremer
6/26

第5話 『ツンデレ』

何となく盛り上がってくるところまで早く投稿しちゃいたくなったので。

本日も連続投稿したいと思います。

19時から一時間毎です。

   4




 その性質上、絶対に魔物が入ってこない草原。決して広くないその草原は、血によって赤く染められていた。生えるた青草は真っ赤に濡れ、ちょっとした沼が出来ている。


 そんな惨劇地味た光景を作り出したのは一人の少年と、魔道の乱れによって発生した魔獣だ。

 しかし今、草原にあるのは二つの人の姿だった。



「久しぶりに来てみればアンタは血塗れだし、よく見れば血溜まりは出来てるし、魔獣に殺されそうになってるし。思わず全力で殺しちゃったじゃない」



 黒と赤で彩られたコートを羽織った、輝く金色のロングヘアーと碧眼が特徴的な美少女だ。スタイルの良いモデル体型で、出るトコロは出てて引っ込むトコロは引っ込んでいる、理想的な体格と言えるだろう。そして何より、目を疑う程の美少女。



 ラウラ=ヴィリアン。

 オルフェリス=ウォーカーの幼馴染であり、術式『炎熱の舞』を操る魔術師で『炎姫』(エクストリーマー)の異名を関する少女だった。



「……ラウラ、お前まさか」


「な、何よ」



 ラウラはオルフェリスの姿を見て、無事な雰囲気(、、、、、、)を漂わせているのを感じてホッとした表情を見せると、ツンツンとした口調で聞き返した。

 対して座り込んだオルフェリスは心底驚いた顔で、



「――心配して、急いで助けに来てくれたのか?」


「バ、バッカじゃないの!? べ、別にアンタが心配で急いだんじゃないし!? 私はただ視界に魔獣が入ってきたから、冒険者としての務めを果たしたまでよ!」



 腕を組み――無意識だろうが大きな胸を持ち上げるようにして――そっぽを向くラウラを見て、オルフェリスは苦笑しながら、



「だよな。いつもツンツンしてるお前が俺を心配なんてする訳ないか」


「うっ、いや……その……」



 心の底からそう思って言ったオルフェリスの言葉を聞いて、逆にラウラがたじろいだ。

 そんな様子に気づかずに、ゆっくりとした動作で立ち上がったオルフェリスはラウラに聞いた。



「で、何でいきなりコッチに来たんだ? 依頼か何かで?」


「……違うわよ。最近、リンシアの町付近で魔物が大量に増えてきているって言う噂を聞いたから、ボランティアで討伐に来てるの。私の故郷だしね。お金を貰って助ける何て真似しないわ」


「魔物が増えてる……? そっか、雇われの冒険者の朝が遅いのはそれが関係してんのか」



 魔物が多ければ、それだけその身に降りかかる威圧は高まる。戦場では常に死と隣り合わせだ。隙を突かれてアッサリと死に至るなんて事もザラではない。



「そ。それでようやく町が見えてくるって所でアンタが血塗れになってるから――フェリス、本当に大丈夫なの?」


「な、何がだ?」


「いや、アンタ凄い顔色悪いわよ?」



 ラウラの指摘を受けてドキッとしたフェリスは、表情に笑顔を浮かばせて答えた。



「そうか? いや、多分それは魔獣に殺されかけたからだろ。無力な少年が魔獣を前にビビらないはずがないじゃん?」


「……ふーん。で、この血溜まりは誰が作ったの?」


「っ」



 それについては誤魔化しようが無い。先程ラウラが倒した魔獣は血を流さずに消えていったし、この草原は本来、その性質上魔物が近寄ってこない安全地帯だ。魔物を倒して血溜まりが出来たと言う言い訳は使えない。かと言って、ここで誰かが血を流すような出来事が起きたと言うのも難しい。



 全て自分の血だ、と言う真実を伝えるのも憚られる。

 そこで、弱った思考を働かせて悩むオルフェリスにこれまで黙っていたエルシアの声が届いた。



《フェリス、出来るなら我が治癒神だと言う事は言わないようにして欲しい》



 思った通りの頼みに小さく頷いたオルフェリスは、しかし策が思いつかずに苦悩する。



「ど、どうしたのよ……やっぱり体調悪いんじゃ……?」


「いや! 違うんだよ。えーと、そう。これ実は全部俺の血なんだ!」


「はっ!?」


「いやー遂に俺の時代が来たっていうかさ。そう、治癒系の力を持った『使い魔』を手に入れたんだよ!」



 咄嗟に思いついた出まかせを壮大い解き放った。

 使い魔とは主に魔術師が使役する、絶対的な主従関係で成り立つ対象を指す。

 今オルフェリスは、神であるエルシアを『使い魔』と言う言葉で誤魔化したのだ。



 ここら一体に溜まった血が全てオルフェリスのモノだと聞いて、ラウラは表情を固くして心配げに眉をひそめたが、次の言葉を聞いて納得したように頷いた。



「そういう事ね。つまり、その使い魔に治癒してもらったからもう大丈夫だと。こんなに血を出すなんて、一体どんな怪我したのよ。それにしても、よく死ななかったわね」



 オルフェリスの様子を見て大丈夫なんだと判断したのだろう、少し表情を緩めてからかってくるラウラ。

 使い魔作戦は余裕で成功した。



「いやいや、俺の使い魔が凄くてさ。痛みなんて感じる間に治療してくれたからへっちゃらだよ」


《ふぇ、フェリス! 神だとは言わないで欲しいと頼んだが、つ、使い魔って……》


「(大丈夫だって。シャイな性格してるから表に出て来ない設定にしとくからさ)」


《そういう問題――ッ!?》



 やっぱり神様を使い魔扱いするのはまずかったかな、と思いつつ、やっぱり態度軽すぎかな? と今までのやり取りを思い出したオルフェリスだった。



 そうは言っても、使い魔を使役するには才能もしくは膨大な努力が必要になってくる。切り傷を治す程度の力しか扱えないオルフェリスが、『才能』で使い魔を使役出来るようになったと考えるのは少々難しい所があったが、彼の努力を知っているラウラは疑うこともせずに信じていた。



 なにより目の前に広がっている状況が十分な証拠として働いている。

 そんな使い魔の事を絶賛するオルフェリスの言葉を聞いて興味が湧いたのか、ラウラが目を輝かせて――やはり魔術師は魔術的な事象への探究心は強かった――頼む。



「へえ、そんなに凄いんだ。そんな凄い使い魔なら私も一目――」


「いやどういう訳かこの子凄い人見知りで顔合わせたくないって言ってるんだごめんな」


「早い!?」



 まるで用意していたかのような長ゼリフを即答されて驚くラウラ。しかしオルフェリスはそんな事気にした様子も見せず、



「ま、こんな所で立ち話もなんだし、町に戻ろうぜ? 黒鹿亭来るだろ?」


「あぁ、うん。でも私、この後すぐに魔物掃討しに行くから、話をするとしても夜になると思うわよ?」


「……夜、か。こっちとしても、助かるよ」


《……、》



 歩きだしたラウラの背中を追って一歩踏み出そうとしたオルフェリスは、石に躓いて倒れそうになるところでギリギリ踏みとどまった。

 そっと視線を上げ、ラウラが気づかずに歩いていることに嘆息した彼は、赤く濡れた白い髪を払って歩きだした。



 その後、遅れてやって来た雇われの冒険者に、『炎姫』(エクストリーマー)の「遅い」と言う怒号が降り注いだことは言うまでもない。






「それにしても、やっぱりラウラの魔術は凄まじいな。『炎熱の舞』だっけ。『炎姫』(エクストリーマー)、炎の姫だなんて呼ばれてるくらいだもんな」


 オルフェリスが思い出した様にそう言った。

 今オルフェリス=ウォーカーとラウラ=ヴィリアンが歩いているのは、血濡れの草原から町へと続く正道だった。と言っても、辺りを見渡してもまだ草原は広がっている。



 視界の先にリンシアの町が見えてきた事で息を漏らすオルフェリス。彼の言葉を受けたラウラは大きな胸を張って誇らしげに、



「当たり前でしょ。私は子供の頃から魔術を叩き込まれてるから、身体がそう言う風に出来てるのよ。魔力は使えば使うほどその総量を増やす。子供の頃は特にね。それに私の両親は立派な魔術師で――あ」



 そこまで言ったところで不意にラウラが言葉を中断した。視線だけで、隣を歩くオルフェリスの顔色を伺う。

 力のない苦笑を浮かべて歩いていた彼は、ラウラの視線に気が付くと曖昧な苦笑を笑みに変えて、



「いや、気にしなくていいって。もう、大丈夫だから」


「……フェリス、明日は私、あの場所(、、、、)に」


「おう。それなら俺も一緒に行くよ」



 ラウラの言葉でそれが何処の事を指すのか理解したオルフェリスは、彼女に賛同して両手を頭の後ろで組む。



「でも、やっぱり魔術って格好良いな。剣もイイけど、火とか水とか雷とか、そういうのを自在に操る魔術もイイ。せめて『汎用』の術式くらいは使えれば良かったのになー」



 そんなオルフェリスの声音が先程とは違う明るいものに変化したのを感じ取り、ラウラも話題に乗る。



「フェリスは今でも剣の修練続けてるんだったわね。どうなの、調子の方は」


「調子って言っても、腕を試す様な相手はいないしな。冒険者の人に頼もうにも、俺みたいな奴がーとか、仕事の邪魔になるーとか考えちゃうわけで」


「ネガティブなのは変わってないのね。……『汎用』、魔術関連店とかで売ってる教本に載った術式なら、本当に努力すれば多分誰だって出来る様になるわよ?」



 魔術はおおまかに分類すると三つ存在する。

 一つ、『先天術式』。ロエルやノエル、オルフェリスの様に生まれた時からその身に宿っていた術式の事を指す。発現時期、効果、効力には個人差が存在し、全く同じ『能力』を持つ者は存在しない。



 次に、『汎用術式』。大抵どの街にも展開されている魔術関連店にて販売される教本等に記載された、効果が確定された術式。効力は魔術師の力量次第だが、どのような魔術――例えば、火の弾を放つ、雷撃を落とす等、効果が固定されたものだ。



 最後に、『固有術式』。生まれ持った術式でも、汎用的に扱われる術式でもない、魔術師本人が独自に編み出す術式の事だ。ラウラの『炎熱の舞』も固有術式である。



 中でも最も難易度の低い――先天術式に難易度は存在しないが――のは『汎用術式』であるが、どういう訳だかオルフェリスにはソレが一切使えない(、、、、、、)


 いや、使える兆しが見えないの方がより厳密か。



 独自に術式を編み出そうとしても、先天的に持った治癒の力しか使えた(、、)試しが無く、どのような感覚なのかさえ掴めないため、不可能と言う結果に終わっている。



 それ故に、


「その努力の道が俺の場合すんげー長そうなんだよな」


「魔力に関しては問題ない――むしろ魔術師の中でも上位に食い込む位あるんだから、絶対に出来ると思うんだけどね」



 魔力の量=魔術の才とは成っていないが、魔力が多い魔術師は比例して魔術の威力も高い。『炎を生み出す』と言う簡単な術式でも、使い手次第でその規模は大きく異なるのだ。魔力量や術式演算の精度が高い者ならば大きく強く、逆に魔力量、演算精度共に劣っているものは小さく弱くなる。



「魔力が多いのは両親からの贈り物だよ。これで『枯渇病』とかに掛かっても少しは長く生きられるさ」



『枯渇病』。

 所謂いわゆる、持続的に身体から魔力が奪われていき、枯渇する事によって命を落とす病の事だ。

 魔力に関する『病気』は恐ろしいものが多い。枯渇病もそうだが、最も恐れられている病で『死病』と言うものまで存在する。



 枯渇病の上位種であるソレは、掛かれば必ず絶命する。治療方法は、今の所見つかっていなかった。

 ラウラはオルフェリスの言葉を聞いて溜め息を付きながら、



「違いって言っても二日や三日でしょ……」


「その差が運命を左右するかもしれないんだぜ」



 そんな軽口を叩き合っている間に歩を進めた二人は、気がつけば町の入口に立っていた。



 殆どが石造りの建物で、規模はそれほど大きくはない。元々住んでいる人数も決して多くはないため、建物の数も少ない。どこか質素に見える、リンシアはそんな町だった。

 久しぶりの故郷を見たラウラは視線をキョロキョロさせながら、



「んー! やっぱり何も変わってないわね。最後に来たのはいつだったっけ?」


「一年前だよ。ホラ、ロエルとノエルに『魔力隠蔽』(スペルハイド)の力が発現したからって、見て何か分かる様なもんじゃないのに会いに来たろ」


「そう言えばそんな事もあったわねー。ロエルちゃんとノエルちゃんは?」


「あー、うん。元気だよ、きっと」


「きっと?」



 視線を逸らして頬を掻くオルフェリスの歯切れの悪い言葉を聞いて首を傾げたラウラは、そのことに追求しようとして第三者の声に遮られた。



「「お兄さん!」」

 

 声を揃えた二人の少女が前方から走ってくる。藍色のポニーテールとツインテールを揺らし、心配した表情を浮かべた彼女達は、血塗れのオルフェリスを見て息を詰まらせた。

 無理もないだろう。



 オルフェリスが着ていた真っ白いコートやズボン、そして白い髪の全てが赤く染め上げられているのだ。

 オロオロとした動きで手を伸ばしたノエルが、オルフェリスの右腕を触った。



「お、お兄さん、大丈夫なの……? 全身、血塗れだし……その右腕……」


「え!? い、いや、全然大丈夫だよ。平気平気! どこにも傷だってないしさ!」



 やっぱり、コートの袖が不自然に破けているのは誰でもおかしいと感じるか、と思いつつ、ラウラは何も言ってこなかったな、と横目で金髪少女を見る。

 オルフェリスの視線に気が付いたラウラが、「なによ」と小さく頬を膨らませたのはスルーして、彼は二人に告げる。



「二人共、本当に怪我は無かったか?」


「はい。あの時、お兄さんが助けてくれたおかげです! あのままだと私達、魔獣に殺されてました! 本当にありがとうございました!」


「ありがとう、お兄さん。格好良かった」



 ロエルとノエルがそれぞれ頭を下げるのを見て、両手を振って苦笑したオルフェリスは、その手を二人の頭の上に置いて優しく撫でる。



「いいって。二人が無事で、助けられて良かったよ。……それと、あの魔獣はこの『炎姫』(エクストリーマー)こと、ラウラ=ヴィリアンが倒してくれたんだぜ」



 賞賛の方向を変えるべく、オルフェリスは壮大な雰囲気でラウラの武勇伝を二人に伝えた。

 思わぬ振りに一瞬目を丸くしたラウラは、照れくさいのか薄ら頬を染め、



「……ぼ、冒険者としての仕事をしただけよ。当たり前だわ」



 小さな声でそう言った。

 そんな彼女の言葉を聞いて目を輝かせたロエルとノエルは声を揃えて、ラウラに抱きついた。



「「ラウラお姉ちゃん!」」


「久しぶり。ロエルちゃん、ノエルちゃん」



 飛びついてきたロエルとノエルを抱きしめたラウラは、ゆっくりと二人を降ろしてその頭を撫でる。



「元気にしてたー?」


「「うん!」」


「二人が元気だったら私も嬉しいよ」



 女同士で仲良く笑って話している様子を見ていたオルフェリスは、その表情に苦笑を浮かべていると、中にいるエルシアに茶化された。



《なんだ、少女二人に嫉妬か?》


「バーカ、そんなんじゃないよ。……二年前から、アイツは俺の前であんまり笑わなくなったからな。まあ、ラウラと会う機会なんて、アイツがコッチに来た時くらいしかねーけど」


《……、》



 数分間笑いながら近況を話したりしていた三人だったが、ラウラがチラリとオルフェリスを見て待たせている事に気が付き、話を終わらせた。



「じゃあ私逹、黒鹿亭に行かないといけないから。また今度ね、ロエルちゃん、ノエルちゃん」


「「うん! ラウラお姉ちゃん!」」



 笑って声を揃えた二人は、背中越しに手を振って自分の家の方へと走っていった。

 そんな姿を見ていたラウラはホッコリした顔で言う。



「うふふ、ロエルちゃんもノエルちゃんも可愛いわね」


「手出すなよ」


「だっ、出さないわよ!!!」


「おくたヴぃあぬすっ!?」



 横から平手打ちされたオルフェリスは、回転しながら吹っ飛んで目を回した。




 ロエルノエルの双子と別れた二人は、すぐに黒鹿亭に向かった。

 黒鹿亭なんて名前をしているのだから、外壁も黒いんではないかと思わせるが、実際は白い木材の外壁に茶色い屋根のシンプルな造りの建物だ。泊まりに来る客は基本多くないので規模も小さい。

 扉を開けると何やら作業中のリンディが、オルフェリスの姿を見て目を見開いた。



「フェリス!?」


「あーうん。魔獣の返り血だから大丈夫だよ」



 ラウラに流し目を送って牽制しつつそう言ったオルフェリス。

 その言葉にホッとした様子を見せたリンディは、



「そうか、ビックリさせるんじゃないよ。ラウラちゃん、久しぶり。泊まりかい?」


「はい。お願いします」



 簡単な手続きをしたラウラは、リンディに部屋のナンバーを教えられて背中を見せる。教えられた部屋に荷物を置いて、数分で戦闘用の霊服に着替えて廊下に出てきた。



 赤と白がメインで彩られたバトルドレスの上に、黒いコートを羽織る。腰のベルトには事前に『炎熱の舞』の術式を施した白い筒状の棒が吊るされていた。このリンシアの町付近にはそれほど強力な魔物は出ないため、魔力に困るなんて状況には陥る事はないだろうが、念の為だろう。



 彼女は部屋の前で待っていたオルフェリスを見て、



「フェリス、アンタこの後の予定は?」


「ちょっと疲れたから、部屋でゆっくりしてるよ」


「……そう、分かったわ。じゃあ私は町の人に軽く挨拶して外に出てくる」


「気を付けろよ」



 オルフェリスの言葉に手だけで返したラウラは、そのまま階段を降りて宿を出た。



 それを最後まで見送った彼は、フラフラとした足取りで自室の前まで歩き、ドアノブに手を掛けた。

 力を感じられない動作で押し開き、一歩入った後で――





 気を失った彼は、前屈みに倒れそうになった所をエルシアに支えられた。





「おっと」



 金色の光を振りまきながら実体化――神懸りを解いたエルシアは、柔らかくオルフェリスを抱きとめて、母親が息子を見るような優しい表情を浮かべた。



「心配を掛けさせない様に気丈に振舞う。草原にいた時点で限界だったというのに……」



 ない元気を振り絞って、心配させぬべく笑っていたオルフェリスは、部屋に入った所で気が抜けたのだろう、一瞬でその意識を手放した。

 思えば、エルシアが現れる前に大量の血を失った時には、彼に立ち上がる力なんて無かったはずだ。



 治癒神エルシアがオルフェリスに施したのは、今の所『不傷』の力のみだ。軽い貧血状態と、身体を蝕む激痛に耐える事が出来る様になる力なんて与えていない。

 となればこの結果は、彼のメンタルが強かった故のものだろう。



「――お疲れ、フェリス」


 血に濡れた頭を胸に抱いたエルシアは、彼の耳元で優しく囁いた。



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(4/26)魔術についての描写追加

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