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フェアリー・ブレード  作者: 粟吹一夢
第一章 亡国の皇女と封印された魔王
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第二話 亡国の皇女

「ナーシャ! てめえ!」

「何?」

「何が二十匹くらいだよ! どう少なく見積もっても百匹はいるじゃねえかよ!」

「まあまあ、豚獣人オークが相手なら二十匹だろうが、千匹だろうが関係ないでしょ?」

 千匹いても二十匹と言うつもりだったのかよ!

 ナーシャは、もう自分の役目は終わったとばかり、俺の頭の上に浮かんでいた。

「おい!」

 俺の背後にいた三人に声を掛けた。

「晩飯に葡萄酒も追加だ!」

「分かりました!」

 三人の中の主人筋と思われる金髪の女が躊躇ちゅうちょなく答えた。

「契約成立だな!」

 俺は背中の剣を抜くと、豚獣人オークの群れに突進して行った。

 豚の顔をした獣人オーク達は、手にしたハンマーや鎌を振り回して来たが、所詮しょせんは数を頼りにしている連中で、俺は一方的に切りまくった。

 これだけいると、俺をスルーして三人に向かって行く奴もいたが、騎士らしき男がランスを振るって、その女主人である金髪の女に豚獣人オークが近づいて来るのを防いでいた。

 もう一人の女は黒いローブをまとい、被ったフードで顔は見えなかったが、やはり、金髪の女を守るように、その前に立っていた。

 単に豚獣人オークを切り刻むだけのお仕事を、あっという間に済ませた俺は、背中に剣を収めて、三人に近づいて行った。

 戦いの間、ずっと空で高見の見物をしていたナーシャも降りて来て、俺の隣に立った。

「大丈夫か?」

「お陰様で。どうもありがとうございます」

「俺はアルスだ。賞金稼ぎの剣士ってところだ」

「私はイルダと申します」

 深々と頭を下げてから、頭を上げたイルダの顔に俺は見入ってしまった。

 金色の長い髪に大きな青い瞳が輝く顔立ちは、まだ、少女の面影を残し、清楚で可憐な雰囲気を漂わせていたが、凜とした表情からは、高貴な生まれだと確信できた。

 足元まである白くゆったりとした袖無しのドレスと、ドレスと一体となっているマントを白い肌にまとい、足元は素足にサンダルを履いていた。ベルトには、質素なデザインであるが「鍛冶屋が良い仕事をしている」と分かるナイフをぶら下げていた。

「こちらは、魔法士ウィザードのリゼル、そして従者のダンガです」

 リゼルと呼ばれた女がフードを下ろして、俺に会釈をした。

 肩まで伸びた赤毛に黒褐色の肌、左が青、右目が赤のオッドアイで、女にしては背が高い全身にフード付きの黒いローブを着て、足元にはイルダよりは質素なサンダルを履いていた。

「なかなかの腕前じゃ! まるで昔の儂を見ているようじゃったわい!」

 俺と同じくらいに背が高く、立派な体格ガタイから大きな声を出すダンガと呼ばれた初老の男は、白髪と立派な口髭の白さが褐色の肌で目立っていた。体全身にはくすんだ銅色の鎧をまとい、足元も同じ材質のブーツを履いていた。そして背中には、おそらく、この一行の荷物が入っていると思われるトランクを背負っていた。

「あんたも歳の割には良い動きをしてるじゃねえか。それに魔法士ウィザードさんもいたのなら、余計なお世話だったかな?」

「いえ、実は、リゼルは、怪我をしていて十分に魔法を発動できない状況なのです。ダンガが私を守ってくれながら、あれだけの豚獣人オークを相手にすることは難しかったと思います。あなたは私達の命の恩人です」

「いや、まあ、俺は約束を果たしてもらえたら良い」

「今日の晩ご飯と葡萄酒ですね」

 少し首を傾げて俺を見たイルダの微笑みに、俺は一撃で打ちのめされてしまった。



 それにしても、美少女とは良いものだ。

 ナーシャは大人なのだが、見た目幼女で、目の保養にも、恋愛の対象にもならなかった。

 魔法士ウィザードのリゼルは、大人の女という雰囲気が溢れんばかりの美人であり、ゆったりとしたローブを盛り上げている胸の膨らみは、かなりのサイズであることが確認できたが、イルダの側にいるだけで、そんな魅力が打ち消されていた。

 イルダは、今まで俺が出会ってきた全ての女が霞んでしまうほどの輝きを放つ美少女だった。

「どこのお嬢様か知らねえが、二人だけの護衛で森を歩くなんて無謀じゃねえのか?」

「申し訳ありません。どうしても行かなければならない所があるものですから……。それにしても、アルス殿の剣さばき、お見事でした。あまり人を褒めないダンガが感心するほどですから」

「そりゃ、どうも。賛辞を送られることは嬉しいが、賛辞だけじゃ飯は食えねえ」

「そうですね」

 イルダは、くすりと笑った。

 ――くそ! めっちゃ可愛い!

「アルス殿」

「うん?」

 イルダが真剣な顔付きになって俺を見た。

「アルス殿は賞金稼ぎの剣士とのことですが、どこか行かなくてはならない所があるのですか?」

「いや、今のところは無い。俺も、少し前まで、アルタス帝国の近衛兵として宮殿に詰めていたんだが、あっけなく宮殿は落ちてしまって、今は失業中だ。それに、今の帝国の状況から言って、しばらくは大きな戦争は無いだろうしな」



 つい一か月ほど前。

 この大陸を治めてきたアルタス帝国が滅んだ。

 その初代皇帝は、それまで、この大陸を支配していた魔王を倒したカリオンという英雄だ。

 カリオンには二人の息子がいた。カリオン崩御後、長男と次男で跡取り争いが起きたが長男が勝ち、その後五百年にわたり、大きな家督争いも無く、長男の一族がこの大陸を平和裡に支配してきた。

 しかし、栄枯盛衰の習いのとおり、硬直していた政治体制に不満が募ってきて、各地の貴族達が次々と反乱の火の手を上げ、最終的には、ディアドラスという貴族がそれらの反体制勢力をまとめ上げた。

 そして、反体制派の連合軍ともいうべき大軍団が首都に攻め込むと、皇帝と四人の皇子は全員捕らえられ斬首された。

 二人の皇女は、首都陥落の直前に密かに首都から逃げ出し、今も逃亡中のはずだが、女性ゆえ帝位継承権を持っていないということもあって、組織だって捜索されていない。

 反体制派のリーダーとなったディアドラスが、新しい皇帝となったが、所詮しょせんは寄せ集めの軍勢で、他の貴族達から色々と不満が出てきて、混沌とした情勢になっていた。

 つまり、どの勢力もアルタス帝国との戦いで疲弊しており、お互いに総力戦ができるほど、軍備や兵力が整っておらず、辺境の街では、現在の皇帝派と他の貴族達の軍勢との小競り合いが散発している程度であった。



「近衛兵として宮殿にいらっしゃったのですか? 最後まで宮殿に?」

「ああ。しかし、城壁を破られて、反乱軍が一気に雪崩れ込んでくると、もう万事休すだ。俺も命からがら首都から逃げ出したってことよ」

「……そうですか」

 俺は、一瞬ではあるが、イルダが悲しい顔をしたことを見逃さなかった。

「アルス殿、お願いがございます」

「何だ?」

 すぐに元の凜とした顔立ちに戻ったイルダが、真っ直ぐに俺を見据えていた。

「しばらく、私達の護衛をお願いできないでしょうか?」

「しばらくとは?」

「とりあえずは、リゼルの怪我が治るまでお願いしたいです」

「報酬は?」

「残念ながら、人を雇うほどのお金は持ち合わせていません。が、先ほどアルス殿が申したとおり、ダンガの槍の腕前も相当なものだと思います。リゼルも今は万全ではないですが、戦闘の補助サポートくらいならできます。少々やっかいな依頼もこなせるのではないでしょうか?」

「チームを組むと言うことか?」

「はい。そして報酬は十等分して、七をアルス殿一人に割り当てるというのはいかがでしょうか?」

「なるほど。その余分にもらう分が護衛の報酬ということか?」

「はい」

 現実的で、魅力的な提案だ。

「いかがでしょうか?」

「良いだろう。どうせ、俺もしばらくは賞金稼ぎを続けなければならないだろうからな」

「ありがとうございます」

「アルス! ボクの意見は訊かないのか?」

 俺の隣でナーシャが頬を膨らませていた。

「どうせ、お前は俺の腰巾着じゃねえかよ」

「何だと−!」

 ポカポカと俺の背中を叩くナーシャを無視して、俺はイルダに言った。

「とりあえず今日はもう日が沈む。街に入って飯にしないか?」

「そうですね」

 俺達一行は、一番近い街に向かって歩き出した。



「イルダ」

「はい」

 俺と並んで歩いていたイルダがはっきりと返事をしたが、同時に後ろから罵声が飛んで来た。

「貴様! イルダ様を呼び捨てにするとはけしからん!」

 後ろを歩いていたダンガのおっさんが血相を変えて俺に迫って来た。

「じゃあ、何と呼べば良いんだよ?」

「イルダ様と呼べ!」

「イルダは、俺と契約を交わした仲ではあるが、俺の主人ではない。俺がイルダを敬称で呼ばなければならない義務も義理も無いはずだ」

「おのれ!」

「ダンガ!」

「はっ、ははっ!」

 大きな声ではなかったが、イルダが毅然とした声で名前を呼んだだけで、ダンガは気をつけの姿勢を取った。

「アルス殿の言うとおりです。アルス殿に失礼ですよ」

「はっ、……はあ」

 イルダに叱られて、ダンガのおっさんは、水気を抜かれた青菜のように項垂うなだれてしまった。

 やはり高貴な血筋というのは隠しようが無いようだ。

「イルダ。前にどこかで会ったことがあるか?」

「いえ、……ごめんなさい。記憶にありません」

「宮殿で会ったかもしれないって思ったんだけどな」

 俺のその一言でダンガのおっさんとリゼルの顔色が変わった。

 ダンガのおっさんは、ランスを構え、リゼルは、いつでも魔法を発動できるようにローブの前をはだけた。

 どうやら当たりのようだ。

 俺は争うつもりがないことを示すため、両腕を広げて、少し肩をすくめた。

「そんなにピリピリするなって」

 俺は相手の警戒心を少しでも和らげようと、だらしない微笑みを見せて、イルダを見た。

「イルダは、行方をくらましている二人の皇女のどちらかだろう?」

「どうして、そう思われるのですか?」

「宮殿が落ちたことを俺が話した時、すごく悲しげな顔をした。それにイルダの体からは高貴な匂いがプンプンと漂ってるぜ」

 イルダは、焦ったように自分の左右の腕の匂いを交互に嗅いでから、ハッと気がついたように、顔を赤らめ俯いた。

 ――ちくしょー! 立ち振る舞いがいちいち可愛いぜ!

「私は、第二皇女のイルダです」

 イルダは俯いたまま、小さな声で呟いた。

「やっぱり逃亡中の皇帝の娘か」

「貴様! よもや、我らを売るつもりではあるまいな?」

 ダンガのおっさんが怒鳴ったが、俺はその大声を右耳から左耳にスルーした。

「おいおい! いくら森の中って言っても、どこに誰がいるか分かねえぜ。声、でかすぎだ」

 イルダからも無言で睨まれて、ダンガのおっさんは、また、項垂うなだれてしまった。

「まあ、心配するな。俺だって、そんなにおしゃべりじゃねえ」

「しかし、あなたは賞金稼ぎであろう?」

 リゼルが疑いの眼差しを解かずに訊いた。

「確かにそうだ。だが、俺が狙うのは、人様に迷惑を掛ける魔族だ。たまに人族を討つ時もあるが、盗賊とか山賊くらいだ」

 俺は右手を背負っている剣のつかに掛けた。

「俺が討つか討たないかの基準は、人様に迷惑を掛けているのか、いないのかだ。あんたらは人様に迷惑を掛けているのか?」

「私達は、誰にも迷惑を掛けたつもりはありません」

 イルダが毅然と言った。

「だったら、俺があんたらを討つ理由が無いな。それに今さっき、口約束だがチームを組むという契約を交わしたばかりだ」

 俺は、剣の柄に掛けていた手を下ろした。

 それを見たイルダが、ダンガのおっさんとリゼルを見ると、ダンガのおっさんはランスを下げ、リゼルも手を引っ込めて、ローブの前を重ねた。


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