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フェアリー・ブレード  作者: 粟吹一夢
第二章 錬金術と魔法の争い
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第十五話 人形使い

 リーシェが俺に抱きつくと、目の前の景色が一瞬で変わった。

 リーシェの転移魔法トランスポートで瞬間的に飛んだ先は、マタハの家の玄関の中だった。

「……リーシェ。魔法で飛ぶたびに俺にキスをするのは、やっぱり、俺の顔に『キスしたい』と書いているからか?」

「もっと卑猥なことを書いておるではないか」

 そう言うと、リーシェは、俺の反論を聞こうともせず、どんどんと家の奥に歩いて行った。

「おい! お前、マタハと会うつもりか?」

「駄目か?」

「いや、何と自己紹介するつもりなんだよ?」

「魔王様じゃと言うつもりじゃが?」

「正直者だな、……って、そんな訳にいくか!」

「うるさいのう。じゃあ、どうすれば良いのじゃ?」

「どっかに隠れていてくれ。剣を受け取れば、すぐにここを出る」

「仕方がないのう。では、キス一つで貸しにしといてやろう」

「何でキスなんだよ?」

「嫌か?」

「い、嫌ではないが」

「ふふふふふ、では、少しの間、消えておるわ」

 リーシェが消えると同時に、家の奥から声が聞こえた。

「誰じゃ?」

 マタハが蝋燭を持って出て来た。

「アルスではないか! どうやって入って来た?」

転移魔法トランスポートを使う知り合いがいてな」

「あの乳のでかい魔法士ウィザードか?」

 この爺さん、よっぽど、リゼルのことを気に入っているようだ。

「ま、まあな。それより、今から、早速、あんたの依頼を遂行しに行く。だから、昼間に言っていた剣を受け取りに来た」

「おお、そうか! 少し待っていろ」

 一旦、奥の部屋に行ったマタハが、手に剣を持って、すぐに戻って来た。

「これじゃ」

 剣を受け取った俺は、剣を抜いてみた。

 真っ直ぐな刀身は青く輝き、まるで宝石でできているように美しかった。

「この色は、青い鎧と同じように耐久力が上がっているからなのか?」

「そうじゃ。儂が試した限りでは、普通の鎧であれば簡単に切り裂くことができた」

「鎧も切り裂く剣か。そいつは頼もしい。何か銘は付けているのか?」

「古代の言葉で『硬い剣』と言う意味の『カレドヴルフ』じゃ」

「カレドヴルフか。良い名だ。じゃあ、借りていくぜ」

「うむ。頼むぞ」

 俺は、自分の剣をマタハに預けて、カレドヴルフを背負うと、マタハに背を向け、玄関から外に出ようとした。

「玄関では憲兵が見張っておるぞ。魔法で飛ばなくて良いのか?」

 背中からマタハに指摘されて、俺は足を止めた。

「大丈夫だ。なあ、大丈夫だよな?」

「誰に話し掛けておるのじゃ?」

 マタハもキョロキョロと辺りを見渡した。

「ま、まあ、心配するなって。吉報を待ってな」

 そう言うと、俺は玄関のドアを開けて外で出て、後ろ手でドアを閉めた。

 玄関脇には、憲兵二人が倒れていて、そのうち一人の体にリーシェが腰掛けていた。

「そなたも無茶を言うのう」

「こいつらは?」

「心配するでない。眠っているだけじゃ。あと少しすれば目覚めよう」

「そ、そうか。じゃあ、行くか?」

「そうじゃの」

 俺とリーシェは夜の街を歩き出した。

「当てはあるのか、アルス?」

「そんなもんねえよ。だが、向こうから来るんじゃねえか?」

「前回の雪辱を晴らしにか?」

「あるいは口封じにな。青い鎧の騎士は空っぽで、その周辺に隠れているはずの人形使いが操っていることは知られたくないだろう」

「なるほど。前回、青い鎧の騎士が屋根をつたって逃げたことから言うと、人形使いは転移魔法トランスポートは使えまい。そうすると、大勢の憲兵に取り囲まれるとやっかいだろうからの」

「まあ、そう言うことだ」

「しかし、わらわに恐れを抱いて、引き籠もりになってなければ良いがの」

「いや、そんな心配は無用のようだぜ」

 建物で囲まれた石畳の道路に、月だけに照らし出されて、青い鎧の騎士が立っていた。

 騎士は剣を抜くと、ゆっくりと俺達に向かって歩いて来た。

「アルスよ。あいつはそなたに任せた」

「何? お前はどうするんだ?」

「わらわは人形使いを捜す」

「わ、分かった。早めに済ませてくれ」

「何を弱音を吐いておる。そなたじゃから任せることができるのじゃぞ」

「……ありがとうよ」

 リーシェは、俺に微笑みを返すと、その場から消えた。

 俺は、カレドヴルフを抜き、青い鎧の騎士と対峙した。

「さあ、来やがれ! 空っぽ野郎!」

 俺の言葉でスイッチが入ったように、青い鎧の騎士は、信じられないような速さで、俺に向かって来た。

 騎士の剣をカレドヴルフで受け止めると、青い鎧の騎士の剣は簡単に折れた。

 ――すげえぞ! ここまでの威力があるとは思わなかったぜ!

 青い鎧の騎士の人並みはずれた怪力が、かえって自分の剣をへし折ることになったのだろう。

 俺は、その勢いのまま、カレドヴルフを青い鎧の騎士の胸に打ち付けた。

 火花が散ったが、青い鎧には小さな傷しか付けることができなかった。

 青い鎧の騎士は素早く後ろに下がって、間合いを取った。

「どうする? 剣が無くては勝つことはできないぜ」

 青い鎧の騎士は折れた剣を放り上げると、素手で俺に殴りかかって来た。

 剣を持っていない左腕で青い鎧の騎士のパンチを受け止めた俺は、その激痛に思わず後ずさりした。

 青い鎧の騎士の手には、鎧から繋がる金属製の籠手ナックルガードがはめられているのを、すっかりと忘れていた。 

 剣を持たない相手には剣を使わないというポリシーを貫いてきたから、剣を使って防ぐことを咄嗟に思いつかなかった。

 俺は、再び、カレドヴルフを構えた。

「丸腰の相手に申し訳無いが、俺はこれを使わせてもらうぞ」

 俺は、青い鎧の騎士に突進して、上段からカレドヴルフを振り下ろした。

 その刃は、青い鎧の騎士の頭の上でその両手に挟まれたが、それでがら空きになった腹に蹴りを入れると、青い鎧の騎士は後ろに吹っ飛んで行った。

 背中を石畳の地面に強打したはずなのに、青い鎧の騎士は何事も無かったかのように、すぐ立ち上がった。

 くそっ! 中身が無い人形だから痛みも感じないってことか?

 青い鎧の騎士が、ふいに右手を横に伸ばした。

 次の瞬間には、その手にランスが握られていた。

 ――どこから出しやがったんだ?

 もし、こいつの操り主が送ったのなら、リーシェは、まだ操り主を見つけていないと言うことだ。

 そのランスを構えて、青い鎧の騎士は、俺に突進して来た。

 俺を目掛けて真っ直ぐに突き出されたランスを、身をかわしながら、カレドヴルフで払った。

 その後も、騎士は、しつこくランスを突き出して来た。

 体の正面に突き出されるランスは、その動きが遅ければ、素早く横に移動してから、剣で叩き落とすこともできるが、この速さでは、払うのが精一杯で、さっきの剣と違って、ランスを叩き落としたり、ましてや、へし折ることはできなかった。

 かと言って、むやみに相手の懐に飛び込んで行くのは危険だ。

 俺は、しばらく防戦一方になってしまった。

 普通であれば、息もあがるはずなのに、相手は呼吸をしていない鎧だ。こっちの体力の消耗が続けば、いくら俺でもやられる。

 その前に、決着を着ける必要がある。

 ――前回、リーシェはどうした?

 背後から、ヘルムと鎧の接続が弱い首を切った。

 俺も、何とか、後ろに回り込めば、勝機はあるはずだ!

 俺は、少し後ろに下がって間合いを取った。

 この道路は、馬車が行き違いできるほどには広い。

 俺は、右から回り込もうと、全力で走り出した。

 青い鎧の騎士も俺の行く手を阻もうと移動した。

 俺は、すぐに左に方向を変えて、今度は左側から後ろに回り込もうとした。

 しかし、青い鎧の騎士もすぐに反応して、方向を変え、俺に迫って来た。

 俺に青い鎧の騎士のランスが届こうかという距離まで近づいた時、俺は、また左足を踏ん張って、右に方向転換するとともに、体を倒してランスをかわした。

 そして、うつ伏せの体勢のまま、頭を支点にして、地面を這うようにしながら体を旋回させ、青い鎧の騎士の背後に回り込んだ。

 そして、右足を踏ん張り、飛び上がるようにして体を起こすと、青い鎧の騎士のうなじにカレドヴルフをなぎ払った。

 兜と鎧を接続しているリベットが粉砕されて、青い鎧の騎士の兜は、道路の端まで勢いよく飛んで、建物の石壁にぶつかると、カラカラと音を立てて地面に落ちた。

 だが、それで終わりじゃねえ!

 俺は、カルトヴルフをそのまま大きく回して、振り向こうとした青い鎧の騎士の左手首に打ち込んだ。

 籠手ナックルガードを繋いでいたリベットも破壊され、青い鎧の騎士の左手首も地面に叩き付けられるようにして落ちた。

 俺は、少し間合いを取って、息を整えた。

 一方、青い鎧の騎士は、頭と左手首が無いことを気にすることもなく、俺に向けて、槍を突き出した。

 そして、すぐに俺に向けて突進をして来たが、俺はカレドヴルフで槍を払うと、そのまま胸を強くなぎ払った。

 青い鎧は切れなかったが、その衝撃で、青い鎧の騎士は、数歩、後ろによろめいた。

「思ったとおりだ。お前は操り人形なんだぜ。体の部品パーツが欠落すれば、バランスが悪くなって、操りにくくなるのは当然だな」

 そうだ。明らかに青い鎧の騎士の攻撃スピードは落ちていた。

「ふふふふ、さすがはアルスじゃ! わらわが見込んだだけのことはある!」

 いつの間にか、青い鎧の騎士を挟んで、通りの反対側に、リーシェが立っていた。

「遅かったじゃねえか! 人形使いは見つかったのか?」

「ほれっ、ここに」

 リーシェが、左手でぶら下げていた黒い物を軽々と放り投げた。

 それは、黒いローブを着た小柄な男で、青い鎧の騎士の足元に転がって行った。

 息もえなその男は傷だらけで、どうやら、リーシェにボコボコにされたようだ。

「おい! 本当にそいつが人形使いなのか?」

 操り主が気絶寸前なのに、青い鎧の騎士が相変わらず、俺を攻撃しようとして、ランスを構えていた。

「人形使いはマリオネットではない。一度、その人形に魔力マナを吹き込むと、人形は自分で考えて、命令を遂行するのじゃ」

「じゃあ、こいつはどうするんだ? 足をぶった切って動けなくするしかないのか?」

「まあ、待っておれ」

 リーシェが短い呪文を呟いたかのように口元を少しだけ動かすと、両方の手のひらを青い鎧の騎士に突き出した。

 次の瞬間、リーシェの手のひらから光が放たれ、青い鎧の騎士に当たると、騎士は動きを止め、ガランガランと音をさせながら、そのまま崩れ落ちた。

「どうなったんだ?」

「鎧の中に残っていた魔力マナを散らしただけじゃ」

「そうなのか。……って、そんなことができるのなら、最初からしろよ!」

「人形使いが魔力マナを補給できないようにしてからではないと意味が無いのじゃ」

「なるほど」

 俺は、カレドヴルフを背中のさやに収めると、倒れている人形使いの男に近づき、胸倉を掴んで、むりやり立たせた。

「おい! お前には訊きたいことがやまほどあるんだ! 起きろ!」

 人形使いは弱々しく目を開けた。

「お前が憲兵を襲っていたのは何故だ?」

「……」

「リーシェ!」

「何じゃ?」

「お前、ボコボコにしすぎだ! しゃべれないじゃねえかよ!」

「反抗的な態度を取ったから、少しお仕置きをしてやっただけじゃ」

「嘘吐け! 相手が痛がるのを見て、喜んで虐めていたんだろう?」

「ちょっとだけじゃ。そんなに怒るな」

 唇をとがらせてねるんじゃない! 男をみんな、虜にしてしまう気か?

 ――くそっ! この魔王様、いろんな意味で本当に危険だ!


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