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フェアリー・ブレード  作者: 粟吹一夢
第二章 錬金術と魔法の争い
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第九話 思い出話

「俺にお願い? 万能の魔王様が何だ?」

「今度、ラプンティルという街に行くと話していたな」

「やっぱり聞いていたか。それで? お前は、どこか行きたいところがあるのか?」

「行き先はラプンティルで良いが、その街の中で行ってほしい所があるのじゃ」

「どこだ?」

「錬金術師のマタハと言う者がおる。その者がフェアリー・ブレードについて何か知っておるかもしれぬ」

「知り合いなのか?」

「いや、知らぬ。しかし、わらわも五百年間、ボーッと子供をしていた訳ではない。その者がフェアリー・ブレードのことについて研究しておるという話を聞いたことがあるのじゃ」

「本当か?」

「うむ。フェアリー・ブレードが、今、どこにあるのかの手掛かりを得られるかもしれぬぞ」

「分かった。そこにも寄ってみよう」

「うんうん。では、寝るかの」

 そう言うと、リーシェが深く布団を被った。

「おい! ここで寝るつもりか?」

「迷惑か?」

 そう言うと、リーシェが更に体を密着させ、足を絡めてきた。

 くそ! これじゃ眠れない!

「い、いや、朝までいるつもりか?」

「朝まで眠らせないでほしいかえ?」

「ああ、お前がその気ならばな!」

 俺は、意を決して、リーシェを抱きしめようとした。

 しかし、俺が抱きしめたのは空気だけで、いつの間にか、リーシェはベッドの横に立っていた。

「ふふふふふ、お預けと言ったはずじゃぞ」

 この野郎! 完全に俺の純情をもてあそんでやがる!

「それに、朝、少年の体に戻ったわらわとそなたが同じベッドで寝ていたら、どう思われるであろうの?」

 いかん! すっかり忘れていた!

 そうなれば、変態確定の烙印を押された俺は、イルダからは絶交されるだろう。

「アルス。わらわは自分のベッドで寝ることにする。そなたは一人で眠ることはできるか?」

「勝手に火を着けておいて無責任すぎるぞ!」

「これで我慢せい」

 リーシェは俺の枕元にひざまづくと、ベッドに横になっているままの俺に顔を近づけて来て、唇に軽くキスをした。

「良い夢を見るがよい」

 そう言うと、リーシェはパッと消えてしまった。



 翌朝。

 イルダと子供の姿に戻っているリーシェを「自称名馬」フェアードに乗せ、俺達一行はケインの街を後にした。

 街の城壁を出ると、しばらくは田園風景が続いていたが、すぐに深い森に入った。

 俺は、全神経を集中させて、先頭を歩いた。俺の頭上には、ナーシャが飛んでいて遠くを見渡している。その次にダンガのおっさんに手綱を引かれたフェアードがいて、リゼルがいつでも魔法を発動できるようにしながら、しんがりを歩いていた。

 森は何が出てくるか分からない。山賊、肉食獣、はたまた魔族。この世の中で、およそ「危険」と言われるものがもれなく出て来る可能性があった。

 ――と思ってたら、やっぱり出て来やがった。

 半裸の体に獣毛のベストを羽織った髭モジャの男七人が木の陰から現れた。

「止まれ! 命が惜しけけりゃ、身ぐるみ置いていけ!」

 ――定型的テンプレにもほどがある。

「げへへへ、こりゃあ、べっぴんさんだ。おめえだけ残れ」

 男達は、馬上のイルダに気がついたようだ。

「おい! 俺達は急いでるんだ。邪魔するな」

 俺は、ゆっくりと前に出て、男達に近づいた。

「何だと! まずはこいつから血祭りに上げろ!」

 七人が俺を取り囲んだ。

「数を揃えたら誰にでも勝てると思ってるのか?」

「うるせえ! やっちまえ!」

 ――剣を抜くのももったいない。



「お、憶えてやがれ!」

 とりあえず、男達を拳骨でボコボコにすると、これまた定型的テンプレな捨て台詞を吐いて、男達は逃げ去って行った。

「変態だが腕前だけは見事じゃな」

 ダンガのおっさんの一言多い賛辞が、とりあえず、みんなの総意のようだ。

「この辺りは、さっきの連中の縄張りだろう。と言うことは、しばらくは安全ということだ」

「では、少し早いですけどお昼にしましょうか?」

 馬上からイルダがした提案に、みんなが同意した。

 森の中で少し開けている場所に、みんなが輪になって座った。

 最初に座った俺の隣に、何気なく子供リーシェが座ろうとしたのをイルダが止めて、俺の隣にはイルダが座り、その隣に子供リーシェを座らせた。

 俺としては、リーシェを俺から遠ざけたのではなく、イルダが俺の隣に座りたかったからだと前向きに解釈することとした。

 小枝を集めて、リゼルが火を着けると、その上に、ダンガのおっさんが背負っていたトランクから取り出した鍋を掛けた。小川から汲んだ水を湧かすと、イルダが干し肉と豆を入れ、塩と胡椒で味付けをした。

「イルダも料理をするんだな? 宮殿ではしなかっただろうに?」

「はい。この旅を始めてから料理も憶えました」

 俺もナーシャとの二人旅の時に野営する際には交替で飯を作ることにしていた。だから、俺もある程度は料理ができるが、イルダが見せた手際てぎわは、最近、料理を始めたとは思えないくらい良かった。

「しかし、皇女様自らがか?」

「リゼルとダンガは、私を守ってくれているのですから、これくらいは私がやろうと思いまして」

「良い皇女様だなあ、おい!」

 俺がダンガのおっさんとリゼルに言うと、ダンガのおっさんが涙にむせびながら言った。

「分かるのが遅いわ! 儂はイルダ様ご幼少の頃からお仕えしておるが、イルダ様は昔から優しいお方だったわい! 儂は体が動く限り、イルダ様のお側にお仕えしてお守りすることが願いじゃ!」

「私もイルダ様のお側にいたいと思って、志願して一緒に落ち延びた。私はイルダ様と一緒に死ぬ覚悟だ」

「何を言う、リゼル! 儂も一緒じゃ!」

「おいおい! 死ぬこと前提で話をするなって」

「おっ、それもそうだな」

 などと話していると、間もなく肉と豆のスープができた。

 俺とナーシャの二人旅の時には、豆だけのスープが普通で、肉が入っているだけ贅沢な昼飯だ。

 自称魔王様を倒してくれた魔王リーシェのお陰なのだが、当のリーシェは、相変わらず無表情で、ふうふうとスープを冷ましながら上品に食べていた。

 俺もイルダから渡されたスープを一口すすった。

「う、美味い! やるな、イルダ!」

「ありがとうございます」

 イルダも上品にスープを食べながら、俺の顔を見た。

「アルス殿は本当にお強いですね。あの自称魔王を倒したくらいですから、さっきの山賊などは剣を抜くまでもなかったのですね」

「ま、まあな」

 俺は気まずくなって、実際に自称魔王様を倒したリーシェの顔を見たが、リーシェは食べることに一生懸命のようだ。

「どこで鍛えられたのですか?」

「うむ。それは儂も興味がある」

 ダンガのおっさんが割り込んで来た。

「アルスの身のこなしや剣の打ち方は自己流ではなかろう? ちゃんとした師匠に習ったのではないか?」

「ああ、そうだ」

「ずっと帝国軍にいたのか?」

「いや、そんな恵まれた境遇じゃなかったよ」

「アルス殿がお嫌でなければ、私もお聴きしたいです」

「イルダにそう言われると断れないな。まあ、別に秘密にしている訳じゃないしな」

 俺は、既に食べ終わった皿をダンガのおっさんに返して、みんなを見渡してから口を開いた。

「俺は両親を知らない。捨て子だったんだ」

「そうなのですか?」

「だからって、思い出話は涙無しでは語れないってことはないから安心しな。俺は、物心がついた時には、旅芸人の一座にいた。森の中で泣いているところを拾われたようだ」

「……」

「そこの座長は見世物で剣舞をしていて、俺は座長から剣舞を叩き込まれた。一座の中にいて、只飯を食うだけの存在なんて許されないからな」

「……」

「俺はすぐに舞台に立てるまでになったが、型にはまった動きが次第に退屈になった。一座を出たいと思いだした頃、一座が街から街に移動中に、今みたいな山賊に襲われた。俺は、ちょうどリーシェくらいの歳だったが、俺の目の前で一座は皆殺しにされてしまった。そこに、これもたまたま傭兵の一団が通り掛かり、その山賊達を退治してくれたんだ。俺はその傭兵部隊に入れてもらった。剣舞をしていて剣の基礎はできていたから、すんなりと入団させてくれたぜ」

「巡り合わせですね」

「まったくだ。ちなみに、オルカというその傭兵隊長が俺の師匠だ。俺が唯一、今でも尊敬している戦士だ」

「今、オルカ殿は?」

「先の大戦に帝国側で参加していたはずだ。だからどこかに落ち延びているか、ひょっとしたら、もうこの世にはいないかもしれねえな」

「連絡が取れていないのですね?」

「ああ」

「会えると良いですね」

「そうだな」

 俺を元気づけようとしているのか、少し悲しげだが優しいイルダの微笑みは、俺の心を癒してくれるのに十分だった。

 全員が食事を終えると、リゼルとナーシャが近くの小川で食器を洗った。さすがに洗い物まで皇女様にさせる訳にはいかないと、食事の後始末は、イルダには絶対にさせていないようだ。

 後始末も終えて、荷物をチェックしながら、出発の準備をしていた俺達の頭上に一匹の蝙蝠が羽ばたきだした。

 二、三回、上空で旋回したと思うと、羽ばたきながらリゼルの肩にとまった。

「お姉様からの伝令です!」

 イルダが俺の顔を見ながら、嬉しそうに言った。

 家族の中で唯一生存している姉からの知らせは、なんだかんだ言っても嬉しいだろう。

「イルダ! 久しいの!」

 突然、蝙蝠が若い女性の声でしゃべりだした。イルダの声に似ている気もする。

 伝令蝙蝠メッセンジャーバットは、魔法士ウィザード同士の遠距離連絡方法で、オウムのように、しゃべった言葉をそのまま記憶し、連絡先で再生することができるように訓練された蝙蝠で、すり込まれた魔法士ウィザードの気配を探し出して飛んで来るのだ。

「息災か? こちらは全員、元気じゃ。今、私はラプンティルにいる。そこで三日ほど滞在するつもりじゃ。フェアリー・ブレードに関する新しい情報は得られてはおらぬ。何かあれば連絡する」

「お姉様がラプンティルに! リゼル! 伝令蝙蝠メッセンジャーバットがラプンティルから飛んで来るのにどれくらい掛かるでしょう?」

「人の足で七日ですから、一日か二日で来られるはずです」

「私達が行くのに、これからまだ六日くらい掛かってしまいますね」

 日程的に、カルダ姫とはラプンティルの街で会うことはできないということが分かり、イルダは少し落ち込んだ。

「イルダ! お互いに無事だということが確認できただけでもよしとしようぜ」

「……そうですね」

 イルダがメッセージを託すと、伝令蝙蝠メッセンジャーバットは大空に飛び立って行った。


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