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DOOR ――道を開く者――  作者: うわの空
第一章 心配する者
8/35

7

「最期に、息子に何か言うことはあるかい?」


 白い道を呆然と見ていた私に、青年が語りかける。青年の横にいる息子こうすけには、私の姿も道も、視えていないらしい。青年の視線の先を、――つまりは私の方を、焦点の合っていない目でじっと見つめていた。


「――ごめ、……いえ」


 私は苦笑し、俯いた。


「ありがとう、と」


 私の言葉を聞いて、青年もまた苦笑した。


「あんたらしいね」

「――あなたにも」

「は?」

「……ありがとうございました」


 首をかしげる彼に、私は頭を下げた。精一杯の感謝の気持ちを込めて。――声は、みっともないくらいに震えてしまったけれど。


「俺は、これが仕事ですから?」


 青年は笑う。


「ボランティアでやってるわけじゃないし。あんたの通行料は、二十万と三百六十円だよ。ぜったいに回収するから覚悟しろよ、こーすけさん」


 彼の言葉を聞いて、私も吹きだす。


「あなたも、素直じゃないのね」

「さあ? どうかな」

「――そうだ。あなたの名前は?」


 私の質問に、彼は一瞬だけ顔を歪めた。そして、


「……さあね」


 少しだけ悲しそうな顔で、呟いた。





「あんたの息子は、大丈夫だ。あとは、あんた次第だよ」


 扉をあけるか、あけないか。



 扉の前で、軽く深呼吸をする。

 振り返ってみれば、そこはもう真っ白で、私が入ってきたはずの穴も塞がっていた。


「二十万と、三百六十円。……無駄にしないから」


 私は誰もいない真っ白な空間で、同じ言葉をもう一度呟く。


 私の姿も見えていないくせに、泣きだしそうだった康介に。

 そして、赤茶髪の青年に。



「――ありがとう」



 私は一人で微笑むと、くすんだ銀色のドアノブレバーに手を伸ばした。




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