∮-3:嵐の前の静けさ
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その教会に行くのは、もはや習慣だった。
そこは、公爵家に引き取られる前に、一時的に保護されていた場所であり、唯一心が安らぐ場でもあった。
その日は珍しく、一番乗りだったらしく、いつもの≪灰色の聖女≫こと、小さな女王の姿はなかった。
「君でしたか。アレス君。」
「--女王様じゃなくて悪かったな。」
彼は俺を否定せず、無償で愛情を注いでくれた恩人でもある。
その彼が、最も深い愛情を持ち、接している人物がいる。
頭の天辺から足元まで、隙なく灰色一色でもって身体を覆い隠している一人の信徒。
自分と同様に、決して十分とはいえない施しを持ち、毎朝自分より早く来ては、懺悔していく。
今日はどうやら来ないようだ。
それだけの事なのに、何故か違和感が湧く。
と、思った丁度その時、ギィーっと、耳障りな音を立て、扉が開かれた。
彼女を間近で見るのは初めてだった。
いつもはすれ違うか、遠くから見かけるだけだった。
だから、その声を聞いた時は、まさかと思った。
何も出来ない事が心苦しい、どうして自分は女なのだろうと嘆き、救いを求める声は、あの日の夜、自分を見る事無く、無視した彼女のものだった。
最後に司祭に微笑んだ彼女は、ヴェールを被り直し、きっちりと完璧な仕草で司祭に頭を下げ、偶然目が合った自分にも頭を下げ、祈りの言葉をかけて家へと帰って行った。
--聖女様のご加護がありますように・・・。
と、甘くも、幼い声で・・・。
◇
こんなところになんか、来たくなかった。
ユリアお姉様の命令でなければ、お茶会には来なかった。
私が今いるのは、ジニエス侯爵令嬢が主催する、表向きは仲良くするためにと開かれたモノ。
だが、実際は醜いものだった。
集まった令嬢達は、私の年齢と容姿に理由をつけ、貶したり笑ったりしたのだ。
それだけなら、私は笑って聞き流した。
だけど彼女達は、私の家族をもバカにした。
-良くも言ったわね・・・?
あなた達がそのつもりなら、私もそれ相応に仕返ししてあげる。
私は祖父譲りのポーカーフェイスで、家族をバカにした人達の顔を完璧に記憶した。