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一話


 あれは今から三年ほど前の出来事。

 雪の降る、バレンタインの日だった。


「せ、先輩、これ、受け取ってくれませんか?」


 私は当時、新卒で入社して二年かそこらで。

 入社初期から教育を担当してくれた先輩に呆気なく堕ちてしまい、チョコを手に告白に至ったわけだが。


「あ~。おれさ、可愛い子が好きなんだよね」

「え?」

「だから、男みたいなお前は恋愛対象じゃないんよ」


『男』みたいな女。

 私が思春期を過ぎた頃からよく言われている言葉だった。

 身長は一七四センチだし、そこに六センチヒールとか履くし、ヒール履いたらその先輩よりもはるかにデカい。声も成人男並みのハスキー低音。口調も男口調で、性格も女っぽさはない。悪く言えば大雑把、良く言えばざっくばらんって感じか。


 社会人になったらせめて見た目だけでも女らしくしようと髪を伸ばしてみたり化粧をしてみても、何故かさらに中性的になり、より男らしくなってしまう。


 そんな友人曰く『男前女』の私は、その時、同じ理由での三回目の失恋をしたのだった。


(あおい)さぁ、いっそ女の子と付き合えば?」


大失恋をしたその日、居酒屋でグズグズに泣き潰れている私に対し親友の奈央が言った衝撃的な言葉がこれだ。


「……奈央(なお)さん、私がストレートて知ってて言ってる?」

「知ってるけど、あんたもう男は無理じゃね?」

「……ひどすぎん?」


 ってか、ストレートの私が女の子と付き合うのは、相手の女の子(レズビアンの子だった場合余計)に失礼な気がしてならないのだが。

 でも、正直男の人に恋愛感情で好かれる自信はないのでもう恋愛は出来ないのかもしれない。


「あんた、歌うまいよね?」

「うん? 急に何?」

「ホワイトホールで『性別不詳』でライバーしたら? 私、ファン一号になってあげる」


『ホワイトホール』とは最近はやりのVR仮想空間のことだ。

 ライバーは、仮想空間内で歌ったり、踊ったり、ゲームをしたり、雑談したり。中には仮想空間内に留まらず、現実空間での二重活動をしているライバーもいる。


「その心は」


 奈央はにやっと笑う。


「あんたが正体隠してでもどこまで男前か観たいし、そんな男前な親友を自慢したいから」

「男前、男前言うな……」

「まあ、男男言われて嫌なんだったらちょっとやってみなよ。仮想空間だし、いっそアバターとか変声器とかで可愛くしたら男にモテるかもよ?」


 とか言われて、まぁ、何気なしに仮想空間『ホワイトホール』でライバー活動はじめたんだけど、私は自分を可愛く見せたりすることに抵抗があったりして、そもそも歌える曲はみんな男性アーティストの曲だしってことで中性的なアバターを使って、変声もなしにしてみたら……。


『何このイケメン!』

『色気だだ漏れやん!』

『自分男だけど、腰砕けた……』

『イケボすぎん? これ地声?』

『ダンスセクシーすぎる!』


 と、まぁ、奈央の言葉通りになってしまった。

 しかし、もてはやされるのは嫌な気分にはならない。

 そして、いつの間にか事務所内で人気を二分してるライバーになってた私だが、何処か、やはり空虚な気持ちでいた。


 現実世界と同じように学校、会社などがホワイトホールにはある。

 私は仕事は現実世界の会社に所属しているが、ライバー事務所はホワイトホール内にあった。

 私の所属事務所は『ステラ』といい、『ソーレ』『ルナ』に続くホワイトホール内第三位の言わばやや弱小事務所だった。

 それゆえかはよく分からないが『ステラ』はライバー同士仲がいい傾向にあるが、私と、人気を二分している『美桜(みお)』の二人は少し浮いていた。

 というか、『ステラ』二大人気ライバーの私たちは『ステラ』より大きな事務所の『ルナ』から、ぜひうちに移籍をと希望が出ていて、その問題が出てから結構皆から避けられている。


 そんな私と美桜ちゃん(美桜ちゃんは女性アバターだから勝手にちゃんつけしている)はなんだかんだ、お互いの事を何も知らない。

 私は歌枠が多く、彼女?はゲーム枠が多いのであんまり接点がないのだ。

 しかし、突然、美桜ちゃんが会いたい。と言ってきた。

 私の二十六歳の誕生日企画で歌配信を一緒にしたいからその打ち合わせをしたい、とのことだった。

誕生日は二か月後だが、それの準備は早い方がいいので、折角の美桜ちゃんとのコラボ企画だし、と私はOKのメッセージを彼女個人のメッセージポストに飛ばした。


 数日後、私は『(なぎ)』として、ホワイトホール内の自宅にいた。

 自宅、というか、セーブポイント、というか、なんて言うんだろう? 準備室?

 そういう『部屋』がホワイトホール利用者には全員に与えられている。

 私は此処で、ハスキー犬みたいなデジタルペットを二匹飼っている。まあ、課金コンテンツだけどね。

 現実世界の自宅はペット禁止なんだよな。

 でも、そういう事はホワイトホールで合法でできる。

 人間を一から人体錬成することは出来ないけど、亡くなった人のデジタル遺影として、死んだ家族のデータを読み込ませて自宅に住まわせることは出来る。らしい。


 予定の時刻、五分前。

『美桜 が玄関に着きました』とメッセージが入ったので、私はホワイトホールの自宅の玄関に向かった。

 玄関、を開けると、桜色の超ロングのツインテールのゴスロリメイドさんがニコ、と笑ってそこに立っていた。


「はじめまして、美桜です」

「あ……、初めまして。凪です」


 マジ天使か、この子。配信はたまに見てたけど、めっちゃ可愛いな?

 ニコって効果音つくみたいに可愛く微笑んでくれんだけど、こりゃ、確かに人気出るわ。


「あ、入って? あ、っと、犬、大丈夫?」

「あ、わんちゃん飼ってるんですよね?」

「うん、ハスキーっぽいの二匹。リアルの部屋がペット禁止でさ」

「わたし、わんちゃん好きです! わたしもリアルでは飼えないからこっちで飼おうかなぁ」


 リビングに美桜ちゃんを通すと、デジタルペットのアルとリルが訪問者の美桜ちゃんに挨拶をしに来た。


「きゃ~、可愛い! もふもふ!」


 モフモフと美少女の戯れ可愛い~!って、思わず私は悶えてしまった。

 美少女って言うか、公式では彼女の実年齢は二十歳らしいので少女、という表現はあんまりかもしれないな。

 一頻り、アルとリルと戯れてから、美桜ちゃんは「あ、」と声を上げた。


「うん? どうした?」

「いや、あの、男の人の部屋、来ちゃったな、って思って……」


 照れているのか、少し顔を赤らめて言う美桜ちゃん、いや、可愛すぎるんだが。

 私がマジモンの男だったら襲われてたぞ。

 ってか、ホワイトホール内の二人きりで話せる施設の方がよかったな? 今更だけど。

 美桜ちゃんが此処がいいって言ったからその通りにしたけど、まずいことになったな。


「一応、俺は性別不詳でやってるから」

「でも、声、地声でしょ?」

「ん? うん、そう」

「じゃぁ、絶対男の人」


 いや、女なんだが? と少々泣きたくなったのは内緒にしておこう。


「でも、女の人でも、アリ」

「その心は」

「かっこいいお姉さんに抱かれてみたい」


 いっそ、男のなれたなら。

 いっそ、好いてくれる女の子に好意を寄せれたら。

 でもそれは、叶わない。

 私は女で、恋愛対象は男なんだから。


「でも、わたしが男の可能性もありますからね?」

「いや、美桜ちゃんは女の子じゃないの?」


 美桜ちゃんは「ふふふ、」と意味ありげに笑った。


「わたしも一応性別は非公開ですよ」


 そして、ソファーに座っていた私の膝の上に跨って座る。


「ふふ」

「み、みお、ちゃん?」

「……わたし、貴方の性別、知ってるんです。ココにアレはついていない、でしょ?」


 美桜ちゃんが、『凪』の股間をひと撫でする。

 私は性別非公開なので、そこにはアバターボディでも何もついていない。

 性別を男に設定するとアレが一応ついてしまうし、女にすると、受け身なアレになってしまう。まあ、仮想空間なのでセックスしても妊娠はしないし、感覚は共有されるから気持ちいいらしく、そういう性欲発散につかっている利用者も多いと聞く。


 そして、何もついていない私のアバターも感覚だけは共有されていて、ぞくり、と背中が粟立った。

 くそ、女性アバターだからって、しくじったわ。


「かわいい。感じたんですか?」

「……いや、感覚はあるからね。キミが男の場合、これ、結構厄介な事案だけどいいの?」

「ふふ。確かに。じゃあ、ビジネスラブしましょうよ」

「いや、どういうことだよ……」


 美桜(呼び捨てにしてください♡と可愛くおねだりされた)が言うには、急激に人気が上がりすぎたことと、『ルナ』に移籍の話でホワイトホール内で嫌がらせをされているらしい。そこで、出来るだけ一人では活動したくないから、二人でユニットを組もう、とのことだった。


「いや、確かに俺も嫌がらせ受けてるけど……」


 結構アンチメッセージとか来てるんだよな。そういうのでコメントとかで公開されているものは奈央がすぐブロックしてくれるんだけどさ。

 私個人に来るやつは、一通り目を通してそっと閉じている。


「ダメですかぁ?」

「いや、ダメって言うか、お互いのガチファンから今に増して嫌がらせされないか、って心配はある」

「要は、凪さん、チキンなんですね」

「は?」


 カチンときた。

 こっちの性別知っててこっちに不利な状況作っといて、なんだこのガキ。


「お前、それ地声?」

「ふふ、どうでしょう?」

「そのアニメ声、どうせ変声器だろ? 一回地声で話してみろよ。そしたら考えてやる」


 美桜は一瞬不意を突かれた顔をしていたが、今日イチ妖艶な笑みを見せて、舌なめずりをした。

 そして、私はその要求を後悔することになる。


「あ~あ、こっちは片想い叶わなくて自棄になってんのにさぁ」


 また、身体が粟立った。

 高くもなく、低くもないが、異常に甘い声。

 ああ、ダメだ、この声。堕ちる。

 きっと、離れられなくなる、と本能が警鐘を鳴らしていた。


「ふふ、ど~お? オレの声」

「そ、それも変声、とか……」

「そんな回りくどいことしないし。こっちはあんたを落とすために必死なの」


 見た目ロリ系の美少女で声は甘いセクシーな低音男声だからアンバランスすぎて眩暈してくる。

しかも、なんか私を口説く?のに必死らしい。

 でも、自分がそうであるように、美桜の中の人も女なんじゃないかとは思う。


「ねぇ、ダメ? オレとユニット組もうよ」

「う~ん……」

「あと、こっちでエッチな事もしたい♡」


 あ、こいつ、男だ。絶対そうだ。


「いや、他所でやれ」

「なんでぇ~!」


 いや、正直な話、処女だからね、私。

 溜まってはいるけど、そんなすぐほいほい捨てられるもんでもない。


「わかった、処女なんだ」

「ぐ、」

「へぇ~、可愛♡」


 そして、「ふふ」と妖艶に微笑んだ美桜は凪の唇を奪った。

『凪』としてのファーストキスは、こうして奪われた。


―つづく―


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