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スキル最弱魔王は、愛の力で戦況を一気に覆す  作者: あざらし かえで


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8.戦闘準備

 次の日、ゼルキオスは久しぶりに(いくさ)用の服に袖を通していた。

 黒装束の上にクリムゾンレッドの全身鎧を着込み、更に同じ色のマントをなびかせる。

 昨日までの怠惰な雰囲気とは一変し、ラベンダー色の髪を白のリボンで頭の上の方で結ぶ。

 髪は尻尾のように垂れて、普段の様子より精悍(せいかん)な顔つきに見える。


「いつ見ても、大げさな装備だ」

「魔王たるもの、威厳がなくてはいけません。アグナリアン様の用意していた唯一の品です」

「そうだったな。だが、俺は戦闘能力がない魔王だ」

「それでも、あなたは毅然としていなくてはならない。皆を鼓舞して導く存在、それがゼルキオス・フェルノハート様です」


 両親の名を継いだ魔王、ゼルキオス・フェルノハート。

 怠惰な魔王の初陣である。


 +++


 玉座の間には、昨日急遽引き込んだ元侵入者たちが集まっていた。

 皆、ゼルキオスが玉座に座るまで(ひざまず)いてこうべを垂れている。

 おもてをあげよという声が響き、一斉にゼルキオスの方に顔を向けてきた。


「エールネス、何者か攻め込んできたか?」

「はい。先発部隊のようです。私が確認した限りでは三隊」

「そうか。後に入ってきた二名にはまだ何の役職も与えていなかったな。シェイドとミミィ。お前たちは二人一組でシャドウ・シグナル隊だ」


 ゼルキオスが宣言すると、シェイドとミミィは胸に手を当てて敬礼する。

 

「魔王様の言うことならば、喜んで」

「あたいも、やらせていただきます」


 二人の返事に頷くと、ゼルキオスは立ち上がり四人を見回す。

 自分を見る視線に答えるように、腰にぶらさげていた剣を抜いて順に指し示す。


「ブレイブ・バウンス隊。ラミアのセリー、お前は前衛索敵官。スカウトセンサーだ。オークのグラ坊は特攻戦術隊長。グラ坊はその名の通り隊への突撃を。セリーはいち早く敵の位置をグラ坊に知らせ、身の危険が及んだ時はすぐに後方へ下がれ」

「はい、拝命いたします」

「おう! まかせてくれ!」


 ゼルキオスは引き続き、剣で順に指し示す。


「シャドウ・シグナル隊。エルフのシェイド、お前は錯乱戦術実行班長として敵の部隊へ一刻も早く入り込み、お前の自慢の顔と仕草で敵の隊の者どもを夢中にさせろ。ホビットのミミィ、お前は情報混乱工作員だ。おしゃべりが好きだと言うのなら敵の中で嘘の情報をそれらしく話して混乱させて来い」

「なるほど、それなら簡単なことだ」

「分かった! 誰とでも仲良くなって打ち解けるのは得意なんだ」


 ゼルキオスは四人に役職と役割を伝えると、今度は傍らのエールネスへ視線を流す。


「エールネス、お前は参謀長であり副官だ。いつも通り俺の隣だ」

「御意」

「以上。質問はあるか?」


 ゼルキオスが作戦内容を伝えると、シェイドがはーいと手をあげた。

 ゼルキオスはあごで続きを離せとシェイドに発言を促す。


「今日のゼルキオス様はとてもカッコイイですが、この軍はできたばかりで戦う者がほぼいないですよね?」


 ゼルキオスはシェイドの言った前半部分を無視して、話を続ける。

 

「お前たちは不出来だと言っても、戦闘訓練は受けているだろう? グラ坊はそのままだが、セリーは魔法でお前は暗殺術。ミミィも何かしらできるだろう?」

「そこまで自信はないですけど、急所に針を刺すくらいなら」

「充分だ。俺は敵部隊のせん滅を期待している訳ではない。かく乱だ。それによって二度とここへ来たいと思わないようにさせる。それだけだ」

「万が一のことがあれば、私も戦闘に参加します。ご安心を」


 エールネスが言い切ると、全員どこか安心した様子を見せた。

 ヴァンパイアは種族としても、基本強いことが知られているからだ。

 

「先に言っておくが、俺は残念ながら戦力外だ。ただし、エールネスも言っている通り俺には唯一持っている力がある。それでお前たちを鼓舞する。その時になれば、言っている意味が分かるはずだ」

「わ、わたしは魔王様の事を信頼しています。昨日の今日お会いしたばかりですが、精一杯頑張ります」


 セリーが震えながら伝えると、ゼルキオスは微笑して頷いてみせた。

 セリーはゼルキオスの微笑を真に受けたのか、顔をほんのり赤く染めて柔らかに微笑み返していた。

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