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スキル最弱魔王は、愛の力で戦況を一気に覆す  作者: あざらし かえで


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7.卑屈

 ゼルキオスは時々考えてしまう。母と父が生きていたら、どうするのだろうかと。

 考えても無駄なことだが、魔王の血と人間の血でできた半端者の自分でもいいと肯定してくれたのだろうか?

 

「母は一体何を考えていたのだろう? 未だに何も理解できない。適当に言うことを聞いて、適当に言うことを聞かせていれば今頃生き残っていたかもしれないのに……」


 疲労感に任せて瞳を閉じると、以前に聞いた話がゼルキオスの中で蘇ってきた。


 +++


冥魔(めいま)連合は、前魔王様であなたの母上であるアグナリアン・フェルノ様に反旗を(ひるがえ)した魔界の古き貴族を中心とした組織です」

「それで?」

「彼らは今も我々のことを疎ましく思い、探しているでしょうね」

「俺が持つ魔王の称号を狙ってか?」


 エールネスの頷きが、推測を事実だと語っていた。

 自分が狙われるのは仕方のないこと。それは早々に割り切ることができた。

 魔界は甘いところではないし、自分自身に力がなくとも魔王を名乗る者は魔界で覇権を握れる力を持つ者。

 その者が弱ければ、奪う者が現れるのは魔界の道理だ。


「エールネス、お前は冥魔連合でも有用な人物として見込まれていたはずだ。なのに、俺についてきたせいでお前は冥魔連合を離れることになった。お前はそれで良かったのか?」

「私が心から仕えていたお方は前魔王のアグナリアン様です。アグナリアン様が命じたのはあなたのこと。その命をお守りすることこそ、私が成すべきことであり使命です」


 淀みなく答える声は冷静沈着のそのものであり、ただ単に命令を遂行(すいこう)し続けているだけにも見える。

 だが、ゼルキオスもまたエールネスの助けを必要としていることも間違いない。


「ならば仕方ない。エールネス、よろしく頼む」

「御意」


 +++


 エールネスは母であるアグナリアンの命を守り続けて自分の傍にいる。

 だが、時々それで正しいのだろうかと不安になる。自身の愛の力のせいで縛り付けているだけで、本当はとっくに見限られているのではないかと疑ってしまうのだ。


「……だから、魔王など捨ててやりたくなる。魔王で居続けろと言うのならば、存在しない方がいい」

「あなたはまた、そのようなくだらないことを言っておられるのですか」


 ゼルキオスが視線をあげると、いつの間にかエールネスが見下ろしていた。

 エールネスにとって、気配を消すことなど大したことはないことだった。

 ゼルキオスも慣れているせいで、驚きもせずただ不機嫌そうな表情を向けるだけだ。


「どう思おうとお前には関係ない。前から言っている。俺は魔王の器ではない。ただ、血を受け継いでいるというだけ。それも半端な血だ」

「あなたはいつになっても卑屈だ。それでも魔王の血を引く者ですか?」

「説教なら、また改めて聞く。今日はもう疲れた」


 エールネスは表情一つ変えない。ゼルキオスが見放されても仕方ないような態度をとっても、いつも変わらず接してくるだけだ。


「結界ですが、修復するのには時間がかかりそうです。今日侵入された様子を見るに、明日にも先発隊がやってきてもおかしくありません」

「そうか。正直、何もしたくもない。俺は怠惰に過ごしていたいだけだ」

「だから、このまま何もせず奪われても仕方がないとおっしゃるのですか?」

「そうだ……と言いたいところだが。今日、軍を立ち上げてしまったばかりだ。お前に乗せられてな。こうなってしまった以上は、やるしかない」


 ゼルキオスはじっとエールネスを見つめた。カーマインの瞳は何も映していないが、それでも視線は外さない。

 心を通わせているとも思えないエールネスだけが、ゼルキオスの信頼できる唯一の人物だ。


「あの者たちを実戦投入するのにはちょうどいいだろう。明日、我らから先に動くとしよう」

「御意」


 エールネスは目を伏せて一礼をする。ゼルキオスは確認し、下がれと手を振っていつもの合図をだすがエールネスは部屋から下がる前に一度だけゼルキオスの方へ振り返った。


「私は確かにあなたと心を通わせてはいません。ですから、あなたの愛の力は私に及んでいません。それでも、私はあなたをお守りします。それが、私の使命です」

「分かっている」


 最後に念を押され、ゼルキオスは更に苛立ちながら扉をにらみつけるしかなかった。

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