6.疲労感
エールネスが視線でゼルキオスに新たなる侵入者の処分を訴えてきたので、ゼルキオスは侵入者に対して出てこいとあごで促した。
エールネスが部屋の明かりを灯すと、小柄な侵入者が震えながらガバリと頭を下げた。
「侵入しただけでなく、盗みを働いたことは謝ります。ただ、こちらの城の結界は年数が経っているせいで劣化していると聞いて……身を隠すことができるのではないかと思ったんです」
「それで、実際に侵入もたやすく盗みもできると思ったのか。一体誰がそのようなことを言ったのやら」
ゼルキオスが鼻を鳴らすと、エールネスが耳元で説明を始める。
「おそらくは……私が元所属していた冥魔連合の輩かと。侵入者の種族はホビット。ホビット族もエルフと同じくユグ・サリルアの守り人なのでしょう」
「なるほど。で、お前は軍を追放されたと言ったな。名は何という?」
「あたいは、ミミーリアン・トークスノックルといいます。そちらの方がおっしゃる通り、ユグ・サリルアの守り人として活動していました」
「私の声を聞き取るとは……お前は耳が良いのですね」
エールネスが僅かに驚いた様子を見せたので、ゼルキオスも改めて目の前のミミーリアンに興味を示す。
ブラウンの三つ編みを左右に結っており、くりっとしたペールオレンジの瞳でホビットとしては平凡な見た目なのだろう。
ただ服装に関しては、様々な色を切り張りしたようなつぎはぎだらけのふわりとした服であり諜報活動をする服というよりかは街にいそうな娘という雰囲気だ。
それゆえに、ミミーリアンは警戒されにくいとも考えられる。
「では……ミミィよ。お前に罰を与えよう。今日からお前は我がアモルディア軍に所属し、その好奇心を生かして相手の懐に飛び込んでおしゃべりしてくるといい。お前のその見ためならば警戒されづらいだろう」
「え、ええっ? あたいがですか? でも……本来であればあたいのような命なんて軽く吹き飛ぶはず。だけど……魔王様のキレイな瞳。あなたさまはとても素敵な方とお見受けしました」
ゼルキオスが少し表情を変えただけで、怯えていたものでさえ心変わりしてしまう。
ローズピンクの瞳は、気だるそうに力なく怠惰かと思えば魔王とは思えない優しい表情で相手を魅了することもある。
ゼルキオスにとっては迷惑でしかない愛の力こそが、今は彼の唯一の武器となりえるものだった。
ミミィはニカっと笑うと、よろしくお願いしますとぺこっと頭を下げる。
「ゼルキオス様、ようやくやる気になりましたか。本来であればもっと備えなくてはならなかったのですが……毎日あなたは……」
「うるさい。これも全て結界のせいだ。アイツがもっと仕事をしてくれれば、よく分からない者どもが侵入することもなかった。この責任をどう考える?」
「全ては私の力が至らぬせいですね。申し訳ありません。私はこれから結界の様子を見て参ります。ゼルキオス様、今度こそお休みください。この者は私が部屋まで案内しておきます」
「ああ。私はもう休む。飲む気も失せた」
ゼルキオスは大きなあくびをすると、後は任せたと言わんばかりに二人に背を向けて歩き出す。
今度こそ自室へ辿り着くとソファに寝転んでふかふかのクッションの上に顔を埋めた。
「……どうして俺のことを放っておいてくれないのだ。魔王など……いつでも辞めてやるというのに……」
ゼルキオスにとっての家族の代わりはエールネスだけだ。
エールネス・ヴァロックズは優秀な執事でもあるが、戦闘能力も高いヴァンパイアだ。
前魔王で母でもあるアグナリアンの腹心の一人であり、彼自身も言っていた通り本来は冥魔連合に所属していた。
だが、前魔王は全て気が合うか合わないかでしか損得を考えず、魔界の誇り高きヴァンパイアの貴族たちが所属している冥魔連合の言うことを無視することも多かった。
結婚相手に選んだ父である勇者、ユスティヒト・ハートのことも冥魔連合の者たちを憤慨させる結果になってしまった。




