4.派手な侵入者
部屋へ戻ってきたゼルキオスが惰眠を貪ろうと、ふかふかのベッドへ寝転ぼうとした瞬間。
今度は庭から、いたっという声が聞こえてくる。
ゼルキオスは不機嫌な表情を浮かべ、仕方なく窓を開いて庭を見下ろした。
「い、痛いって!」
「今日は不審者が多い日ですね。今度はエルフですか」
「エルフだけど、無害なエルフだって! 信じてくれよー」
「無害なエルフは魔王様の寝室へ忍び込もうとしないのですよ。この木を伝って行こうとしましたね?」
どうやらエールネスの見回り中に不審者がいたらしい。特徴的な尖った耳は確かにエルフのようだ。
輝くシルバーの美しく長い髪と透き通るようなアイスブルーの瞳の顔はエルフらしく整った顔つきに見える。
しかし、やたらと目を引く大きな花柄の派手なシャツと、ゆるそうなホワイトのパンツの先から見えている腕と足をばたつかせている様子は騒がしく知的には見えない。
しゃれたシルバーのブーツが光って、ゼルキオスの視界を邪魔してくる。
ゼルキオスは気配に気づいたらしいエールネスが自分に顔を向けてきたことに気づくと顔でなんだ? と話の先を促した。
エールネスは腕を捕らえて地に伏せさせたエルフに対して冷酷な視線を投げる。
エルフはいたたと騒ぎながら、悪かったって! と必死で言い訳を始めた。
「好奇心だって! 確かに僕はアサシンだったけど、今はただのエルフさ。魔王を暗殺して来いって言われた気もするけど、なんだか面白そうな気配を感じて遊びに来ただけで……」
「お前……ゼルキオス様に危害を加えるつもりだったのか?」
「いだだだ! だ、だからそんなつもりはない! 窓から覗いているのが魔王様だろう? 魔王様は可愛いし、アンタも顔がイイからおいしいっていうか……」
「誰が可愛いだ! エールネス、そいつを好きにしていい。許す」
ゼルキオスが許可を出すと、エールネスは素早く懐からナイフを取り出しエルフの首筋にひたりと当てる。
エルフはわーわー騒ぎながら、助けてー! と更にジタバタし始めた。
ゼルキオスはうるさい! と一喝して、やめろの意で手をひらりと振る。
エールネスはすぐさま反応してサッと手を離し、ゼルキオスに向けて美しい一礼を返した。
「はぁっはぁっ……い、生きてる……な、なんでもするからどうか命だけは……」
「この者、どうやらワザと捕まってみせたようです。我々の反応をうかがっていたのかと」
「ほう? アサシン、俺の首が欲しければ狙ってみせろ。俺は逃げも隠れもしない」
ゼルキオスは挑戦的に微笑んで見せた。すると、エルフは急に表情を変えて微笑み返してくる。
ゼルキオスが反射的に眉をひそめると、エルフは更に面白そうにゼルキオスを見つめてきた。
「僕、魔王様に一目ぼれしたかも?」
「さすがゼルキオス様。これこそ愛の……」
エールネスが全てを言い切る前にゼルキオスは顎をクイっと動かして指図する。
すると、エールネスは恭しく礼をしてからエルフを歩かせて城内へ促していく。
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「で、お前はやはりユグ・サリルアの守り人か?」
玉座の間で再度行われる魔王の尋問に、エルフはペラペラと事情を話し始める。
ユグ・サリルアの守り人も世界樹ユグ・サリルアを崇拝する軍のようなものだという。
エルフとダークエルフ、ホビットなどを中心とした種族で鉄壁の守りを固めているらしい。
それぞれ血筋ごとに決まった役割が与えられており、生まれながらにしてその役割を全うすることを運命づけられる仕組みだと、エルフは説明した。
「僕の血筋はエルフの中でも暗殺を担う者たちです。だけど、僕はそんな陰気臭いことは嫌いだ。美しい者の命を奪い取る行為など……できる訳がない」
「そういって城内の者に取り入って、寝首を搔くつもりか?」
「普通のアサシンはそうかもしれないですが、僕は……任務を遂行したことなんてありませんよ。暗殺対象者は皆、逃がしました」
エルフの主張に対し、ゼルキオスは眉を跳ね上げて鼻で笑い飛ばす。




