3.対魔王勢力
牢のある地下から上がってきた四人は、玉座の間へと移動する。
古い廊下を進むと、古ぼけたじゅうたんの敷かれた部屋へ辿り着く。
両扉が開け放たれた部屋には、くすんだゴールドの玉座が置かれていた。
ゼルキオスは玉座へ座ると、足を組んでからひじ置きにひじを置いて頬杖をつく。
「ラミアの名はセルウィア・スネール。そちらのオークは、グラード・モルキアだったな。呼びづらいので、セリーとグラ坊とでも呼んでやろう。セリー。お前は軍を追放されたと言っていたがなぜだ?」
「は、はい。私は偵察部隊の所属だったのですが……こ、怖くて敵を見つけるとつい逃げてしまって……味方に知らせることもせずに安全なところでいつも震えておりました」
セリーの言い分を聞いて、ゼルキオスは眉間をトントンと叩く。
隣のエールネスも無表情のまま、ゼルキオスの傍で仕えるように立っている。
しばしの沈黙のあと、ゼルキオスはスッとセリーを指さした。
「セリー、お前はやはり前衛が向いている。逃げ出すほどに怖がるということは、言い換えれば誰よりも危険察知能力が高いということ。お前ならば、何も考えずに突撃するグラ坊をうまく使いこなせるだろう」
「んっ? 俺っちは突撃すりゃいいのか? それなら簡単だ!」
グラ坊は任せとけと楽しそうにガガガと笑っているが、セリーの顔色は相変わらず優れない。
小刻みに震えたまま、じっとゼルキオスを見つめる。
「恐れながら……わたしはとても怖いのです。魔王様の慈悲には心から感謝しておりますが、このグラードさんと共にできるでしょうか?」
「心配ない。オークは屈強だし、コイツは突進せよと言えばどこまでも突進するようだしな。怖いからあっちへ行って倒してこいと伝えるだけでいい。セリーは気づきが早いのだから、隠れようが伝えられるはずだ」
「な、なるほど……確かにグラードさんならばわたしを守ってくれそうですね」
セリーは安心したせいか、肌に少し色味が差し込んできたようだ。
ゼルキオスも静かに頷いて見せた。
「ああ。お前たちはアモルディア軍のブレイブ・バウンス隊として、二人一組で動け。セリー、グラ坊を突っ込ませたあとは後方に下がり、俺の傍にいても構わないぞ」
「そ、そのような……わたしのような醜いものに慈悲をかけていただき、ありがとうございます」
セリーは涙を浮かべて何度もお辞儀をするので、ゼルキオスが手のひらを突き出して良いとその行為を留めた。
そして、目を輝かせたグラードがゼルキオスを見ながら拳と拳を付き合わせた。
「俺っちは突進するだけだ! 突進して敵をぶっとばしたら帰ってくればいいか?」
「そうだな。お前は突進してセリーが怖くないようにしろ。そして、誰もいなくなったらセリーのところへ帰ってこい。できるか?」
「セリーはいい香りがする。だから、分かるぞ」
グラ坊がクンクンと鼻を鳴らすと、セリーが驚いてビクっと両肩を揺らした。
ゼルキオスが面白そうに二人を眺めていると、エールネスがゼルキオスに耳打ちしてくる。
「戦力としては不安しかありませんが……二人組にするのは良い考えですね」
「フン。いないよりはマシだろう。二人ともその辺りは心得ているようだし構わん。どうせ、このいらぬ能力があれば裏切りの心配もない」
「ゼルキオス様のお心が相手に通じることが第一ですが、相手の心に入り込めれば強さを引き出すことも篭絡も可能なお力。それこそが愛の神髄ですね」
「お前もその口か?」
エールネスはゼルキオスの戯れの言葉には返事をせず、セリーとグラートを下がらせる。
ゼルキオスが元々適当な部屋を使えと伝えてあったので、二人は空き部屋を選んで待機するだろうと踏んでの判断だ。
「……まあいい。ふわぁ……真面目なことをすると疲れる。俺もそろそろ自室へ戻る」
「では、夕飯の時にお知らせいたします。それまではお休みください」
エールネスが恭しく頭を下げると、ゼルキオスも深く頷く。
ゆっくりと立ち上がり、自室へ向かうために歩き出した。




