2.魔王の微笑
牢に入れられていたのは、一人ではなかった。
一人は屈強なグリーンの肉体を持った大きな声のオーク、一人はネイビーの長い髪とヘビのような身体を持つ者。
別の種族の者がそれぞれ隣同士の牢に入れられている。
「オークとラミア……しかも、武装しているのか。どこかの勢力に所属しているのか?」
「あー……なんだっけかなぁー……覚えるの苦手だから分かんねぇ……」
「そ、そのオークさんはきっと……グルガド・グルズ連隊の方かと。わたしは……セイレナイツ遊撃軍に所属していました」
ラミアは長いネイビーの髪をぷるぷると震わせながらゴールドブラウンの片目を潤ませ、ゼルキオスに訴えてくる。
ゼルキオスは視線を隣のエールネスへ投げた。
エールネスはゼルキオスの視線を受け、牢の中の二人を見ながら口を開く。
「グルガド・グルズ連隊は力第一主義の野蛮な隊ですね。オークやゴブリンなどの種族たちの集まりです。一方、セイレナイツ遊撃軍は美しさに重きを置いている軍でラミアやハーピーたちが多い軍。二つの派閥は嫌悪しあう関係です」
「で、こいつらは俺の命でも狙ってるって言うのか?」
「ゼルキオス様は魔界に住む者たちから常に狙われているお方。お母上であらせられるアグナリアン様は討たれましたが、お子であるあなた様は魔王を継ぐ者。ゼルキオス様から魔王の称号を奪わなければ、新たな魔王を名乗ることはできません」
エールネスが淡々と告げていく言葉を聞きながら、ゼルキオスは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
そして、気だるそうにオークとラミアを順番に眺めてから二人の牢の間にしゃがみこんだ。
「で、お前たちに一応問うが。コイツの言う通り、俺の正体を知ってこの地に入り込んだのか?」
「と、とんでもございませんっ! わたしは……元々所属していたセイレナイツ遊撃軍を追放された身。どこにいても恐ろしくて仕方ないと思っていたときに、とても安心できる場所を見つけたのです」
「ああん? 知らねえよ、あんたのことなんか。ただ、行ってこいと言われたから突っ走っただけだ」
ラミアとオークの言い分を聞き、ゼルキオスはつまらなそうに欠伸をしてからふむ……と面倒そうに二人を順番に見る。
次第に眉間にしわが寄っていき、面倒……とついには口に出した。
「……ゼルキオス様、どういたしますか?」
「どうって……放り出してもいいが、このオークがうるさくてかなわん。敷地なんていくらでも余ってるだろう? ここには俺とお前しか住んでいないのだからな」
「成程、このような者たちでも戦力としてお加えになるということですね?」
「戦力というか……いや、そういうことだ」
ゼルキオスはエールネスからの無言の圧力を感じ、仕方なく頷く。
そして、もう一度ラミアとオークを順に見ながら……今までとは全く違う表情を浮かべた。
その表情は魔王と言う名にはふさわしくない、温和で優しさに満ちた微笑みだ。
「お前たち、我が配下となることを許そう。これからはこの辺境の地アモルディアのために尽くすがいい」
「……っ! は、はいっ」
「おうっ!」
震えていたはずのラミアも、話が通じなかったオークでさえも従順に頷いてゼルキオスに忠誠を誓う。
無表情だったはずのエールネスさえも、口元にわずかな笑みを浮かべていた。
「それでこそ、ゼルキオス様です」
「……お前、絶対そう思ってないだろう? 魔王とは名ばかりの非力な俺に、よくもまあ過保護に世話を焼いているもんだ」
「ゼルキオス様には立派なお力があるではありませんか。魔の者たちには決して持ち得ないその力。愛のお力です」
「愛……いつ聞いても鳥肌が止まらないからやめろ。どうせなら母の偉大な魔王の力を受け継ぎたかった……」
ゼルキオスはぶつぶつ文句を言っていたが、エールネスによって牢から出されたラミアとオークはゼルキオスの前に忠誠を誓うように跪いた。




