1.無気力
部屋の中心には、座り心地のよさそうなふかふかとしたソファらしきものが置いてある。
ソファの上にはぐでんとだらけた人らしきものが、クッションに顔を埋めてぼんやりとしていた。
ラベンダー色の長い髪はやや乱れているものの、腰の辺りでゆるりと大きな白のリボンで結ばれている。
ゆったりとしたローズピンクのローブは部屋着らしい。少し透ける素材は、白い肌をより際立たせていた。
「ゼルキオス様、またこちらにいたのですか」
室内に入ってきた従者らしき人物が、ソファで埋もれる人物を見下ろして大きなため息を吐く。
ゼルキオスと呼ばれた人物と違い、彼は短く切られたシルバーの髪をキッチリと後ろへ撫でつけ黒い執事服をパリっと着こなしていた。
白い手袋をはめた指先で、シルバーのチェーンで繋がれた同じくシルバーの四角いメガネをクイっと直す。
「別に。やることもないんだ。何をしようと俺の勝手だろう?」
鬱陶しそうにゼルキオスが執事を見上げた。彼のローズピンクの瞳はやる気が感じられず、垂れ目が更に下がっているようにも見える。
一方執事はカーマインの切れ長の瞳でゼルキオスを無表情で見下ろしたままだ。
少しの沈黙に耐えかねたゼルキオスの方が、ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき回して身体を起こす。
「分かった。起き上がればいいんだろう? お前はいつも無言で怖いんだよ」
「怖いとは? 私は何も間違ったことは言っておりませんが」
「……それで? 報告があるなら聞く。この辺境の地のアモルディアに今更何かあるとも思えないんだがな」
「そうとも言い切れません。今朝、この地に張られた結界をすり抜けて侵入した者がおります。今、牢に閉じ込めておりますが会われますか?」
執事が淡々と告げると、ゼルキオスはいかにも面倒だという空気を出しながらゆっくりと立ち上がった。
執事はゼルキオスのローズピンクのローブの上に、ホワイトの生地でゴールドの刺繍があしらわれたマントを羽織らせた。
それだけでも、彼の雰囲気は変わるものだ。
「このマントは動きづらいからあまり好きではないのに……」
「そのローブも私としては人前でお見せするには少々難があると申しております。お互いに譲り合った結果ですので」
「そうだったな。では、さっさと終わらせよう」
「御意」
ゼルキオスはマントを翻し、執事の後について廊下を進んでいく。
ところどころ痛んだ壁は、清潔に保たれているものの老朽化が進んでいる。
長い間放置されていた城を、執事が丁寧に管理していることはゼルキオスも承知の上だった。
執事がいなければ、自分は今まで生きていることもなかったのだろうと常々感じていたからだ。
ギィと音を立てた扉を開け、執事は片手にランプを手に持ちゆっくりと階段を下りていく。
薄暗い階段を下りた先に、湿った空気と共に牢が見えてきた。
「あ……やっと、来てくれた……」
「おうおう! なんで俺っちたちは閉じ込められてんだ? なんもしてないだろうが!」
「何もするしないではありません。あなたたちは不法侵入者です。我がアモルディアの結界をすり抜けて侵入してきたのはそちらですよ」
「エールネス、それくらいで。俺は事を荒立てたくない。コイツらに俺をどうこうする意思がないのなら、さっさと出て行ってもらってくれ」
ゼルキオスは鬱陶しそうに手で追い払う仕草をするが、牢の中にいるグリーンの肌のオークはイエローグリーンの瞳をギラギラと輝かせてガシャンと牢へ掴みかかった。
頭の上の茶色の髪がふわっと揺れる。
「待ってくれ! 俺っちはココがどこだかも分からねぇんだ。ただ行ってこいと言われたから来ただけで……もう帰る場所も分からねぇ! 放り出されても野垂れ死んじまう!」
ガシャン! という大きな音とオークの男の大声に、隣の牢にいるヘビの身体を持つネイビーの髪の人物が震えだした。




