9.アモルディア軍の初戦闘
ゼルキオスは城のてっぺんで、各場所へ散っていく四人を眺めていた。
その姿が結界の外へ消えていくと、今度はエールネスが魔法で空へその姿を映し出す。
四人の姿は空中に映し出され、各々が与えられた任務に当たろうとしているのが分かる。
「グラ坊は勝手な判断で一人突進せずに、セリーの隣で指示を仰いでいるようだな。セリーも少し怖がってはいるが、危険察知は誰よりも早いな」
「シャドウ・シグナル隊の二人も、敵の部隊と接触したようです。二人ともまるで初めから軍にいるように振る舞っていますね」
即席の部下たちがゼルキオスの指示通り動いたおかげで、全てゼルキオスの計算通りの展開へ傾いていく。
ゼルキオスは満足げな笑みを浮かべて一度両目を閉じ、グッと剣の柄を握りしめるとそれぞれの映像に剣先を向けた。
「お前たちには、俺がついている。心配するな」
ゼルキオスの言葉に呼応して、剣先が薄く光り始めた。
光は空に向かって伸びて行き、ある程度伸び切ると四方へ飛んでいく。
その光はやがて、映像の中の四人へ順番に届いて優しく四人を包み込む。
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「あ、あたたかい……」
「おー! これなら何人でも倒せそうだ!」
ゼルキオスの光は、他者に自分の力を分け与え効果を倍増させる力がある。
セリーはゼルキオスの言葉を思い出し理解したようだが、グラ坊は張り切っているだけで特に理解はできなかったらしい。
グラ坊が腕をぐるぐると回していると、セリーがいち早く敵が潜む位置に気づき震えながら指を差す。
「グラードさん、あちらの方向に……恐ろしい気配を感じます。わたしたちを弓で撃ち抜こうとしているような……」
「おう! とりあえずひとっ走り行ってくるから、セリーは木の後ろにいてくれな!」
「お、お気をつけて」
グラードは言われた通り何も疑いもせず、勢いよく突進していく。
そして、わずかな時間でぎゃあという叫び声が聞こえたかと思うとあっという間にセリーのところへ戻ってくる。
この繰り返しだ。だが、確実に相手の戦力を削ることができているようだ。
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「フッ……いやあ、君はこのような深い森の中にいるべきではないよ。その美しい顔を曇らせてはいけない」
「そうもいかない。我らには任務が……」
「任務は確かに大切なことだ、だがそれでも……僕は君のことが心配なんだ。初めて出会った君が傷ついて……その先のことなんて考えられない! 君のつややかな髪は、この緑よりも深く美しい……」
シェイドは気真面目そうなラミアの髪をひと房つかみ、優しいキスを落としていた。
一見優男なだけでただ軟派なことを言っているだけだが、シェイドは仕草と表情も完璧だ。
今戦闘を仕掛けに来ているはずなのに、まるで別空間のような雰囲気にしてしまう魅力と色気があった。
一方ミミィはそっと敵部隊に紛れ込み、持ち前の人懐っこさで戦いの場を感じさせずにおしゃべりをしていた。
「知ってる? 今回派遣されたあたいたちは先行隊。だから、後からやってくる後発隊の繋ぎなだけ。いるかいないかも分からない魔王にケガさせられたってお給金も出ないって」
「そんな! うちには病気の妹が……」
「だったら、早く家に帰ったほうがいいよ。妹が待ってる。あたいにも弟がいるんだ。同じく病気」
「そう、なんだ……」
本当のことと嘘を混ぜて、不安をあおる作戦のようだ。
ホビットはミミィの言葉に悩んでいるようだ。どうやら、戦闘経験があまりなさそうなホビットの弓兵らしい。
ミミィは敵のふところにあっさりともぐりこみ、得意の話術で敵の連携を乱していく。
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「初仕事としては上等だな。元々向いていない仕事をやらされていたせいで力を発揮できなかったようだが、配置換えしてやっただけでなかなかよくやってるじゃないか」
「本来はここまで力を発揮できないはずです。これもゼルキオス様のお力ですね」
「自分自身に効果がないせいで、俺自身は本当に役に立たないがな。いや……今は卑屈になっている場合ではないな。俺だってそれくらいは理解している」
「ならよいのですが。後は彼らがこちらに敵を通さなければ私の出番はないはず」
エールネスの視線が厳しいものへと変化する。彼も黒の軍服姿で僅かな手勢の活躍を観察していた。




