9話 双剣の使い手
9話
双剣の使い手
剣術の授業が始まった。トリティヤ教官の計らいもあってガーディアとその取り巻きは別の部屋で自習という形を取ることになった。正直戦い方を学ぶ場で、先ほどまでやり合った人たちとまともな授業作りなんてできる気もしないのでよかった。
「新入り二人。マーカライル・シラヴィス。クレアラ・コーチス。お前ら2人にはこの授業の終わりに各自剣を与える。もちろん真剣だ。この授業では普段、木剣による訓練を行なっているが、試験の時は別で、医療班同行の元、なるべく殺しから離れた戦闘内容をお互いに心掛けた上で真剣による模擬戦を行ってもらうこともある。まぁ、シラヴィスは誰に何度斬り刻まれようと問題ないだろうがな」
この施設に入って、俺の生い立ちや傷を塞げる能力についての聴取が行われた。当然、ここで生活させてもらうだけではなく、勉学や勇者としての訓練までさせてもらえるのだ、答えられる限り答えた。但し、ルザの存在と、オレが別の世界から転移してきたことは話さなかった。どちらも、大なり小なりややこしくすると考えたからだ。
「大ありですよ。痛いんですから」
トリティヤ教官から次に、籠手などの剣士が装備する細かな道具を配布された。闘士はなるべく身軽に、相手の懐に入って戦うスタイルだったことが昨日の授業で分かったが、剣士はまた少し違うようだ。
「あくまでこんな道具は練習で怪我を防ぐためのものとでも思ってくれ。この施設を出て各々勇者になった時に、もし剣士の道を歩むなら、その時はもっとしっかりした物を装備することだ」
「“因みに、ボクが君に勧める勇者の種類は圧倒的に剣士だよ。今日の授業が終わったら詳しく勧める理由を教えるねぇ〜”」
“あ、うん。ありがとう”
授業が始まった。俺とクレアラは初めに木剣をもらうと、教官の指示通り皆で一通り剣の素振りをした。
型とまでは言わずとも、剣術には足運びと上半身の捻りを若干変えただけで剣のブレや振りの大きさ。そして速さに大きな違いが出ることがわかった。
要するにテンポ。タイミングだ。
ただの素振りでもそれを意識的に行ってようやくぎこちなく出来る程度なのに、これを相手の剣を受け流したり相手を斬ることを想定しながら動いたらとても身体がついてきそうにない。
※この授業で使用されている木剣も紛れもない魔剣で、名前はイコール。何故その名がついたかというと、訓練用木剣として特注されたデザインに加え、特殊な魔術を発動させる桂字が埋め込まれている。その魔術とは、いかなる者が握り振ろうとも、その木剣は一定の重さであり続けるというもの。つまりアカツキが所有していた雷切の様に、魔力を注ぐ前と後とで重さに差異が出ることがないというものだ。
「よし、じゃあ全員、適当に相手を見つけて叩き合え。能力の使用は当然大丈夫だ。それじゃあ開始!」
能力の使用を許可した。なるほど、この施設には……。
「“能力者が多く在籍しているみたいだね。能力の存在をひた隠しにする必要がない程度に”」
この世界での行動が増えるたびに、疑問が湧き上がる。今日はそれが特別多い日になりそうだが、今は授業に集中だ。
叩き合うって……。そうなると必然的に俺と叩き合ってくれそうなのはアカツキとかになりそうだけど。
そう思ってアカツキの方に目をやろうとした種間、トリティヤ教官が俺に詰め寄る。
「シラヴィス。お前は俺とだ」
「えっ……⁉︎」
凄い嫌な提案をされた。身体が無意識に強ばる。ここは適当に何か話しかけて、少しでも授業時間を削ろう。
「え、えーっと。なんで能力の使用を許可したんですか? 剣術の指導がメインなんじゃ」
「勇者になって戦うなら、お前はわざわざ能力を使わないで戦うか? それとも下手な出し惜しみはせずにしっかり能力を使って安全に戦うか? どっちだ?」
後者だ。確かに、訓練は本番の様にやらなければ意味がない。
それを意識しての授業か。
と、俺はしっかり自己解決したのだが……。
「んーーでも、確かに剣術の素量を磨かせるなら能力は使わせない方がいいな。うん、一理あるな、お前の提案ということでそうしてみるか」
「いやいやいやいや、教官なんですからトリティヤさんが決めてくださいよっ」
「ん? そうか」
なんか掴みにくい人だなぁ。
「とにかく俺との叩きあいだ。因みにお前を選んだのは、単純にお前が新入りだからだ。次の授業ではコーチスを指名する」
なるほど、新入りの素量を知っておきたいだけのことか。変に意識されていた訳じゃなくてよかった。
「わかりました。お手柔らかにお願いします」
「あぁ。身体能力はお前に合わせてやる。ただ俺は、剣技で戦う」
そう言って木剣を構える。トリティヤ教官によって構えられた木剣は、俺が持つ木剣と同じ『イコール』だ。
なのに、同じはずなのに……何倍にも大きく重そうに見える。
「かかって来い。それとも、女の子の1人や2人、助ける口実がなければお前は動けないのか?」
この施設に引き取られた経緯は当然知っているわけか。それを絡めたあからさまな挑発。このままそれに乗って突っ込んでいいものなのだろうか。
けど、この人に先手を取らせたら、一瞬で終わる気がする。
よし、ここは俺から……さっき習った足運びで行くぞ!
「ふうっ……!」
さっき習った足運び。『一点歩行』
自分が進む方向に身体とつま先。気持ちの向きまで全てをシンクロさせて一蹴りにし、相手との間合いを1歩で詰める足運びだ。
歩行という名が後についているのは、かつて堕天使と短時間ながら互角の戦いを見せた伝説の剣士が、その足運びを普通の歩き同然の様に行っていたからだそうだ。
上手くいった。ルザから見た目に変化が出ない程度に、上手く力を引き出せている。このまま教官の胴を一太刀に……。
そう思っていた。しかし次の瞬間、喉元に鈍い衝撃が走る。そして、喉元に教官の剣が突き立てられた状態で、俺はその場で静止する。
「ゔっ………」
「先ほど習った事を実践するのはいい心構えだな。ただ、これが剣術の熟練度が織りなす実力の差だ」
いやいや、どう考えても教官の方が速かった。明らかに今の俺の身体能力じゃ対応できない速度を出していた。
「“いいや? 今のは教官の技術の賜物だね。しっかり君の動きによって生じる君の弱点を見切って動いてた。教官と同程度の技量が有れば対応できたよ”」
“ルザは剣術も詳しいの?”
「“まぁ、長生きしてるからねぇ〜”」
ルザが言うなら、教官の言う通り熟練度の差なのだろう。
にしても……本当に見えなかった。
「お前がさっき使用した『一点歩行』は、1方向に驚異的なスピードで迫る移動技術だが欠点もある。それは先手を取りきれなかった時だ。【最先手】の二つ名を持つ剣士が居るが、アレほど相手の先手を取る嗅覚がなければ、一点歩行を使うタイミングはもう少し考えてから決めた方がいい。あと、一点歩行を多用する剣士は多く居るが、そいつらはお前よりも。いや、俺よりも剣の運びが上手い。だから先ほどのお前のように喉元に返り討ちをくらうことはないだろう」
「なるほど。単純にさっきの俺は浅はかだった。という事ですね」
「あぁ。素人ってのは慎重になっているつもりだろうが実は違う。安定してないんだ、警戒心が。でも………」
と、ここで教官が話を止める。
顎に手を当てて何かを小声で呟きながら考え事をしている。なんだ……?
「うん。攻防が安定しないから使う奴は希少だが、斬られても殴られても爆発してもある程度の傷なら元通りになるお前なら、長所のみを引き出して立ち回れるかもな……」
ん? なんの話をしているんだ? それと、爆発しても元通りかは知らない。
「お前、双剣を学んでみないか?」
「双剣……ですか?」
その日の剣術の授業は、その提案と同時に終了した。
その後の魔術の授業は、魔術に必要な桂字をひたすら暗記し、それを空中に記してそこに魔力を注ぐ練習をした。
地属性魔術は地面や床に記すという特徴があるらしい。
だが、俺は魔力がないので何も出なかった。
夜。いつも通りトイレの鏡で一人、ルザから引き出せる力をコントロールし、引き出せる力の量を増やす訓練をした。
「ふーーーーぅ、」
「“おめでとーう! 初日に引き出せていた力よりもちょっとだけ引き出せる量が増えてるよ‼︎ ”」
“けど、これじゃあトリティヤ教官はおろかあのガーディアにも……”
「“んーー、まぁ単純計算で、君がガーディアと1人で渡り合うためには、ボクからあと20倍くらいの力を引き出せなきゃいけない訳だしねぇ”」
“それより、今日の授業が終わったら教えてくれるって言ってた事。どうして剣士をルザは勧めるの?”
「“そうだったね。ボクが君に剣士を勧める理由は2つ。1つはトリティヤ教官も言ってた、君は自滅覚悟で相手の懐に潜っても大丈夫な剣士になれるから”」
“でもそれなら、闘士でもいいんじゃない?”
「“いいや、剣を使わず素手で戦う闘士の方が、魔力の概念に囚われるんだ。ボクの力を引き出してしばらく強くはなれるだろうけど、上に行くにつれて君の魔力の素量が壁になるのは目に見えてる。しかもボクの力を隠すていでこれから訓練するなら、どっちかと言えば剣士だ。これは2つ目の理由も大きく関わってくる。それが装備だ。闘士はなるべく身軽にして戦う者。故に最低限の物以外は戦闘で使わない。魔術付きのメリケンサックくらいじゃないかな? それに比べて剣士は君みたいに魔術がほとんど使えなくても、それに近しい事を『魔装』で行えるから便利なんだ”」
“魔装って、魔剣の防具版みたいな感じ?”
「“その認識で大丈夫だよ。魔装は魔剣と違って攻撃ではなく防御。つまり受けだから、魔剣ほど魔力を使う事なく優秀に立ち回れる剣士の強みの1つ。ボクが見た中で1つ挙げるなら、魔装で『紳士の道化師』って籠手があったんだけど、なかなか凄かったなぁ。その籠手に間接的にしろ直接的にしろ少しの間相手が触れていると、その相手の平衡感覚を奪うって魔術が装備されていた。まぁ欠点として、最早能力じゃん! ってくらいの効果がある分、数度使うと爆発してその使用者の腕が消し飛ぶってのがあった。笑えるよね”」
“いや、笑えないけど……確かにそのデメリット、俺ならものの数秒で元通りになる”
「“そう。剣士の魔装って、手が混んでる分欠陥品も多いんだ。ただ、欠陥品であればあるほど能力みたいな効果を発揮してくれるやつも多くなる。つまり、それを完璧に使いこなせるのは、人間じゃ君だけってことさ。マーク”」
再生能力。他の皆んなに比べてやれることが少ないと思っていた。でも、案外そうでもないのかもしれない。
やってみよう、双剣で魔装ゴリゴリの剣士に、なってみよう。
勇者を目指す主人公マーカライルの歩みが本格的に始まった1話でした!
ガーディアなんであんな素行悪いのに施設入れんの? みたいな話は、次回書きたいと思います!
次回の投稿予定日は2025/11/15 土曜日です。
少しでも読んでいただき、ありがとうございました!




