5話 マルチファリキュア
第1章・施設マルチファリキュア編
5話
マルチファリキュア
剣士にボコボコにされた。そして……。
なんか、こんな感覚に半日前もなっていたような気がする。
「“アハハハッ。自虐ネタかな?”」
“そんなつもりはないよルザ。んっ、待てよ? てことは俺……まだ死んでない?”
「“うん、君は生きているよ。これまた奇跡的だね! ボクが憑依しているからこそなし得た奇跡だ”」
“そっか……。それは本当に良かった。ルザ、君がいてくれたことが、最大の救いだったよ。死なずに済んだんだから……”
「“ナハハッ。君は本当に面白いことを言うね〜。確かに驚異的な再生力だけど、それは絶対の盾にはなり得ないよ? 君は不死身ってわけじゃない。ボクの体力が尽きれば君は途端にただの貧弱な人間だ”」
“まぁそうだけどさ……。でも仕方ないじゃん? 俺はこの世界で生まれ育ってないんだ、魔力って概念がないんだよ?”
「“そのことなんだけど、君も魔力の概念はあるよ?”」
“えっ⁉︎”
「“当たり前じゃない。君とこの世界の人間の根本はまるっきり同じなんだ。ただ魔力に今まで触れてこなかったからそれを今は持ち合わせていないだけであって、この世界に居る時間が増えれば自然と魔力を溜め込める。ただ……”」
“俺は18歳。体に溜め込める魔力の総量が確定するのは20歳前後なんだよね? だとしたら……”
「“最悪君の魔力総量は一生2歳児以下かもしれないってことだ”」
息を吐く。ため息だ。正直この世界に来て、最初からルザに憑依され、その力を扱えると聞いた時は内心すぐに復讐できる勇者になれると思っていた。けど実際はそんなに甘くなかった。たまたま見かけた犯罪者の1人にも勝てずして、どうやって悪魔の総大将の首をはねればいいのやら……。
“ハーーーーァ。これじゃああの剣士にも、一生勝てそうにないね”
「“ん? あー、あの剣士か。アレは仕方ないと思うほかないよ。何せあの剣士、この世界の中でもメチャメチャ強い部類にいるからね”」
“やっぱりそうなの? どうりで太刀筋が見えなかったわけだ。見えたのは剣を振り抜いたあとだけだったもん……”
「“動作の終わりが見えただけまし………”」
唐突にルザの声が薄れていく。なんでだ? そうか、現実の体が意識を取り戻そうとしているせいで、1度意識が精神から現実に向かっているんだ。
スーーっと視界がひらけた。一瞬ぼんやりして、そしてすぐさま自分の置かれている状況が理解できた。
「ベッドの………上か」
おおよそ、異世界に来てこのタイミングで体感できるとは思っていなかった柔らかさ。思わず頬が緩んでしまうが、それどころじゃない。
体を起こす。当然のことだが、ルザの力で再生されていて、外傷はないようだ。一方で内面的。つまり体力だが、それもしっかり休めていたようでピンピンしている。
そういえば、あの時助けられなかった女の子は無事だろうか……?
何もかもが全く掴めない中、俺は慎重な足取りで部屋の扉に近づき、手を当てる。しかし、なかなかその扉を開けることができない。耳を澄ませて外の音を聞こうとするが、有益な情報どころか何の音も聞こえない。不安で足がすくむ感覚を覚える。ただ、なんとなくこの場が自分の身を脅かす所ではないことはわかっていた。
「“頭いいね。とはいえ慣れない環境に分からないことばかりで理性よりも感性が体を動けなくしているようだね。まぁ絶対の確証はないけど、あれだけ丁寧に寝かせてもらっていたんだ。多分君に危害を加えるつもりの奴らがここに連れてきたわけじゃないとボクも思うよ”」
ルザの後押しで勇気がもてた。やや力強く扉を開けると、長めの廊下が左右に展開されている。それだけで、俺が今いる建物がかなり大きいことは窺える。
さて、どちらに進むのが正解なのだろうか。
「“気配は左の方からするね。人を探すのならそっちに行くべきだと思うよ”」
“気配なんてわかるの?”
「“これでも歴戦の猛者だと自負してるよ!”」
ルザは俺より遥かに長い時を生きているだろうし、堕天使だから人間離れした感覚があっても何ら不思議じゃないか……。
“じゃあ左に進むよ”
ゆっくりとだが、確実な歩みを進めていく。心拍数が徐々に上がっていくのを感じる。そのうち体表にこの鼓動が現れるのでは無いかと思うほどに……。
ふと気を紛らわせるために天井を見上げると、蛍光灯のような発光物が通路を照らしていることに気がつき疑問が浮かんだ。
“ルザ。この世界は電気って概念があるの?”
「“電気……? 聞き馴染みのない言葉だね。多分ないよ。もし閉鎖された室内でこの明るさを実現させてる術を指すのなら、それはこの部屋の上部に設置されている魔石が理由だね”」
“魔石? なんか、魔力を含んだ特別な石的な?”
「“そうそう! おそらくこの部屋の上部に設置されている魔石は、空気中の魔力を吸収すると発光する代物なんだろうね”」
科学技術はおそらく俺が元いた世界の方が発展している。だがその分、この世界で生きている人たちは強くて、かつ魔力という概念がある。知らないことばかりだけど、基本は掴めてきた気がする。
不思議なことに、別のことを考えていると緊張が紛れる。ルザが精神内に居ることも大きいだろう。“1人じゃない”ことの大切さが、身をもって感じられる。
廊下をしばらく歩くと、やがて部屋の扉より一回り大きい扉が見えてきた。そして、その先から複数人の声が聞こえてくる。耳を澄ませずとも、その声は明るい雰囲気をもっていることがわかる。
「“大丈夫だろうね。悪意を孕んだ声色ではない。怖がらずに入るといいよ”」
よくよく考えれば、ルザとの関わりはまだ1日程度。にもかかわらず、不思議と俺はルザの言葉を大して疑わずにいる。
「“ボクらはWin Winの関係だって言ったでしょ? 疑うなんて酷いこと言わないでおくれよ〜”」
ちょっとだけルザの口調にはペテン師感が滲み出ているので余計に心配にはなるが、まぁでもルザを疑っても俺は進めない。結局ルザの言う通り、今の俺たちは共依存しなければ成り立たないのだ。だから深いことはなるべく考えずに行こう。
「し、失礼しまーす」
扉の向こうの人たちに聞こえたか疑わしいくらいの小声とともに扉を押し開ける。すると、その先には……。
「あ! 貴方は……」
「あ! 君は」
まず目に飛び込んだのは、あの時助け損ねた女の子の姿。パッと見、外傷はなさそうだ。本当によかった……。
「“本当に君は、いい人なんだね……”」
外での会話が続く流れ故、ルザのこのコメントに返答はできない。ただ、なんとなく今までよりトーンが低い気がした。
「無事だったんだね。よかったよ!」
「あの時私を助けようとして下さって、ありがとうございました。その……お怪我は?」
と、俺の全身に目をやる女の子だが、当然その子の瞳に傷が映ることはない。
「“そうだ、ボクが中に居ることは伝えない方がいい。傷が塞がったのはあくまでも君の特異体質。“能力”だとでも言っておくんだ”」
“わかった”
やはり堕天使という存在は、俺が知っているものと似ていてあまり良い印象ではないのだろうか。とにかく深いことは考えず、目の前の女の子に理由を伝えようとした時、俺が言おうとしたこととほとんど同じ内容を別の人間が口にした。
「あれだけの傷を負ってもなお、死なずにこうして立っているのは、能力のおかげなんだろ?」
フード付きの服を着た男が、女の子の疑問に答えつつ俺に質問してくる。一瞬警戒したが、その目は優しい人のものだと、俺は無意識のうちに悟って頷いた。
「もう心配は要らない。ここには、君を含め拉致や人身売買。家庭内暴力や困窮に喘ぐ子供が集まって生活している施設。マルチファリキュアだ。正確には、それの地下層」
辺りを見渡すと、俺以外にも俺と同い年くらいの子供からかなり歳の若い子供までいる。
「あの、私の名前は、クレアラ・コーチスって言います。貴方の名前はなんて言うんですか?」
「マーカライル・シラヴィス。長いからマークって呼んでほしい」
「はい! よろしくお願いします! マークくん。私のことはクレアラと呼んで下さい!」
嬉しそうに笑うクレアラを見て、彼女の姿を。システィアラの姿を重ねた。似ている。そう思うと同時に、悲しさが一気に心の中に流れ込んでくる。
時間はかかるだろう。でも必ず、復讐する。
すっかり風邪をひいてしまいました……。
が、物語は止めません! こんな至らない物を少しでも読んでいただけているのなら、私はとにかく書くことが感謝になるのだと思っているからです!!
次回の更新予定日は2025/11/02 日曜日です。
読んでいただきありがとうございました!




