3話 ルザと転移勇者の始まり
3話
ルザと転移勇者の始まり
目を覚ました。精神の中とかそういう次元の話ではなく、本当に、“起きた”のだ。
辺りは木々に囲まれ、俺は全身に土をつけていた。それは、ここが森の中だからである。どうやら俺は、自殺を図った際、何故か異世界に転移し、死ぬか生きるかのギリギリの状態でここに倒れ込んだらしい。
「“とまぁ、話の脱線はこの辺にして、訂正の続きだ。ボクは堕天使だから、当然人間よりも高い再生能力がある。けどねぇ〜、そうは言ってもダメージが多過ぎた。ボクは見ての通り堕天使だけど、なんだかんだあってその立ち位置やめにしようって思ってね、抜け出してきたんだ。でもその行動は当然裏切り。次々と他の堕天使からの攻撃を受け、手足はもげそうになり、まともに動けなくなってしまった。そんな中、ギリギリこの森に辿り着いて隠れることにしたんだけど、傷を癒すだけの体力すら残っていなくてねー、このまま死ぬと思ってた。そんな時に、、君が。君が目の前に突然現れたんだ”」
今の俺は先ほどまでの様に精神の中の、あの薄暗い所に立っていない。けど、頭の中で彼の声。堕天使の声が響いていた。やはり俺の精神に居るからどんな場面でも彼の声は聞こえるのだろう。
「“ボクは堕天使だ。故に人に乗り移る、『憑依』だってできる。ちなみに条件は、『憑依したい人間がある程度の傷を負っていなければならない』んだけどね〜。で、ボクの前に突然現れた君は片腕を失っていた……”」
そうだ! 俺はあの時、腕を噛みちぎられて……。噛みちぎられたはずの右腕を見て、俺は絶句する。
「“あーそうそう。先に言っとくけど、ボクが君の中にいる限り、大抵の怪我は瞬時に治るよ。見ての通り、なくなっていたはずの腕も、ナイフで刺した首も、全部元通りでしょ?”」
そう、はえているのだ。腕が。傷がないのだ。首の。
「“このままではボクは死ぬ。そして君も死ぬ。そこでいいことを思いついたんだよ! お互いにWin Winな内容。ボクは君の中に入ることで、ゆっくりではあるが傷を割と安心できる場所で癒せる。君はボクを我が身に取り込むことで驚異的な再生力を得て、その致命傷を治せる”」
“あのさ、それが俺にとって……余計なお世話だって、君は言いながらわかってるんだよね? じゃあさ、もうちょっと言い方考えてよ。俺は……家族を……”
「“うん。それが2つ目の訂正に繋がる。君、自分が家族を殺したって責め立ててるけど違うよ? ボクに憑依されている今とはまるで感覚が違うからだろうけど……家族を殺した時の君は君であって君じゃなかった。何故ならその時の君は、悪魔に憑依されて自由を失っていたのだから”」
“っ…………!”
悪魔……? そうか、あの時俺の腕を噛みちぎった“何か”は、やっぱり悪魔だったのか。そういえばあの時、視界が突然真っ赤になった記憶がある。じゃあつまり、家族と恋人。親友を殺したのは俺じゃない……。
「“そう。君の大切な人たちを殺したのは悪魔だ。君は自分の命をわざわざ奪うマネなんてする必要がないんだよ”」
その言葉に、俺は息を呑んだ。ずっと靄のかかっていた事柄に答えが出たからだ。そうだ、どうして俺はこんな単純なことに気が付かなかったのだろう。
俺が何故、皆を殺す必要があるのか……と。
「“気付かなかった自分を責めないでねぇ。悪魔が憑依するってのは本来そういうことなんだ。何せ悪魔の所業。人にとっての最悪をもたらす。つまり君の仇は自分にはない。仇は悪魔。そして……君に憑依した悪魔のボス、大悪魔……かな?”」
“ボス? 大悪魔? やっぱり悪魔が居るなら悪魔同士の階級とかもあるんだね……。んっ、じゃあ最初に俺に乗り移ってた悪魔は……⁉︎”
俺に憑依して家族やシスト。ダンザを殺させた悪魔が、まだ俺の中に居るはずだ。憑依して俺を操ったんだから……!
瞬間、目の前の堕天使が白い歯を三日月の形に剥き出してニタッと笑う。途端に俺の全身を悪寒が襲った。単純な恐怖だ。恐怖のせいで身体と心が噛み合わなくなる。
「“アハハーその悪魔ならちゃんと君の中に居たよ。悪魔としての力が欠落している奴でね、君に憑依したはいいものの君の中でうまく身動きが取れないでいたよ。とても滑稽だったぁ……。だからね、君の仇も兼ねて腕をこの歯で噛み砕いたあと、首を一突きにして殺しておいたから安心してよぉ〜”」
あーなるほど。目の前で会話が成り立つから、その存在が堕天使でも感覚的に忘れていた。
やっぱり目の前に居るのは、正真正銘の堕天使である……と。
「“あーそう言えば、ボクの名前を伝えるのを忘れていたね。ボクの名前はルザ。これからルザと呼んでくれ。ボクも君のことを、マークと呼ぶからさ。それとも愛称じゃなくて本名のマーカライルって呼んで欲しいかい?”」
“………マークでいいよルザ。それより聞きたいことがあるんだけど”
「“伝わったよ。魔界の者たちに、自分の大切な人たちの仇を取りたいんだね?”」
“あぁ。だから力を貸して欲しい。ルザが俺に憑依したことで驚異的な再生力が手に入ったのなら、それ以外にも人間離れした何かを俺は手にできているはず。お願いだルザ。俺に力を貸してくれ!”
少し間が空く。顎に手を当てて考える仕草を見せる。意外だ。この調子なら即決で「いいよ」と言うかと思っていた。
「“………いいよ。ボクらは互いの命の恩人だ。だから出来る限りのことは手伝うつもりだよ。それに、ボクはマークの中に居る以上、マーク本体の再生力をベースにする事でしか身体の傷を癒せないんだ。逆さまだね。君はボクに憑依されていることでボクの再生力を手にできるが、反対にボクは人間の治癒力しか使えないんだ。だから多分、マークの寿命が尽きた時くらいにちょうどボクの傷が癒え終わる。まぁそんな訳だから、君が自然死を迎えるくらいまではどちらにしろ力を貸すことになるだろう”」
“なんか、ルザの事情につけ込むみたいで悪いね”
「“いやいや、そこはほら、Win Winの関係で行こうよ! こっちの世界。君で言う異世界の事情は当然ボクの方が詳しい訳だし、ボクが精神から案内するからさ、悪魔や魔族を討伐する仕事、『勇者』になるべく、早速出発進行だ‼︎”」
“……そうだね。必ず……復讐するよ”
自然と力がこもった。精神の中でも現実の身体でも。今から動き出す。勇者が、堕天使に力を借りて……。大切な人たちの復讐をするために。
こんばんは!
3話目で、物語の土台の土台が完成って感じです笑 なのでここからは、3日〜5日に1話のペースで上げさせていただきます! 少しでもも読んでいただけたら嬉しいです!
次回の更新は2025/10/28 21:30です!
それではまた




