12話 狂戦開始
12話
狂戦開始
朝、起きて各々準備を済ませる。模擬戦は真剣の使用が許可されていて、現着している医療班がこれ以上治癒魔術で治療できないと判断したらその者は死亡した者として扱われその後の戦いに参加できなくなる。
そう言うルールが設けられている。
当然治る範囲なら、俺も手を抜ける状況ではないので手は抜かない。
俺が手を抜くことで、3人に迷惑をかける。俺の復讐が遠のくから……。
「………マークくん。頑張ろ!」
ちょうど今、戦いの舞台に使われる大広間に向かおうとした時、クレアラが声をかけてきた。
自身の胸のあたりで両拳を握り、そう言ってくれた。
「うん、頑張ろう。3人とも、なんで今? って話なんだけど聞いて欲しい。俺、多分皆んなに結構多くの隠し事をしてる。しかもなかなかヘビーな内容の。全部は同じタイミングで言うのは難しいとは思うけど、今言える事は言いたいと思う。俺、ここを早く出て勇者にならなきゃいけない。だからこの戦い、俺は本気で勝ちに行く。なので皆んな……力を貸して欲しいです」
頭を下げる。歪なお願いだ。ことの殆どは伝えず、ただ力を貸して下さいなんて。
それにクレアラは不明だけど、アカツキとリンカは間違いなくこの施設を抜けることを心から望んじゃいない。
前にも話していたが、この施設でできる限り過ごし、安定した生活を送ろうと考えているのだ。本当は、こんな当日にお願いすることじゃない。でも、前々から言ってたら、2人はまた手を抜いていたかもしれない。やり方は綺麗じゃないけど、今言い出すのが理想的だ。
「……………アカツキ、どうする?」
「………」
2人が俺の方を見る。そんな2人の視線を、俺は正面からしっかり受け止める。
「ハーーァ。正直、4人で勇者やろうみたいな話は、アタシ含め確かにした。でもそれはいつかできりゃいい程度の話だ。もうしばらくは安定した適当な生活をここで送れる。だから要は、それ我慢して自分に着いて来いって言ってるんだよな? マーク」
「うん」
「………ちっ、」
異世界仲間。けど、もちろん自分本位で行動しすぎるのは良くないけど、逆にそればかり意識していては復讐までの時間がどんどんかかってしまう。
正直、この瞬間に俺は二人に嫌われる覚悟で言っている。
「俺はいいけどな。力貸しても。どっち道リンカちゃんとの愛の巣は施設の外に限るし」
「勇者になるならないを置いたら、アタシはさぁ、結局この施設で野垂れ死のうと外に出ようと、あんまり変わんねぇーんだよ。外には、なんの希望も……」
「それは違う」
断言したところ申し訳ないけど、まずアカツキをどうにかしてあげたい。リンカに思いっきりスルーされてなんだか落ち込んでる。
「クレアラも含めて、俺は3人がどんな風に生きてきたかを知らない。でも、18歳が15年以上も施設で過ごしてきたとなると、2人はあまりにも外を見てきた時間が短すぎる。それに、1人で外に出るんじゃない。このメンバーで、4人で出るんだ。リンカが希望を見出せなくても、4人居ればなんとかなる」
説得しなきゃいけない。リンカが歯を食いしばる。数発戦う前から反射で殴られることは覚悟の上だ……。
「“ホント、綺麗ごとだねぇマークの言葉は。4人居ても希望になるかはわからないだろうに”」
「………ふーーぅ。もう、好きにすりゃいいじゃん」
「ありがとう!」
「当然、私も力貸すよ! 貸せるほどの力があるかはわからないけど」
「そんなことないよ、クレアラの魔術は本当に頼りにしてる!」
マーカライルとクレアラがそんなやりとりをしている中、2人の聞こえぬ所でリンカが。
「……ありがとう、アカツキ」
「んえ……?」
何に対して言った感謝なのか、言われたアカツキはわからなかったが、なんとなく感覚的にわかるところはあった。
「今日の対抗戦、マジで頑張っちゃおうかなぁ!」
こうして、4人はチーム対抗戦が行われる広場へと足を踏み入れた。時間際で行われているため、既に前の組みは戦いを終えてその場を後にしている。
戦いの痕跡として、焦げ跡や血が数滴、床に垂れているが、それもこの2チーム。俺、クレアラ、アカツキ、リンカの居るこのチームと、ガーディアが率いるチームが戦いを始める前には綺麗に清掃されるらしい。
「おおおっ、なんか観客席に小さな女の子がチョコっと座ってる! 可愛い‼︎」
観客席にはたくさんの人が座っていた。もちろん中には立ってる人も居るけど。
「“へーー。アカツキ君が可愛いって言った女の子。一応相当な実力者だって事はわかるね”」
“……………軍服みたいな服かな?”
「“大正解! 遠目だからわからないけど、肩についてる刺繍のガラ的にかなり上の地位だよ。見た目は10歳も行ってなさそうなのに、凄いね”」
本当にその年齢なのか、あるいは若く見えるだけなのか……どちらにせよ、今は関係ないか。
向こうの壁際にはガーディアとそのチームの面々が居る。
左から、目まで髪で覆われている黒髪長髪の男。なりからして闘士だ。
次にまたしても目が隠れているが、今度は長髪というより前髪が長いだけの赤髪の剣士。こちらも男。
最後も男。なり的に賢者だろうか。細身で髪の長さは短髪。色は薄めの青。
「よーー雑魚ども。半年前から、お前らをどうにかしてぶち殺したいと考えていたが、こんな形でその希望が実現しようとはなぁ」
「殺し合うつもりなんて、ありませんよ」
一応そうは答えるけど、多分殺すつもりくらいで行かないと勝てない。それくらいガーディアが率いるチームは強いだろう。
何より、向こうのチームの能力がガーディア以外分かってない。
「では双方、指定の位置について」
主審より声がかかる。一気に心拍数が上昇し、こめかみ辺りから汗が流れ落ちた。
それにしても広い。この広さなら、特大魔術を思いっきり撃ってもなんの問題もなさそうだ。壁ももちろん頑丈。戦いの余波なんかじゃ到底壊れたりしない。
「やっべーーめっちゃ緊張してきたぁ……」
「アンタ、あんまり緊張すると心拍数上がって時間操作に影響出るんじゃ……」
「余裕っです! リンカちゃんは、俺が守るからさっ」
「………あっそ、」
2人のゆっくりな会話が聞こえて来る。それと同時に、両チームの準備が整った。
「チーム対抗戦………開始!」
一気に動く! リンカが先頭。使う剣は短剣だけど、一応剣、体術、魔術の3種を偏りなく使えるから最適だろう。
リンカの後に続くのがアカツキ。リンカの負傷時は一瞬で治してリンカを元の状態にできる。正直このチームの最高戦力は、現状リンカだ。だからリンカを主柱に動きを固める。
俺はアカツキの補助。アカツキは自分の時間は巻き戻せない。だからアカツキが負傷しないよう立ち回るのが俺の役目。
そしてスタート位置から動かず戦況を窺うのがクレアラ。賢者ということもあって身体能力で一番劣るクレアラは、後ろから戦況を観し、アカツキが取りこぼしたリンカ、俺が取りこぼしたアカツキの治癒と、スペースが空いたら魔術で攻撃をしてもらう。
と、ここまでは調整が効いている。
敵チームはガーディア以外の3人が動き出している。先頭は赤髪目隠れの剣士。通常両の手で持った方が安定した運用ができる剣を片手で扱っている。しかし、盾などは持っていない。
ならば魔剣だろうか。能力がわからない以上ここは……。
リンカの魔術で先制攻撃……!
そう思われたが、何故か桂字の記入を途中でやめ、リンカは後ろから来るアカツキに手をかけて後ろに下がるよう身体で指示する。
「ちっ、、」
リンカが急遽下がったと同時に、敵チームの先頭に居た剣士が剣を持たぬ方の掌をカァッと広げる。
すると、眩い閃光が辺りを覆った。少し後ろに居る俺でも十分に眩しい、それを間近で食らったリンカとアカツキは……。
「いや見えねぇーってマジで怠いわ」
アカツキが苦言を呈する中、相手剣士がリンカの胸を横に斬り裂いた!
「かっ、、」
相手剣士の能力は『閃光』おそらく掌を広げることで光を出している。少々長めの剣を装備しているのは、閃光で動きの鈍った敵を確実に斬るためか……。
「イッタいなぁ……。けど、アタシには最高のストーカーが居るからなぁ!」
気づけばリンカの胸にあるはずの真一文字の傷跡が元に戻っていた。
アカツキだ。一瞬で巻き戻したのか。凄い反応速度だなぁ。
「服も一応巻き戻しておいた……。ラッキースケベ狙ったところで、ゆっくり見物してる時間がないようなので‼︎」
「2人とも、この剣士とは俺がやるよ! 眩しいところで斬られても俺は痛手にならないから!」
飛び出す。ひたすら出しゃ張るくらいじゃなきゃ、せっかく協力してくれた3人に顔向けできない。
前に出て剣士と対峙する。しようとする……が。
「悪いねその作戦は取らせねぇーんだわ!」
突如、突風が俺の体を持ち上げ、吹き飛ばす。後1歩で剣士の間合いに入れたところで横に飛ばされた。風魔術か。
飛ばされた先には、黒髪長髪の闘士。殴り飛ばされるか、、いいや体勢を立て直す!
風魔術の範囲から逃れ、身体の自由が利くようになった瞬間双剣を力強く振ってなんとか闘士の攻撃に備えられるようにする。
だが、闘士の狙いは俺を殴ることではないようで、俺の通り過ぎる場所から半歩横に逸れる。
一瞬思考が止まる。
何だ? 何をしたいんだこの闘士は……。
通り過ぎざまに耳元で何かが聞こえた。指を鳴らしたわけじゃないが、指と指を少し擦ったことが横目で確認できた。その音が今聞こえたのか。
「…………あっ、」
周りの音が聞こえない。なんだ、、これ。
コイツの能力か……。人の聴力を奪う能力。
これじゃあ連携が取れない。
「っ………!」
さっき俺に風魔術を食らわせた奴がクレアラの方に迫っている。助けなきゃ……でもこっちには闘士が、、あれ? 居ない。
俺の聴力を奪っただけで退却したのか。見ればガーディアの待機する壁際に戻っている。この短時間であそこまで移動できるだけの速度があれば、この数瞬の間に俺のことを殴れたはず。
本当に何がしたいのかわからない。でも闘士が居ないのなら、クレアラのサポートに行ける。好都合だ!
クレアラに迫る敵賢者が移動しながら桂字を空中に記入する。
それを見たあと、クレアラも反射的に防御のための魔術を撃つため桂字を書く。にしても……。
「早っ、」
クレアラの桂字記入速度が相手の賢者よりもさらに早かった。後出しで桂字を書き始めたのに、先に魔術が形成されたのはクレアラの方だった。
雷属性魔術か。ここはあえて近寄らない方がいいかもしれない。
敵賢者も火属性魔術を真横にスライドさせるように放つと、それの反動で後ろに下がった。
そう、クレアラが今放った魔術は、『地電場』周りに鋭い電撃を放つ魔術だ。
鋭さが武器で、火の壁程度なら簡単に突き破ってくる。それを悟って相手の賢者は咄嗟に火属性魔術の撃ち方を変えたんだ。
でも……。コイツもなんだ? 何かを企んでいるような目を……。
「ふっ、このタイミングでいいか?」
何かをニヤけながら言っている。無論俺は聞こえない。
相手の賢者が手を挙げた。それと同時にアカツキ、リンカと先程から交戦している剣士が最速で後退した。
この流れ、さっきの闘士と似ている……。
「ここからは……ニオイに注意だぁ!」
手を下げた。その途端!
今度は耳じゃない。鼻に異常を覚えた。そう、クサいのだ。鼻が曲がるような強烈なニオイが……俺らを襲っている。
ガーディアの能力もそうだが、このチームの面々の能力は全て……五感を潰して来る。
本当に厄介なチームだ……。
読んでいただきありがとうございました!




