テディベアと二人きり 【月夜譚No.350】
身の回りのものは、デザインも大切だ。好きな色や模様というだけでテンションが上がるし、気に入りのグッズが一つでもあれば日々の癒しになる。
田舎から上京して、初めての一人暮らし。大学の近くに借りたワンルームは彼女の自由にコーディネートをし、我ながら可愛らしい部屋になったと思う。
一番のポイントは、ベッドの上に座らせたテディベアだ。地元を離れる際に向こうの雑貨屋で一目惚れして購入したもので、この円らな瞳を見ると実家を思い出す。
今日はそのテディベアを抱いてソファに座り、サブスクのメニューから適当に映画を選んでテレビに映す。ぼんやり見る映画はあまり内容が入ってこなかったが、確実に泣くようなシーンではないところで雫が頬を伝った。
テディベアの頭に顔を埋め、俳優が口にする台詞を意味もなく耳に入れる。
可愛いものに囲まれていればきっと気分も落ち着くと思ったが、そう簡単にはいかないらしい。
画面の向こうが大団円を迎えるまで、彼女は顔を上げられなかった。




