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春はあけぼの、彼と見た最後の景色は

作者: 人参大根

 春は、夜明け頃がよい。そう言ったのは誰だったか。


 もう、今日が始まって4時間が経とうとしている。日だって昇ってきた。そう、私が死んでから4時間が経ったということだ。時の流れが速いと言うべきなのか、死んだから時間感覚が変わってしまったのか、わからないが私は一瞬のことのように感じる。


 私は高校1年生だった。普通に暮らして、普通に青春を送って、普通に生きていたと自負している。ならなぜ死んだのか。それについて、考えていこう。


 まず、第一に私は殺されたのか、自殺したのか、それとも事故だったのか…。そうだ。私は殺されたんだ。ならなぜ殺されたのか。それが、わからないんだ。そんなことを死ぬ間際考えていたからか、私の意識はこの世界に残ってしまったんだろう。


 私を殺した彼、名前をAとしておこう。Aは部活の後輩だった。気のいいやつで、私もかわいがっていた。飯だっておごっていたし、恋愛相談にだってのっていたんだ。殺される理由がわからない。


 Aとの出会いは、2年前に遡る。中高一貫の学校で、彼は私が中学二年のときに入ってきた後輩だった。初めての後輩だったということもあり、最初はぎくしゃくした関係だったが徐々に仲良くなった。一番のきっかけは多分合宿だったかと思う。


 Aと同じグループになった。気まずいなぁと思いつつも、先輩らしくしたいなと思い、一生懸命に話題を振ったり、おどけてみたりした。そのうちに、Aの方もだんだん気を許してくれて向こうから話しかけてくるようにもなった。そこから、彼との関係は始まったのだ。


 さて、ここまでで私が殺されないといけない理由はあっただろうか。いや、ない。私の話がうざったかっただろうか。いや、それでも殺すほどではないだろう。では、なぜか。


 Aの家は、裕福とは決して言えないような家だった。いつも痩せていたし、部活で使う用品もボロボロのお下がりばかりだった。だからこそ、遊びに行ったときは先輩なんだからかっこつけさせろとかいって、飯なんかをおごっていたのだ。

 

 私の家は自慢に聞こえるかもしれないが、まぁ裕福だった。これに、腹を立てていたのかもしれない。しかし、これもまた殺す理由にはならないんじゃないか。Aとの関係はかれこれ3年もある。知らない仲ではないからこそ言えるが、彼はそんな人ではない。そう、信じたい。


 本当にわからなくなってきた。私は何のために考えているのかも。本当は真実なんて知りたくないし、知る必要だってないんだろう。納得したいんだ。たとえ間違っていたとしても、彼が私を殺す理由に。


 私に寄り添った答えが欲しいのだ。


 だけれど、そんな答えは存在しない。もうわかっている。だって、私はAを殺したのだ。


 彼は、私が生かしてやっていたといっても過言ではない。飯だって、服だって、寒い日に家に入れてもらえないなんて言ってきたら家にだって入れてやった。それなのに!Aは言ったのだ、


 「俺、好きな人ができたんす。」


 私はこれは自分に対する告白だと確信した。あぁ、やっとかとそのときは思った。私に対する想いにやっと正直になったのかと。しかし、私の思いとは裏腹に、


 「同じクラスのーーちゃんなんですけど…。」


 全身の血液が逆流するのを感じた。驚いた自分にこんなにも野性的で感性的な感情を持っていたことに。


 そこからの行動は、記憶にはあまりない。気づいたら私の腹には包丁が刺さっていたし、Aの腹にも同様の傷がついていた。


 彼が好きだった。一目惚れだったし、内面にも惚れた。これが運命の人ってやつなんだと、そう信じていたのだ。でも、彼はそうではなかった。それが耐えられなった。だから、殺した。


 まぁ、でも彼も私を刺し殺した。お揃いだ。やっぱり運命だったんだ!そう思い、最後に見た私の時計は00:00を告げていた。


 私とAは死んだ。

 

 


 日は昇る。山際は明るく紫がかって、雲がたなびく。死んだとしても、美しいと思える景色を彼と見て思った。春は夜明けが良いと。



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