タウロスのやる気、爆上げ大作戦。その3
「デカッ!」
注文したスイーツが全てテーブルに置かれた。目の前に座るタウロスの前には巨大なパフェが置かれていた。
私の隣には、キャンサーが座っている。キャンサーの前に置かれているモンブランが小さく見える。
私が注文のは五重のパンケーキ。ハチミツとバターたっぷり。飲み物はコーヒー。私はブラック一筋。
味覚はある程度、システムで制限されている。だから、タウロスの巨大パフェもキャンサーのモンブランもプレイヤーが食べれば、雑に甘い感覚を味わう。コーヒーも”苦い”だけ。
ま、空腹度は回復するし、お腹が膨らむ感覚も多少味わうからダイエットには最適かな。
ダイエット目的でゲーム内にこもるプレイヤーもいるとか。でも長期間、ログアウトしない状態が続くとVR機器から信号が出て、警告アラームが入り強制ログアウトの処置が入る。
キャンサーが紅茶を一口飲む。
「タウロス。完食できるのですか」
「任せておけ!」
特注巨大スプーンですくわれたクリーム。顎が外れるくらい口を開き、クリームはタウロスの中へ。
「美味しい〜」
タウロスが大変ご満悦。良かった、良かった!
にしても、タウロスが注文したパフェ......デカい。
私とキャンサーの頭上に容器がある。サンデーグラスを巨大化させた容器があるとは。
ゲーム内とはいえ、パフェを下から眺めることになるとは......
しかも、タウロスがスプーンで掬うたびにパフェが崩壊していく様を見ながら、パンケーキを食す。
怪獣が建物を壊しているが如く、臨場感満載の映画を鑑賞している気分だった。
「50kgあるとか書いてあったよね」
巨大パフェの総重量は20代前半の女性の平均体重くらい......
苦笑いしかできなかった。食べる方もそうだが作る方も大概おかしい。
もの凄いスピードでタウロスの体内に入っていくパフェたち。
かなりの量がタウロスに入っているはずなのに、体型が変化している気配がない。
パフェに乗っているフルーツ。私の頭部と同等の大きさがある。
どこで採取してくるのよ。ましてや、この巨大パフェを作ったの......80代くらいのおばあちゃんよ。
「未知との遭遇......」
「どうかしましたか、ユミナ様」
首を横に振る私。
「ううん。なんでもない」
キャンサーが周囲を見渡す。
「個室に入るべきでしたね」
確かに......
私たちと同じく喫茶店に入ったプレイヤーたちは好奇な視線を向けてくる。
私たちになのか、タウロスが注文した巨大パフェの影響なのか定かではない。
『嬉しいね!』
テーブルに近づくNPC。巨大パフェの製作者のばあちゃんだった。
割烹着がよく似合う。
「このパフェを頼む人は、最近来なくなったからね」
え、タウロス以外に頼む人いるの。本職:大食いの方かもしれないな。
「来なくなったって、何かあったんですか?」
興味本位で質問した。
「仕事だと思うんだけどね。あの人、業界では名のある職人だしね。今もひっきりなしに注文を受けていると思うよ」
ふ〜ん。”名のある職人”か。
「それで、どんな......」
私が会話を続けると同時に金属の音が鳴る。
タウロスが空のパフェ容器にスプーンを置いたからだ。
「えぇ!? 早ッ!?」
目が釣り上がった。驚愕の一言。
おばあちゃんと会話を始める前は半分くらいあったはずの巨大パフェ。
全て、タウロスの胃袋へいってしまったのか。
「ご馳走様でした。いやぁ〜 食った、食った」
お腹をさするタウロス。顔が幸せ一面になっていた。
「二人は、遅いな」
タウロスは私とキャンサーの皿を見る。
パンケーキはまだ、4分の3残っている。モンブランは半分くらいかな。
「貴女がスピードが速いんです。よく味わうことも大事ですよ」
「お前みたいにチマチマ食ってると、日が暮れちまいそうだ」
「私は、栗の味を堪能してるのです。甘さと苦味が絶妙にマッチしている。私は、好きです」
モンブランを見て、微笑し出すキャンサー。
無表情の美女が少し、微笑む様子は心臓を締め付けられる気分になる。
実際に、微笑んだキャンサーに見惚れるプレイヤー。女性なら頬に手を置き、顔が赤くなる。男性は惚けるしかできない。更にカップルなら、男性の頭を叩く女性プレイヤーも増殖してる。
カップル様方、申し訳ありません。
「お嬢、ありがとね!」
「タウロスが幸せなら、私は満足だよ! それで、どう? 創作意欲は?」
腕を組み、唸る。また、タウロスは悩み出す。
「う〜〜ん。ぼちぼちかな。街中に売られている武具やアクセサリー、アイテム類。それから建物などもずっと見ていたが......」
「そっか〜」
私もタウロスと一緒に悩む。
「お前さん、ひょっとして鍛治師かい?」
おばあちゃんがタウロスに近づく。
「ま〜な。今はスランプでよ」
「これも運命かね〜 もし良かったら、あの人を手助けてくれんか」
”あの人”は、きっと巨大パフェを頼む職人さんかな。
「しかし、アタイは......」
タウロスが私を見てくる。黙って親指を上に立て、グッとポーズを取る。
私の真意を理解したのかタウロスはうなづく。
「わかった。協力するよ!」
「ありがとうね。」
こうして私たちは、おばあちゃんの依頼を完了すべくムートン近くの森へ進むのだった。
うん? お会計金額......1000万ルター。アハハ、どんだけ高いのよ。あのパフェ......はぁ〜(ため息)