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システム障害=記憶障害。その7

 闘技場。サングリエに設置される設備の一つ。プレイヤー同士の決闘が主な使用方法。

 街中での戦闘行為は禁止である。しかし、ちょっとしかことでいざこざは発生してしまう。鎮めるために勝利者を決める時に闘技場は利用される。


 勿論一つのギルドが使用するのもルール上、問題はない。


 ただ注意する点がある。


 VRMMOの特性上、攻略情報は貴重だ。自陣しか知り得ない情報をうっかり漏らすことがあれば、他ギルドに悪用されてしまう。


 良い意味でも悪い意味でも————————。




 砂埃が舞う。影が二つ。一つは平均的な女性の身長の影。もう一つは地面に何かが刺さっている影だ。目を凝らすと下半身がない人間が確認される。観客席からはそれ以上の情報は分からない。



 賊藍御前(ティア・マ・タル)を地面に突き刺す。

 上半身しかない男性プレイヤーは動かない。人間の可動領域を超え、あり得ない角度で首が曲がっている。

 地面にめり込んだ対戦相手を見て私は一言、漏らした。


「マジか......」


 時間は三十分前に戻る。



 ◇


 記憶を呼び起こしながら、ヴィクトール大図書館に関するクエストを教えた私。

 どうやら、私の情報は目から鱗のような内容だったらしい。内容はカレッタのクリア状況を私がクリアした状況に置き換えて話した。流石に「『星刻の錫杖』が有ればパスできます」、とは言えなかった。


『星刻の錫杖』はこのオニキス・オンラインに一つしか存在しないユニーク武器。私をキルすれば、入手可能と踏む者をいるかもしれない。でも、それは世界が許さない。


 星刻の錫杖は所有権はユミナで固定されている。つまり、私だ。プレイヤーキルされるとアイテムはその場に出現する。所有権は放棄され、新しいプレイヤーが獲得できる。でも、星刻の錫杖は封印を解いた私以外は無理な仕様となっている。ある意味、呪いの武器と呼んでも差し支えない。


 前に検証したことがある。非戦闘時に、フィールドに星刻の錫杖を捨て距離を取るとどうなるのか。結果は長距離でも数秒で私の元へ杖が飛んでくることが分かった。ヴァルゴに投擲してもらっても同様の結果だった。


 ま、兎も角私のクリア条件は話しても無駄ということ。カレッタ、許してね!


 情報のお礼に魔法学園でのクエストの発生条件などを教えてもらった。まだ獲得していないジョブが必要だった。今度入手してみよう。




「う〜〜ん。従者をゲットする方法か......」


 みんなが聞きたい情報No.1。それが、私の様にNPCを従者にする方法だった。今までのオニキス・オンラインではNPCのクエストで一時的にパーティーを組むことは可能だった。クエストクリアすると自然とパーティーは解消される。


 NPCとプレイヤー間の会話は保持されるので、関係を良好にすることは可能でも、街限定となる。


 気に入ったNPCと仲を深めたいプレイヤー。色々な試行錯誤をしても惨敗な結果だったらしい。

 でも、私の存在で可能性が広がったとか。


 条件を踏まえれば自分もNPCと永遠に一緒に入れるかもしれない、と。


「そうです! 世間では百合姫と言われ、様々な種族の女性NPCと暮らしているユミナさんの手ほどきを伺いたく」


「ヴァルゴ様の様な美人NPCと一緒に暮らしたいんです!」


「アクエリアス様と同じ人魚とお近づきになるにはどうすれば??」


「カレッタちゃんがユミナさんにゾッコンな理由は??」


「聖女ちゃんの様に美少女NPCと結婚できる方法を!!」


「と、言われてもな〜 私はみんなの悩みを解決しただけだし〜」


「『悩み』?」


「クエスト表記は出てないんだ。自然と会話をして仲が深まった段階でNPCが自身の悩みを打ち明け、私が解決する。この流れを繰り返したら......みんな、寄ってきた。これしか言えないわね〜」


 頭を抱えるプレイヤーたち。


「まさか、ゲームで高度なコミュ力が必須とは」


「ギャルゲー要素もあったのか、オニオンに......」


「俺、この前の合コンパーティーダメだったんだよな」


 不幸オーラが漂っている。


「『リリクロス』には人型のNPCが多いから。トライアンドエラーすればいけるよ!」


「みんな、聞いたわね!! 望みはある!! 『リリクロス』大陸を攻略するわよ!!!!!!」


 雄叫びが響く。やる気と欲望に満ちた団員たち、リーダーの決定を待たず次なる行動を決めていた。



 私に向かってくる人影。モヒカンの男性プレイヤーだった。


「え!!?」


 前に表示されたのは決闘の申し込みのウィンドウだった。


「是非、君と戦いたいんだユミナ」


 私に対戦と申し込んだプレイヤー、ジャスティス・ロング。以前、私とバシャとの決闘を見てから一度戦いたいと決めていたらしい。


「魔境『リリクロス』で生活しているユミナの実力を知りたい。これが俺が君に申し込む理由だ」


「......良いですよ!」


 そうして、突発的なイベント。シューティング・スターに所属するプレイヤーとの対人戦が行われた。




 ◇


 やってきたのは、サングリエの闘技場。

 私が対人戦をすることが広まり、観客席に人が増えてきた。『リリクロス』は少しずつ攻略されている。更に快適な攻略を目指すために私のデータが欲しいが観戦の理由かもしれない。


 対面するジャスティス・ロング。筋肉ムキムキのモヒカンでパンク風工事服を着ている。両手には黒い球体を持っていた。


「実力を知りたい理由以外に、個人的にお礼を言いたくてね」


「『お礼』?」


「俺が持っているのは爆弾だ。少し前に花火師のキクジから爆弾の素材を場所を教えてもらってね」


「あーキクジさんですか」


「ユミナのお陰だからね。初めに君で試したいんだ」


「な、なるほど......」


 爆弾が出来たから、試験台になってくれってか!!?

 物騒なことを考えるプレイヤーもいるもんだ。


「お手柔らかにお願いしますね」


 星刻の錫杖は使えない。私は武器を変更した。



 〜装備欄〜

 頭:沈黙の古代帽子(エンライトメント)

 上半身:幽天深綺の(ファンタズマ)魅姫(・ドレス)・エクシード

 下半身:幽天深綺の(ファンタズマ)魅姫(・ドレス)・エクシード

 足:救世の光(アークレイ) 


 右武器:星空の姫神(ウォルフ・ライエ)

 左武器: 


 〜装飾品〜

 ①:覇銀の襟飾(ヴァイセ・エーゲン)

 ②:真竜の手袋

 ③:薔薇襲の荊乙姫(ブラック・ローズ)

 ④:天花の耳飾り

 ⑤:星王の創造(ステラ)

 ⑥:聖女(アシリア)の誓い

 ⑦:悪魔(ヴァルゴ)の愛




 星空の姫神(ウォルフ・ライエ)。今は亡き『熱火の魔法棒』の後釜。タウロス印の新しい魔法棒。淡いピンク色で細長い棒に凝った装飾が付いている。


 相手が爆弾を使ってくるなら、遠距離から攻める。初めはこの手段で決めていた。

 しかし、私は別の手段を編み出した。


「私も試したいことがあるので」


 最近は近接戦闘主体になっていた。しかし、ユミナのステータスはどこまで行っても魔法使い。魔法攻撃の威力を上げ、特大魔法を連発できるだけのMPを持つ。


 近接戦闘ができるのは、武器の性能によるもの。武器が使えなくなる状況に対応する方法をずっと考えてきた。従者相手で模索しようとすると、どうしても遠慮してしまう部分がある。そういう意味では、この対人戦はありがたい。


勝利翔(ニケ)】、【宵明星(イシュタル)】、【嫦娥(じょうが)】。加速スキルを発動。

 大気中の砂埃を払い、一直線へ。相手の次なる行動を予測する。【叡智(メティス)】を発動。時間が何倍も引き延ばされる。私の思考以外、全てゆっくりになる。


 両手の爆弾を投げるモーションが入る前に足技スキル、【狩猟時間(アルテミス)】を発動。

 強化された膝がジャスティス・ロングの顔面にクリーンヒット。同時に首が折れた鈍い音が響く。


 膝がめり込んだ顔は首を起点に後ろへ反る。



(【狩猟時間(アルテミス)】の効果時間はまだ、ある!!)


 上空からの顔面目掛けて踵おろし。衝撃でジャスティス・ロングの身体は地面の下へ。身体は埋まり動けずとなる。


狩猟時間(アルテミス)】の発動が終わり、私は距離を取る。星空の姫神(ウォルフ・ライエ)から賊藍御前(ティア・マ・タル)へ武器を変更した。


 足を強化しただけでは、怯むしかないだろう。私の従者がそうだった。


 星空の姫神(ウォルフ・ライエ)のままでも良かったが、魔法の発動時間の隙に爆弾を投擲される恐れがある。


 その点、賊藍御前(ティア・マ・タル)なら槍を回して防御。分裂して濃藍の矛(トライブ)鉄藍の刀(アイルタ)で爆弾を捌ける。


 敵が男性である以上、賊藍御前(ティア・マ・タル)の攻撃力も上昇する。まずはこれで様子見。

 状況に応じて戦略を変更する。


 時間にして一分が経過している。


「あれ?」


 待てど待てど相手が攻めてこない。

 砂埃を払いながら進む。


「......マジか」


 賊藍御前(ティア・マ・タル)を地面に刺す。そして、下を見る。

 首が背中まで反り、顔面は誰かも認識できないレベルの損傷だった。


 数秒後、ジャスティス・ロングは倒れ朽ち果てた。ポリゴンとなり、悲しくも消えゆくのだった。



「......困ったわ」

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