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システム障害=記憶障害。その3

 ユミナは眼を覚ます。瞼が重かった。体は酷く疲れていた。


「お目覚めですか?」


 眼を覚ましたユミナの顔を凝視するアリエス。

 ユミナはその時、自分がアリエスに膝枕されていると実感した。

 何度も味わっているから間違えない。柔らかい感触がユミナの後頭部に。


「......アリエス」


「............はい。起きれますか?」


 アリエスに背中を支えられる。上半身を起こす。床で寝ていたらしい。


「ありがとう!! 怖い夢見ていたみたい」


「”怖い夢”ですか」


「うん。みんなが寝室に居なくて探していたら、玉座の間に居てね。アリエスとヴァルゴが喧嘩しているのを止めたら、ヴァルゴには本気で殴られるし、みんな......私のこと覚えていなかった」


「その後、倒れた。ですか?」


「そう。ごめんね、心配かけて......」


「いえ。()()()()()()()()()するのは当然です」


『アリエス』


 アリエスは声がする方へ顔を向ける。ユミナもアリエスに釣られて同じ方向へ振り向いた。

 レオとタウロスだった。呼んだのはタウロス。


「どうだ?」


「大丈夫かと」


「タウロス、レオ......ごめんね。急に倒れちゃって......」


 ユミナの謝罪に驚くタウロスと無言のレオ。

 タウロスの顔は返答に困るものだった。


「お、おう」


「............」


 タウロスが前に出る。しゃがみユミナと目線を同じにする。


「一個聞いていいか?」


「うん。何?」



 一呼吸した後、タウロスは口を開く。


「結局、アンタ誰だ?」


「なっ......———!!?」


 ユミナたちの経過した時間はわずか一分。

 しかし、ユミナの中で感じた時間は長い。時間の流れが遅い。自分だけ引き延ばされた感覚。


 体が跳ね起きる。ユミナはみんなから距離を取る。


「嘘だよね。タウロス......。私はユミナ。みんなの主だよ......」


 星霊たちを見る。全員タウロスを同じ顔をしていた。みんな、ユミナを警戒している。

 ドッキリではない。みんな、本気だった。


 星霊たちの顔を見るだけで、身体中が熱い。動悸が早かった。全身倦怠感に苛まれていた。

 ユミナは自然と下を向いていた。


「それだよ」


 ユミナに歩み寄るのはレオ。

 警戒心MAXの動物のようだった。


「なぜ、オレたちがお前のような人間に仕えてるんだ?」


「え、えっと......それは......」


 声が出ない。息が上がる。ユミナの頭が真っ白になっていた。


「待ってください」


 アリエスはユミナとレオの間に挟まる。


「どけ。アリエス。オレはソイツと話してるんだ」


「彼女は混乱してるんです。きっとアタシたちによく似た従者と間違えているだけです」


「オレたちの名前はどう説明する。アリエスやカプリコーンなら人間の願いで召喚されることはある。だが、オレやタウロスはどうだ? オレはコロシアムや戦時中、タウロスは武器製作で呼ばれることが多い」


「それは......」


「オレたちの顧客は裏の人間が主な、だ。ソイツは真っ当な奴だ。それに......。どうしてヴァルゴの名を知ってる」


「前にヴァルゴに依頼した人かもしれません」


 アリエスの言葉に苦笑いする星霊たち。


「それこそあり得なねぇよ。お前も知ってるだろう。アイツが人間を毛嫌いしてること。態々、召喚条件に『人間以外』と無理やり捩じ込むくらいだぜ。ま、人間以外の種族も嫌いだけど。あの自己中は......」


 アクエリアスがレオの肩に手を置く。


「本当に私達を召喚して、『従者になって』を依頼しただけじゃない? お姉ちゃん」


 ため息を吐くレオ。


「はぁ〜 それが妥当だな。でも、新しい疑問が生まれる」


 アクエリアスがユミナの元へ。


「ねぇ、お嬢ちゃん。ジェミニとオフィュキュースはどこ?」


 星霊たちが城を捜索しても双子座と蛇遣い座はいなかった。

 連絡を取りたいが自分たちの現在地も不明。今まで使っていた通信手段は使用不可になっていた。

 そこへ現れた自分たちの主と名乗る人間。

 もしかしたら、居場所を知っていると踏んでいるアクエリアス。


 ユミナは口を開く。その声はか細かった。


「ジェミニたちは......吸血鬼の屋敷でメイドをやってる」


「”ジェミニたち”か。よく知っているわね、お嬢ちゃん。それに”吸血鬼の屋敷でメイド”!!?」


 双子座の現状が分かるや星霊たちは爆笑していた。


「アイリスって、始祖の吸血鬼......」


「へぇ〜 少し魔法が使えるだけのただの人間が吸血鬼の始祖の名を知ってるのね〜」


 ユミナは覇銀の襟飾(ヴァイセ・エーゲン)に手を置く。


覇銀の襟飾(ヴァイセ・エーゲン)はアイリスから譲り受けたアクセサリー」


「いいブローチね! しかも秘宝級か。嘘は言っていないわね。で、オフィュキュースは?」


「......これ」


 ユミナはアイテムストレージから一冊の日記帳を取り出す。

 オフィュキュースが大事にしていた日記帳なのは星霊は誰もが周知する事実。

 それを人間が持っている。そして所在を言わない理由。


 これだけの材料だけで全てを理解した。


「どうして殺したの?」


 ユミナは歯を食いしばっていた。


「......言えない」


 弾ける音が響き渡る。アリエスがユミナを平手打ちしていた。

 突発的な行いだった。星霊たちは眼を見開いていた。


「ビンタするのは当然だよね。私はアリエスの仲間を殺したんだから」


 頬に手を置きユミナは歩き出す。


「この城、好きに使っていいよ。拠点があった方が活動しやすいと思うから」


 そう言い残し、ユミナはボルス城から姿を消した。


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