幽体離脱再び。
[第3話] 幽体離脱再び。
私は幽体離脱によって不思議な体験をして以来、自分がもう一人生み出せる事実に対して少し恐さを感じていた。
だから、しばらく手を出さずに大人しく過ごすようにして仕事に励んでいた...。
そうして1ヶ月が経ったある日、
仕事が忙しくなり休めない日々が続いていた...。
休日返上で頑張るも体は嘘をつかない...。
疲れも溜まってきて、うつ状態に近いほど足元が重い...。
そして週末を迎えた朝、ベットから起きようとするが意志に関係なく体が重くて動かない...。
これは金縛りか........!?
「いやいや、休めてないせいで体が悲鳴を挙げているんだ。なんだか顔も熱いし...」
その日は、体調不良を理由に会社を休むことにした。
ちなみに病院の診察結果は、うつではなく、ただの風邪だった。
とりあえず、うつでなくてホッとしたが、今後も同じように疲れを溜めるような状態は体に良くない...。
「これじゃ身が持たない...。だめだ...。お客様からご指名を頂いているだけに休んでいる場合ではない...!」
「そうだ!幽体離脱があるじゃん!」
「よし!もう一人の自分に働いてもらおう!」
もう私の頭の中は幽体離脱することでいっぱいなのだ。
しかし、都市伝説にあるように一歩間違えば危険な目に遭う確率は決して否めない...。
一日でも早く解決したい私は、その日の夜に幽体離脱を決行した...。
強く念じると体が軽く浮きがる感覚になり、自分の寝姿を下に見ることができた...。
私はそのまま眠りに入り、翌朝を迎えた。
以前と同じように夢の中では、もう一人が働いている...。
本人は寝ているが、もう一人は現実社会で存在しているのだ...。
そして無事に一日を終えると、夜には体調も良くなり、明日は幽体離脱に頼らずに復帰できそうだ...。
私は注意事項通りに一日を終える前に幽体離脱した体を戻した。
翌日、元気に出勤した私は昨日の幽体離脱を確認する意味でタイムカードを手に取った。
そこには、しっかりと時間の打刻がしてあったのだ...。
「思った通り、もう一人が確実に存在して働いてくれたんだね...」
実際に動いていたのは自分自身には変わりはないんだけど、世間的には本人と見た目が同じであるため違和感なく周りにはバレる事は無いんだけど...。
幽体離脱がなければ今頃、私はマイナスポイントを貰っていたはず...。
「幽体離脱ありがとう........」と、私はありがたい思いでいた。
しかし、私の思いとは逆に世の中ではこれを悪用しようとする人達が密かに現れ始める...。
自分はそんな考えには絶対ならないだろうと思っていた...。
だが、日にちが経つにつれ幽体離脱の面白さに気付いて何度か試している自分がいた。
最近は自由自在にコントロールできる事に気づいて、少し浮かれ気分でいた。
いつも幽体離脱に頼って、もう一人の自分に負担を掛けている事に少し後ろめたさを感じていた。
私は考え方を少し変えて、もう一人の自分に休んでもらう事にしようと思った。
心のどこかで、もう一人の自分にはなぜか意志があるような気がしてならなかった...。
今までの恩返しとまではいかないけど、たまには立場を逆転してみてもいいかなと思い始めていた。
その想いは果たして彼女にとって良かったのかは、彼女本人にしか分からないのであった...。