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人が壊したこの世界で  作者: 鯖丸
第四章 『 試練を乗り換えし者(後編) 』
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074: 動き始める歯車《物語》(3)


「 嘘、だろ?流石にそれは、反則だって……ッ!? 」

「 か、カイル?……ねぇ、カイル大丈夫!?どうしちゃったのよ!!? 」


初めて見たのだろう、急激に絶望一色で染まり始めた俺の顔に困惑するルイスを他所に、視線はその圧倒的な存在感を露わにする兵器()を中心に固定されてしまう。


火砲鍛治士工房(ガルグイユ)でその精巧で素晴らしい設計図を見た時から生涯で一度は実物を目にしたいと憧れ願っていた。それがこんな最悪な形で叶ってしまったという絶望に犯された思考はいつものようには正常に動いてくれない。


だがこんな状態でさえ確実に分かる……(アレ)が敵の手にあるというのなら、俺たちがこの位置にいるのは絶対にダメだ、危険すぎる!!


逸る心をそのままにどうにかルイスへ後ろに下がるよう指示してはジリジリと、今や死神にしか見えなくなったその殺し屋との距離を開いてゆく。


「 はっ、はっ、はっ……はぁ 」


煩いほどに鼓動する心臓。止まることのない動揺と湧き上がり心を蝕み続ける恐怖の大渦が脳裏を埋め尽くし上手く呼吸する事が出来ない。


目に映る光景も僅かにボヤけ始め、焦燥により狭まる視界は更なる不安を煽るが、もはや今の俺にはそれを意識して晴らすなど不可能であり、どうしようもない。


( ここで短身二連式散弾銃ソードオフ・ショットガンが出てくるだなんて、ありえないだろ!!……マズイ、マズイマズイマズイ!!? )


「 へぇぇ、まさか知ってるとは思わなかったよ。もしかしてカイル君も(コレ)について詳しいの? 」


そんなこちらの動きも気にせず、闇を含む歪な笑みを浮かべる牙は、見せびらかすよう手にする本来のものよりも小型化されたその銃を片手でくるりと回してみせる。


当然言葉なんて返せない。今はこの襲いくる絶望的な恐怖に完全に屈服をしないよう、奥歯を噛み締め、拳を握る手に力を込めるので精一杯だ。


森心術を駆使したルイスとの連携による奇襲、それにより僅かに優勢であったはずの戦況はしかし、一丁の銃が登場したことにより簡単に一転してしまった。


短身二連式散弾銃ソードオフ・ショットガン


火砲鍛治士(ガンスミス)によって開発された新しい銃。散弾銃(ショットガン)と名を打たれ分類されるこの武器種へ装填されるのはこれまでに俺が好んで見てきた拳銃などで使用される鉄片などではなく、散弾弾(ショットシェル)と呼ばれる、一つの薬莢に複数量の弾粒が込められた、撃つことで広範囲に散り広がる特殊な専用弾であり、これによりこの最新の兵器はこれまでの銃たちが発揮するような点の攻撃とは別格となる、()()()()を可能としたのだ。


それが意味する事実。それは、この絶大な力を手にする今の牙にとって気配を潜めた奇襲を得意とする相手など、气流力による五感強化でその大雑把な位置さえ掴めていれば、至近距離で放てば魔物の頭でさえ吹き飛ばせるであろう程の威力をもつ絶対の一撃によって、容易に空間的な制圧が出来てしまうということ。


先程ルイスがこれを受け、軽傷で済んだのは奇跡、あるいは()()()()()()()()()()のどちらかでしかない。


もう二度と、同じ戦略は使えない。そしてそんな凶悪な武器を手にした相手とまともに戦えばどうなるか?……そんなの考えるまでもない!!


これほどまでに勝ち筋が見えない状況は初めてだ。これならいっそ、どれほどの業物であろうと剣だとかそういった馴染みのある武器を出してくれたほうがまだやりようがあった。


点、或いは線の攻撃なら対処は出来た。そのように鍛えてきたのに、今まさに対峙してしまったのはこれまで考えもしなかった面で襲いくる一撃……加えてそれを手にするのは一流の格闘術を身につけた殺し屋だなんて、手の打ちようがない。


その事実が絶対の恐怖となり、俺の心を覆い離れようとしない。


強大な魔物に威嚇された時に感じるようなものでも、威圧感のある強面の盗賊に脅された時に感じるようなものでもない……俺が今全身に浴びせられているのは()()()()()()()()


自分がもつ全てを駆使したとしても避けられないであろう損傷、文字通り決死を覚悟せざるを得ない戦い。


それが……怖くて仕方がない。こんな事は初めてだ。


身体の震えが止まらない。命懸けで戦う、これまで魔物を討伐するにあたり何度も体験してきた事のはずなのに、今のこれはまるで違う!!


戦えば……もし戦えば軽傷なんて生易しいものじゃすまない!?


「 はぁ、はぁ、はぁはぁはぁッ!!! 」

「 カイル……しっかりしてよ、カイル!! 」


( 怖い、怖い怖い怖い!!!か、考えろ、考えろカイル・ダルチ!!この状況をいかに切り抜けるか、いかに()()()()()!! )


相変わらず焦燥で僅かにボヤけている視界が少し左右に振れているのは、おそらくすぐ側のルイスが揺すってくるからだろう。


勘弁してほしい、今はそれどころじゃないんだよ!!


必死に考えるしかない。どうやって、どうやってここから逃げるのか……


「 ダメ、避けて!! 」


そんな、思考が恐怖で乱される中不意に届いたのは幼馴染の絶叫。思わず「えっ」と溢す事によって返ってきた冷静は、対面する殺し屋が変わらずの不気味な笑顔はそのままに、片手を高速で持ち上げ「チャキッ」という音を立ててこちらへと銃口を向けてくるその刹那を目撃してしまう。


「 油断大敵だよ、カイル君? 」


それは殺し屋による殺し文句(けいこく)


瞬間にして心を埋め尽くす戦慄が、普段なら反射とばかりに全身へすぐさま鳴り響くはずの危機を告げる警笛を僅かに遅れさせてしまう。

結果「しまった」と驚愕し目を見開く頃には前方で発生してしまう一つの小爆発。鼓膜を刺激する轟音、漂う硝煙。


散弾銃にとって十分な有効射程距離内で放たれる、目で捉えられない程の高速を纏う面制圧の攻撃……ダメだ避けようがないッ!!


「 させないッッ!! 」


死に捕らわれてしまったかのように固まり動かなくなった全身、そんな俺に向けられる再びとなる幼馴染の絶叫。合わせて視界を埋め尽くす空へ舞う土埃とそこから伸びる無数の蔦たちによって形成される植物の護り。


そこからは全てが瞬き一つ終わるまでの出来事であった。


間髪入れず命中した弾粒の衝突によりその多くが抉り飛ばされてしまう緑壁を目に、相殺しきれなかった幾つかの鉄片は恐怖で身動き一つとれない俺の肩先と腹部脇を僅かに抉っては、そこから全身へ鋭く走る激痛を引き起こす。


「 ぐぅぅッ!! 」


まるで燃え上がる炎を無理矢理押し付けられているかのような熱に駆られる傷口、突然に襲ってきた初めてとなる肉を焼き抉られる感覚に慄き、思わず後ずさる。これが……撃たれるという感覚、なのか!?


「 ぐぅッ……はぁ、はぁはぁッ 」

「 カイル、大丈夫!?しっかりして!! 」


咄嗟に心配を向けてくれているルイスにやはり応える事すらできず、本能的に震える手を未だ痛みを発している腹部脇に添わせてしまう。

そうして手の平を僅かに染め広がるドロっとした熱くて赤い独特な臭いを漂わせる()()()()()()()ソレを目に、心臓は更に早く脈打ち、息を吸ってるはずなのにまるで溺れてしまっているかのような苦しみに襲われて思わず肩で呼吸を繰り返す。


自分でも煩いと分かってしまうほどに荒々しい息遣いの連続。


受けた傷はたいしたものじゃない。そんなこと頭では理解しているはずなのに、もはや自分では制御する事が出来ないまでに肥大化してしまった、心を覆い蝕む恐怖に身体は大きくふらついてしまう。


「 う〜〜ん。これは予想外だったけど、やっと年相応な反応が観れたって所かな? 」


そんな俺に向けてきたらしい声にどうにか顔を上げ精一杯の睨みをきかせるが、しかしそれはこちらの目など気にも止めず散弾銃の銃身を展開しては空となった薬莢をのんびりと取り出し始める。


「 うんうん、恥じることなんてないよ。普通の人なら一流の殺し屋が襲ってきたってだけで怖くて動けなくなるものさ。君の場合なまじ頭がいいだけに、僕の実力をちゃんと見極められててかつ、この銃の怖さをより理解してるんだから尚更、恐怖でどうにかなってしまいそうっていっても仕方がない 」


そうして含みのある物言いを続けながらも、それはコートから取り出した二発の散弾弾(ショットシェル)を薬室に込め直しては「ガチャッ」という音を立て装填を完了。その銃口をゆっくりとこちらへと向け直す。


「 でも……今日は2回も不意打ちくらってるからさ、その怖がってる様が()()である可能性ってのはどうしても拭えないよね!! 」


そして躊躇いもなく引かれる引き金(トリガー)によって発せられる轟音。


「 させないって、言ってるでしょッ!! 」


間髪入れず、まるで時が繰り返されているかのようなルイスの叫びにより再度展開される緑壁。それはすぐさま命中した弾粒の数々によって無情にも音を立て抉り飛ばされてゆく。


対して恐怖に覆われてしまっているこの身体は、咄嗟に「ひぃぃ」という、暴力に怯える一般人のような悲鳴を上げては、何処を守ろうとしているのかも分からない角度で腕を上げ固めるという、とても鍛えられた冒険者とは思えない無様で情けない様を晒してしまっていた。


思惑通りとはいかず、先と同じく植物の護りによって威力を殺され、ポロポロと落ちる弾粒を目に牙は悔しがるでもなく「ふふん」と満族気な笑みをこぼす。


「 あっちゃ〜〜また防がれちゃうか……でもさ、その身体であと何回同じ事が出来るのかな、ルイスちゃん? 」


節々に意地の悪さを感じさせる物言い、鈍重となった思考力ではその真意に気付けず怯えるしかなかったが、続く「くぅッ」という幼馴染を呻きを耳にハッと我に帰っては激しい焦燥に駆られる。


なんで気付かなかったんだ、俺の馬鹿!!この大馬鹿野郎!!?


いつもなら考えるまでもなく咄嗟におこなっていたであろう、しかし今の愚者(じぶん)が見落としていたなによりも優先すべき大事な確認。

散弾銃の一撃は広範囲の面制圧。それが俺を狙って放たれたのなら必然、すぐ側にいる幼馴染さえもその脅威に晒されるなんて当然の事なのに、なんで今の今までその考えに至らなかった!!


緑壁で完全に防ぎ切れない弾粒はルイスまでをも一緒に傷付けている可能性だってあるというのにッ!!


傷を負っているかもしれない幼馴染の現状。もはやそれにかける焦燥以外なにも考えられなくなり、警戒や恐れなどをかなぐり捨て身体ごと急ぎ向き直る。


「 ルイス、大丈夫……ッ!!? 」

「 油断大敵っていったよね? 」

「 何度だって、護って……キャッ!!? 」


その瞬間、無防備となった俺の背を容赦なく襲う銃撃の咆哮に、それを阻み四散してゆく植物たち。


これまでと同じ展開、しかしようやっと目にした幼馴染は寸前で頭部へ受けた衝撃により大きくバランスを崩しては赤の飛沫を散らせながらその全身を宙へと浮かせていた。


「 ルイスッ!! 」


それはまるで悪夢のような光景、咄嗟に脳裏へ浮かべてしまうあってはならない最悪の未来を拒絶するように出た悲鳴は、心を覆う恐怖を跳ね除け肉体に本来の力を取り戻させる。


そうして発揮された最高速のステップにより、地に落ちる寸前であった幼馴染をなんとか抱き支えることに成功するが、「しっかりしろ」と急ぎその顔を覗き込むとそこには苦痛に歪む表情。


「 くぅ……いったぁ。ごめん、カイル。ありがとう 」


無事を確認し少しの安堵を覚えるが、一目で分かるルイスの容態、それを目にする事で無限に湧く後悔、そして自分への情けなさで続く言葉を出す事は出来なかった。


先程の頭部による損傷から溢れる赤で汚されるその顔に、身につけていた綺麗そのものであった衣服も所々が抉り破かれては、今や黒へと変色しようとするその飛沫が多量に散らされている。


全身の出血は酷く、処置が必要なのは確実。なのに……ルイスはこんなどうしようもない馬鹿野郎である俺に微笑みを向けてくれていた。


「 なんて顔してるのよ、私は大丈夫。全部擦り傷だから……それに 」


言葉を途中で止め、身体を起こし直す幼馴染は「いてて」と苦痛を漏らしながらも俺の胸を「コツン」と軽く小突く。


「 しっかりするのは、そっち……カイルは、みんなで笑い合える未来を、護ってくれるんでしょ? 」


「 ………は? 」


突然に言われた予想外であったそれに思わず唖然としてしまう。そしてそれにより脳裏に蘇るのは数日前の夜、確かに口にした言葉。


『 ルイス、俺は大切なお前の未来を護りたいんだ 』

『 みんなを護って、それからみんなと笑い合いたい 』


直接的に『みんなで笑い合える未来を護る』とは言っていない。けどあの時の会話を覚えていたルイスはそこからこちらの本心を自分以上に理解してくれていたのかもしれない。

そんな優しい幼馴染は自らを襲う痛みに耐えながらも、それでも俺を不安にさせない為だろう、綺麗で温かな笑みを浮かべてくれている。


「 カイルのいない未来なんかじゃ、私は絶対笑えないよ 」


「 ………ルイス 」


………ほんと、敵わないな。


ルイスの笑顔が、まるで太陽のようなそんな綺麗で優しい……温かな微笑みが俺の全てを覆っていた深く暗い感情の霧を晴らし照らしてくれる。


「 ……それじゃあ、何がなんでも生き抜かなきゃな。ありがとう、ルイス 」


もう全部辞めだ。頭の中で作り出した恐怖に怯えるのも、自分のせいで仲間が傷つけられた後悔に嘆くのも、その情けなさに泣くのも全部全部、後回し!!


今は……必要ない。俺達が生きてまた安心して笑い合う日を繰り返す為には、必要ないんだ!!


心にその意志を上書きしながらも、ルイスと二人して少し笑い合う。そして強めた決意をもって改めて装填(リロード)を終えた散弾銃を向けてくる牙と対峙する。


「 ん〜?………あららら、もしかしてカイル君回復しちゃったの?あっちゃ〜〜やっぱり畳み掛けるんだったかな、警戒しすぎたかも 」


「【資格者】カイル•ダルチの名を持って、ここに力を行使する。【魔冠號器(アゲート)創造者の腕(アゾットメイク)】の行使を許可するッッ!! 」


そんな能天気を続けるそれを無視し、素早く取り出した解放の書を展開しては起動。予想外であったのだろう「ちょっ!!」と焦り始める殺し屋の目の前でルイスが装備するその絶対兵器へ掛けられていた封を解いた。


それにより散弾銃の脅威をも容易に超える現代における最強の武器へ組み込まれた翠色の魔石は本来の輝きを取り戻し、その息吹である魔力の余波が周囲を囲う花々を激しく靡かせる。


精一杯の睨みをきかせ、戦う意志を強める。対して牙は「ふふん」とやはり笑みをこぼす。


「 へぇぇ、さっきまでひたすらに怯えてただけだったのに良い顔になったね、カイル君。魔冠號器(そんなもの)まで持ち出してくるなんて、いよいよ本気かな? 」


「 もうビビるのも、相手が人間だからって力を出し惜しむのも全部辞めだ。大好きな仲間をこんなにも痛めつけられて、容赦なんて絶対にしないから覚悟しろよ、荒上牙!! 」


「 ………ふぇッ!?だだだ、大好きって 」


………ん?


怒りを込めて吐いた言葉、しかしそれになによりも反応したのはすぐ側の幼馴染という謎に違和感を感じて、少し考えてみる。


あれ?もしかして俺、ちょっと言葉間違えたか?


咄嗟に牙へと「ちょっと待って(タイム)!!」と静止を懇願し、ルイスへと向き直り訂正を急いだ。


「 あの、家族的な意味な。さっきの大好きってやつ……セクハラ的なのじゃないから!! 」


よし、訂正完了。


なにやら口を尖らせている幼馴染を他所に牙へと急いで向き直る。


「 こほんッ………俺はお前を絶対に許さない!! 」

「 いや、ちょっとそのシリアスな戻し方は無理があるよカイル君 」


少し前の『Y』へのツッコミを返された気がして俺はぐぬぬと唸るのであった………ーーー



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