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人が壊したこの世界で  作者: 鯖丸
第四章 『 試練を乗り換えし者(後編) 』
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073: 動き始める歯車《物語》(2)


「 アハハハハ!!本当に面白いね〜君たち。こんなにも騒がしくて楽しいお仕事初めてだよ〜〜 」


ケラケラと腹を抱えて笑うのは、つい「短すぎないか!?」とツッコミを入れたくなるものの、ちゃんとした材質のホットパンツを身に付けた絶世の男の娘。


えぇ、ちゃんと()()()()()()とも……けど、上半身に纏うぶかぶかのコートがその殆どを覆っているせいで、その様は一見では()()()()()ようにも見えて叡智……いや、俺は男相手になにを考えてるんだ!?


「 ……カイル 」


あっ……わりぃぃ、俺死んだ。


ゆっくりと息を吸い込み心を落ち着かせる、そして異性故なのか、新たな性癖に侵食されようとしているこちらの心情を察しては、冷ややかな視線で全身を刺してくる幼馴染の無言の圧に促され、恐る恐る振り返った。


「 ルイス……さん? 」

「 少し、頭……冷やそうか? 」


そうして刹那、俺に喝を入れる為なのか高速で放たれる平手打ち……って、パーじゃなくてグーかよ!!?


「 ぐぶぉぉぉ!!?……いや、ルイスさん。ちょっと加減を……ッ 」


「 ………何か? 」


う〜〜ん、目が怖すぎるDeath(で〜〜す)


とりあえず、予想外に痛すぎる頬をそのままに完璧なお辞儀と共に「ありがとうございます!!」と叫んでおく……お願いします、許してください!!


そんな俺たちを前に、こんな事になった元凶である男の娘は更に笑い声を高めているのだが……この野郎、なに笑ってやがるぅぅぅぅ!!?


「 アハハハハ……あぁ、面白かった。うんうん、満足したから、そろそろお仕事に入ろうか 」


悠々とした物言い。しかし、その一言で緊張感などなく、緩い雰囲気だったはずの一帯は冷たく張り詰められる。


「 本当はもっとお話していたいけど、これ以上()()()()を許しちゃうと護衛団の人たちがきちゃうかもしれないから、仕方ないね。あぁ、それと…… 」


そうして陽気な物言いで続けていた牙はそこで不意に言葉を止めると、変わらずの笑みを向けながらも、静かな、しかし、まるで見えない手に首を絞められているかのような錯覚を瞬時に引き起こす程に悍ましい殺気を露わにし始めた。


「 ーーーッ!? 」


魔物が発する生物として本能的に発するようなものなんかじゃない、本物の()()()()者が漂わせる吐き気さえ感じてしまう程に不快で恐ろしい気配。そんな狂気に当てられルイスと二人して思わず息を呑んでしまう。


今俺たちの目の前にいるこれは本当に人間なのだろうか?

もしかしたら、人の姿をした悪魔、或いは死神のような化け物なのではないのかという恐怖が、無意識に身体が震えさせる。


「 さっきのといい、ノーモーションかつ遠隔で森心術(グランドローグ)を高レベルに駆使できるのは凄いけど、流石に同じ手は食わないよ、お二人さん? 」


「 うそッ!? 」

「 くぅ……畜生ッ!! 」


そんな想定外であった言葉を耳にした刹那、思わず驚愕と焦燥で思考が固まってしまいそうになるが、作戦を先読みされていたのなら、硬直してる暇なんてないだろう!!?


不安と恐れで曇る心に喝を入れながらも、最高速をもって一呼吸で変わらない顔つきの牙へと距離を詰め拳を振るう。更にけたたましい音で大地を裂き先程と同様に伸びる始める、不意打ちの為とルイスによって潜伏させられていた拘束の蔦たち。


「 さぁ、第二ラウンド開始だね!! 」


殺し屋とは思えない無邪気さで構える相手へ放つ数発の拳はしかし、やはりその全てが軽くいなされてしまい、そこに追従するように奔る植物たちも飄々としたステップにより簡単とばかりに避けられ標的を捕らえる事が出来ない。


……けど、まだだッ!!?


喝を込め直し、何度でも俺が身につける格闘術の全てを展開し続ける。


「 残念だけど、君の呼吸はもう把握してるから同じ攻め方じゃあ僕には届かないよ、カイル君 」


そう口にする牙はやはり表情を崩さない。


そしてその言葉の通り、何度繰り返そうがこちらの放つ拳はそのどれもが軽く捌かれ、又は迎撃の掌底で攻撃自体を無効化されてしまい、蹴りは避けられ、掴みも卓越した身のこなしで簡単に剥がされてしまう。


「 人であるなら息を吸うという行為を無くす事はできない。それが激しく動く状況ならなおさらであり、呼吸とは全ての動作における初動ともいえる 」


高弁を無視し練撃を継続。そんな焦燥、苛立ちによって未熟にも心をざわつかせてしまっている俺を嘲笑うかのように牙は続ける。


「 だからこそ、一流の使い手は呼吸までも巧みに操り技として駆使する……まぁ、カイル君にはまだ早いみたいだけど 」


「 ご教授ありがとうなぁッそれじゃあ()()()()()()授業料受け取ってくれ!! 」


瞬間、予想だにしていなかったであろう()()()()()()()()()()不意の足払いを受けた牙は盛大にバランスを崩し「うそぉぉ」という素っ頓狂な驚愕を上げながら地に背から落ちる。更にそこへ合わせて現れては伸びる追加の蔦たちはその四肢へ瞬く間に巻き付いては再びとばかりに、しかし先程以上の頑丈な拘束に成功した。


「 もらったぁぁぁぁ!! 」

「 うむむむむぅぅぅ!!!なんのぉぉぉぉ!!! 」


間髪入れず無防備に固定された牙へ、ボールを蹴る要領で放つ全力の一撃。当然決まれば痛手は避けられないであろうこれを防ごうと、それは叫びを上げ、一見で分かるほどに周囲の空気を歪ませ始める。

考えるまでも無い、これは先に解き明かした超振動の鎧とも言えるであろう全身を覆う流鏖撃を展開した時に現れる現象。


分かってはいた事だけど……!?


構わず歯を食い縛りながら、放つ攻撃へ全力で力を込めた。


「 ぐぅぅ!!? 」


しかし、超速振動による壁。やはりそれを貫通すること叶わず、大きく逸らされた脚撃により全身のバランスを盛大に崩される。


流鏖撃を応用した防御術、これを破るのは一筋縄じゃいかない!?


おそらく四肢に巻き付いていた蔦もその气流力の技によって剥がされてしまったであろうことから、今度はこちらがおかえしとばかりな無防備に晒されてしまったこの瞬間への追撃に戦慄するが、どうやらそれはなかったようで、体制と構えを直し視線を向けると距離を取り「ふぅぅ」と汗を拭っては驚愕の表情を浮かべる牙が目についた。


「 いやいや、本当に今日は驚かされてばっかりだよぉぉぉ……森心術で植物を操作しながらも、本体まで気配を消して行動可能だなんて……そんなのありなのぉぉ?? 」


激しい動きの連続で息が切れる。けど相手の心は予想外の衝撃で乱れている。攻めるなら今だ!!


ルイスが駆使する森心術による隠密、それは例え气流力使いであっても正確にその場所を察知できない程に高レベルなものだ。


故に俺自身でさえ今なお気配を潜めている幼馴染の姿を僅かにさえ認識する事は叶わないが、互いに励み培ってきた修練の経験から、その思考を読み取るくらいなら余裕も余裕。

おそらく次の動きは背後をとっての奇襲。なら、こちらが前面で攻撃をしかけ注意を引く事で不意の一撃を命中させられるはず!!


( 頼むぞ、ルイス!! )


俺はどれだけ殴られようと、倒れさえしなければ構わない。結果、ルイスが放つ急所への攻撃さえ成功すれば形成は大きくこちら側に傾いてくれるはずだ。


そうして被弾さえも覚悟で一直線に間合いを詰める。


「 う〜〜ん。これは、もう出し惜しみは無しだねぇぇ 」


耳につくのはこちらの覇気迫る進撃などなんのそのとばかりな、悠長な発言。どこか引っかかる物言いのまま対峙する牙はゆっくりとした動作で羽織っているぶかぶかのコートへと手を伸ばし始めるが、おそらく忍ばせている武器でも取り出そうとしているのだろう、警戒こそするが戦略を止めるまでには至らない。


このまま攻める……ッ!!?


「 えぇっと……()()()()()? 」


そうして変わらず余裕な構えを見せるそれはしかし、ごぞごぞとコートの中へと差し込んだ手を動かしながらもその顔にこれまでとは違う含みのある一目で首筋を撫でられたかのような不気味さを感じさせる歪な笑みを浮かべ始める。


そして次の瞬間、全身だけでなく一帯を震えさせる体験したことのない空気の振動。合わせてあまりの驚愕から思わず足を止めてしまう程に響き渡る耳を劈く轟音が一つ。まるで巨大な魔物の咆哮が如き、日常では決して聴かないであろうそれに唖然としてしまうも、続く「うぅぅ!!」という苦痛の呻きと僅かに見えた飛び散る赤の飛沫に意識はすぐさまそこへ吸い寄せられた。


「 ルイスッッ!! 」


視界が捉える牙の背後で、呼吸を荒げ赤を滴らせる腕を押さえる幼馴染の姿。全身が無意識に動いては瞬進と言えるまでに常時では発揮出来ないであろう高速をもって、すぐさまルイスへと駆け寄る。


「 大丈夫か、ルイス!!? 」


そうして「はっや!!」と能天気な声を発する敵を横目につつ、急いで今なお赤を滴らせているその傷へ身に付けている衣服の一部を破り取り当てがっては、止血を試みた。


「 私は大丈夫、掠っただけだから……けど 」


顔を渋めるもなんとか無事を告げるルイスに胸を撫で下ろすが、しかし、そうなると次に来るのはやはり焦燥。


俺たちを揶揄うようにまたしても襲い来ない追撃に湧く苛立ち、不気味といった感情を無視し、幼馴染を気遣い立たせながら再度対峙する悪魔の如き凶敵。

それがコートの中から取り出し手にする()()()()()()()()を目に、抑えられない動揺が心臓を締め上げ、呼吸を早めさせる。


この戦いでずっと止まらない冷や汗でシャツはもうびっしょりで普段なら気持ちの悪さに嫌気が刺すのであろうが、そんな余裕すらもなく脳裏へ蘇るのは、当時は一目それを見ただけで好奇心や感銘で心満たされていたはずの、しかし今となってはそこに恐怖以外なにもないあの精巧で緻密に描かれた図が記された一枚の羊皮紙。


『 これは、世界で一つしかない最高傑作。胸を張って言えるね!!こいつは魔石を扱った武器を除いて、現存するどの近距離装備よりも最強かつ絶大な威力を誇る唯一無二の兵器!!それこそがーーーッ!! 』


この中央都市に来てすぐに訪れたガルグイユ火砲工房。そこで店主に見せてもらった()()()()()()()()金貨800枚の銃、その設計図が鮮明に呼び起こされる。


「 そ、それは…… 」


声が無意識に上擦ってしまう。


対峙するそれが手にしているのは、近距離の取り回しを優先するために切り詰め、縮小された、その先端から今なお硝煙を漂わせている二つの横並びな銃身に、中折れ式(トップブレイク)構造で使用者に合わせて調整された木製の持ち手(グリップ)……間違い、ない!!?


「 短身二連式散弾銃ソードオフ・ショットガン……!? 」


呟きのように恐怖は漏れ、それを耳にした牙はまるで悪魔のようにニヤリと笑うのであった……ーーーー


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