072:世界の不思議?
『 世界中で危険人物と指定され懸賞金まで賭けられている一流の殺し屋にして、数月前に今回の資格者選出試験で重役を務めていた当時の代表を暗殺した气流力使い 』
ネロさんの言葉、そしてその時に見せてもらった写真に映っていた容姿が鮮明に脳裏へと蘇る。
美少女と呼ぶに相応しい可愛いという印象の顔立ちと、それを引き立てる後ろへまとめた艶やかな黒髪。
加えて鍛えてるとは思えない程細く長い腕に、スカートから伸びる張りのある太ももとスラっとした脚。
服装こそ少し違うが、目の前で笑顔を続けながらも衣服についた土埃を払っているそれと記憶していた危険人物の姿は確かに一致する。
『 権力とドス黒い腹を持った奴ってのは、懐にとんでもねぇぇモン隠してる場合があるってもんさ 』
雷蔵様が忠告してくれていた憂目が現実になってしまったのにはもはや苦笑しかない。しかし、故に確認しとかないといけない事がある!!?
大きく息を吸い、心を強く保ちながらもしっかりと目の前のソレを見つめては、初めてその姿を認識した時からの疑問を恐る恐る口にしてみた。
「 あ…あんた、本当に……お、男なのか? 」
途端、その問いかけにきょとんと目を丸くするソレと驚愕をこちらに向けてくるルイス。幼馴染のそれが「なにバカな事いってるんだ!?」という意味の目線なのは重々理解してる。
こっちだって嘘だと信じたい!?
ネロさんの言ってた事は間違いでこの殺し屋が本当は女性だったとなれば、俺はこの世界を好きなままでいられるだろう。
しかし、現実は非常。目の前にいるソレは「あぁ!」と何かに気付いたように声を上げ、ぱぁっとした可愛らしい笑顔を浮かべると恥などないかのようにスカートをひらひらと手で靡かせ始めた。
「 なッ!?……視えッ!?……視えッそう!!? 」
咄嗟に、本能が揺れる布から覗けてしまいそうになるそれを凝視させるが、同時に鋭く刺されるのはルイスからの冷たい視線。
いや、違いますやん。不可抗力じゃないですか……チラッと見たルイスの顔は……怖、いやキレイダッタ
く、クールビューティーってやつだろう。うん、きっとそう!!
そんな俺たちを無視してソレは意気揚々と口を開く。
「 この通り、僕はちゃんと男の子さ。この格好は都合が良いからしてるんだ。ほら、相手によっては『女の子は殴り辛い』なんてのもいるし、男性と女性なら、警戒されやすいのは前者でしょ? 」
どの通りだよ!!?
とツッコミたいこちらの気持ちなど他所に、ソレは見せつけるようクルクルと無邪気に回り始めるのだが、やっぱり仕草も含めどこからどう見ても女の子にしかみえない……
警戒を残しつつもチラッと幼馴染を見てみると、予想通りこの信じ難い現実に、口をあんぐりとしては固まってしまっているようであった。
「 む〜ん、けどカイル君には全然効果無いみたいだし……うん。なら、もういいやッ!! 」
「 ちょ、ちょっと待ちなさい!!? 」
何が吹っ切れたのか、履いているスカートへと手を伸ばし始めたソレを目に、そう予想外にも声を上げたルイスに思わず驚愕の視線を向けてしまう。
何も怪しい動作はなかったハズだが、俺が見落としてた襲撃の可能性などに気付いたのか??……それを置いてもこんな焦燥の声をあげるなんて珍しい。
普段なら俺に次いで冷静に状況を判断できるハズである幼馴染は、その顔に明らかな動揺を浮かべており、幾つかの冷や汗を伝わせている。
「 あ、あなたまさか……この場で脱ぐつもりじゃないでしょうね? 」
「 ん?そうだよ。動き辛いし?? 」
それを耳にした刹那、奔る戦慄。
それと同時に幼馴染が察知した狂気を理解しては、あらゆる部位からブワッと汗が湧き出るかのような錯覚が全身を襲った。
「 ままま、ま、待てぇぇぇ!!脱ぐって、まさかスカートをか!!? 」
「 そだよ? 」
「「 そだよ?……じゃねぇぇぇぇ!!!? 」」
二人して渾身の悲鳴をあげる。
待て待て!!?仮にも美少女の見た目をしたソレが履いてるスカートを脱ぐ、だと??
少し想像しただけで内で沸騰する童貞心はすぐさま理性へと戦争を吹っかけようと暴れる兆しを見せる。
これはいけない。そんな事されたら、我が性癖が壊れちゃうでしょうが!!!
……いや、でも冷静に考えて?男、なんだよ?なら何も問題ないのでは?セーフなのでは??
その疑問が魂へと問いかけられると、自然と意識はきょとんと呆然としている、男であるハズのその可愛さ抜群な顔面へと吸い寄せられが、そんな視線に気付いたソレは「ん??」と眩い笑顔を浮かべる。
これは……新たな扉が開かれる予感。
生涯閉じられ続けなければならないハズの狂気が今解き放たれようとしている恐怖。気がつくと俺は「Noooo!!」という悲鳴を上げていた。
「 カイル、あの人を止めてッッ!!スカートを下ろさせるなぁぁ!!? 」
「 ダメだ、間に合わねぇぇ……ッ!! 」
「 むむむ??………いいや、限界だ。下ろすね、今だッッ!!? 」
「「 案外ノリ良いんだね、君ィィ!? 」」
そうして本来閉じられるべきであった『男の娘好き性癖』はジリジリと開かれ……いや、開かないが!!?




