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人が壊したこの世界で  作者: 鯖丸
第四章 『 試練を乗り換えし者(後編) 』
63/71

063:実技試験会場

先程のものよりも長い響きを奏でる鐘が予定時刻の到着を告げる頃、中央局により招集をかけられた俺を含む6名の使役者。

そして難関と名高い魔冠號器資格者選出試験においての第一関門である、筆記試験を突破したとされる12の新星成り得る可能性たちは、この中央都市に住むものでも一部しか知らないであろう特別な場所に連れて来られていた。


中央局本部施設にある昇降機からしか辿り着く事が出来ないここは、地上の音や振動、光の一切が届かない遥か地下に広がる、今や誰も住まず、しかし貴重な文化遺産として管理•保管されている古代の街が納められた広大な空間であり、一帯にはここが運用されていた頃より持続しているのだろう光源を司る魔導術式によって外と変わらない明るさが維持されている。


にしても、相変わらずこの光景は圧巻と言わざるを得ない。


都会程ではないが、田舎のソレよりは活気があったのだろう多くの古めかしい建造物が規則的に配置された街並みもそうだが、それよりも目を引くのはやはり圧倒的な存在感を醸し出している、おそらくこの場にいる殆どが見上げているであろう、特徴的なその施設であり、これこそがこの空間が500年以上も前に造られた理由でもある。


この世界で生まれた全人型種が新たな頂点者『人神ナスティック』によって人間という存在に統一される以前。種としての連携以上に個の戦闘力をなによりも重視する思考により、当時では唯一『決闘』という文化によって全ての選択を下していたと記録されている『天上騎士族(ヴェルンナイド)』によって創造された神聖な施設ーーー『神選地下闘技場(スプレームス)』を前に、隣で大欠伸をとっている雷蔵様を除く俺たちは皆一様に口を(つぐ)んでいた。


「 皆様、ようこそおいで下さいました。歓迎いたします 」


( ……お、きたか? )


そんな中不意にかけられた背後からの声に一部の新星たちは慌て振り向くが、それよりも早く、動揺を起こさなかった者たちの前には赤のフードを纏い、模様や視界を確保する穴さえない白一色のみの不気味な仮面を付けた存在がスゥっと静かに現れる。


これは2年前、俺自身が新星として対峙した時と全くと言っていいほどに同じ光景。

かつては自分もこの出現に驚愕してしまったものだが、軽く視線を回してみると、慌てていた受験生たちは未だ動揺に駆られているようで警戒をそのままにしている。


まぁでも、正しい反応だよな……するとそんな新星たちなど気にしないかのように、現れたソレは以前と変わらず丁寧かつゆっくりとした動作でこちらへお辞儀を向けてきた。


「 私はこの闘技場の管理、そして今回の実技試験においては監督•審判を任されている者であります 」


昔と同じくここで名乗らないのは自らの秘匿性を高めるためだろう。抑揚もなく、淡々と話される言葉に不気味さを感じるのも相変わらずだ。


フードと仮面で素性が分からないうえ、独特な雰囲気を漂わせているその風格から、もしかしたらこの人は眼前の古代施設誕生に関わるような、とんでもない大物なんじゃないかと当時は懸命に考察したものだが、使役者となった今でさえ彼の情報の一切が分からない辺り、これは単に考えるだけでは答えに辿り着けない秘匿事項なんだろうともう諦めている。


まぁ、世の中考えても分からないことなんて山のようにあるんだから、仕方ないさ


「 んあぁッ!?なんだよ、お前()()()じゃないかい、おいおい、久しいなッ!! 」


おっと、雷蔵様〜〜???


大欠伸を終え呆けていたかと思いきや、目についたソレが顔見知りだったからか、その再会の喜びに「かっかっか」と笑いながらも身を乗り出して近寄る武人様に自然とそこにいる全ての視線が集まっている。


そんな注目など気にも止めず笑顔でフードの肩をバンバンと叩いている雷蔵様だが、そんな満足そうな彼とは対照的に一帯の空気は誰でも分かるであろう程に冷たく凍りついており、これは大丈夫なのかと慌てて視線を廻すと、頭に手を置き溜息をつくネロさん、そして驚愕と焦燥でとんでもない顔をしてしまっているミーラさんが目についた………うん、これやっぱりダメなやつッ


独特な不気味さに包まれ、その全てを読み取ることが難しかったはずの仮面のソレも、今や明らかに動揺しているのが見てとれ、アワアワと手を無造作に動かしては言葉を探しているようであった。


つまりは、雰囲気ぶち壊しである。


「 あぅ………ら、雷蔵様……その、私の事は…どうか触れないで貰いたい、というより秘密に 」


けれども、雷蔵様はマイペース。


「 あぁ??なんだい、久しぶりの再会だってのに釣れないじゃないか。それよりも、お前酒癖の悪さはもう直ったのかぁぁ??昔ゲロぶっかけられたのまだ憶えてんだからな 」


WAO〜〜とんでもない事になってきたぞぉぉ雷蔵様〜〜ッッ!!?


これはマズイ!!?

一帯がまるで幼馴染たち(あいつら)といる時のような


『 じゃあ何時ふざけるの??……今でしょ?? 』


の雰囲気に包まれ、それは俺の悪戯心(たましい)を激しく揺さぶっては耐えきれない本能に駆られ意気揚々と前に出てしまう。


「 雷蔵様に〈ゲロ吐いた(ゲロッパー)〉したという事ですがッッそれは事実なんでッッぐぶぅわッ!!? 」


そうしてタチの悪い雑誌記者の如く突撃しようとしたその刹那ッッ!!?

予想だにしていなかった下からの衝撃に全身は空へと浮き上がり、奔る衝撃。


おそらく瞬間にして俺の足もとに瞬進してはしゃがみ込んだミーの姐さんが、縮められたバネの如き力を込めた勢いのついた跳躍でこちらの顎目掛けて直上頭突きを繰り広げていたのだろう。


超•イテェぇぇぇぇぇぇ!!!?


そうして新星たちの生暖かい視線を向けられながらも数秒宙を舞った後「ぶぅへぇぇ」と情けない事をこぼしては背から地面への着地。


舌噛んだァァァァ!!?口の中、めっちゃ痛い!!血出てるよコレぇぇぇぇ!!?


周りの目なんて知った事ではなく、全身倒れ込んだまま涙目でのたうち回ること更に数十秒。


その甲斐もあり、ちょっとだけでも痛みが引いたのを気に身体を起こしてみると、目に入ったのは仮面越しに羞恥からか両手で覆うように顔を隠しているフードのそれとネロ•ミーラさんのタッグに説教を受けている雷蔵様……良かった、この感じなら俺はこれで許され


「 カイル、後デ締メル。悪ノリ、許サナイ 」


唖然としている新星たちに隠れて、安堵をつこうとする俺に、余裕が無いからかカタコトに、しかしちゃっかりと怨嗟のようなものが籠った声をかけてくれたのは、なんと横目でチラリとこちらに睨んでくれた「みーちゃん」


あれれ〜いつもみたいに「カイルちゃん」って呼んでくれないのかな〜


……悪いルイス、植物園に行く約束守れないかもしれん


遥か地上で待ってくれているであろう幼馴染の笑顔を思い、視線を頭上に広がる土の天井へと向ける。そして俺は頬に諦めの涙を伝わせるのであった……ーーーー



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