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人が壊したこの世界で  作者: 鯖丸
第四章 『 試練を乗り換えし者(後編) 』
62/69

062:最期の作戦会議


「 ………という事で、残念ながらカイルちゃんの推測通りになっちゃいました 」


「 こちらとしてもこの二日間の話し合いで事前に手は打っていたのだが……相手側の方が一枚上手だったらしい、防ぐ事ができなかった。すまない 」


中央都市に滞在して早四日目となる朝。


最早お馴染みとなった施設の一室に来て早々、ミーラさんとネロさんは、テーブルに幾つもの書類を広げては、目の前にいる俺と雷蔵様へ深く頭を下げ始める……どうやら、嫌な予測が大当たりしてしまったらしい。


試しにと眼前で広がる一つ。不正に加担した事で即刻懲戒解雇が下されたとされる中央局職員(スタッフ)たちの証言をまとめた写真付きの報告書、それらを手に取り軽く読み込んでみるが、溢れるのは「やっぱりか」という落胆。それは隣にいる雷蔵様も同様であったようで「あちゃ〜」と頭に手を置いている。


常に情勢を考える者なら誰しもが頭を抱えているであろう、カイドライン大陸の顔と言っても差し支えない中央都市(ここ)が今まさに直面している大きな問題。それは文明レベルの急速な発展にあらゆる変化が追い付けていないことにある。


古い常識が非常識となってしまっているのが現在であり、それは魔冠號器(クラウン・アゲート)資格者選出試験においても例外ではなかったのだ。

過去、魔物の猛威に対抗する為により多くの使役者(ホルダー)を求めた先駆者たちが作った条約(ルール)


『 資格者選出試験実施中は試験(それ)に関わる使役者、または取り仕切る代表等々は、現行犯を除きあらゆる懐疑行為による拘束を受けない 』


そんな古い決まりを悪用されてしまった。


昨日である三日目の話し合いで、幼馴染たちと楽しんだ豪勢な夕食の領収書を渡した事で、ミーラさんから頭に見事なまでの3段たんこぶタワーをプレゼントされながらも俺が唱えた()()()の可能性、それが実現してしまったという最悪の展開。


書類を読むに今回の事件はノイさんの時とは違い、提示された大金に目が眩んだ中央局職員(スタッフ)たちによる凶行とされているが、それらはどれも諸悪の根源ーー現代表代理ダリット・ウィンカウンが直々に懐柔の言葉を並べていたことが大きな誘因となっている。となると、報告書をじっくり読み込まずして起こったであろう事など簡単に推測できる。


組織の重役(トップ)が大金を掲げつつ


『例え不正がバレても罪に問われないように計らう』


とでも甘い言葉を吐いたのだろう。もちろんそれは嘘八百の虚言であり、初めから毒牙をかけた中央局職員(スタッフ)たちを庇うつもりなど毛頭ない。


その証拠に不正を働いた彼らはひたすらに『代表に唆された』と吠えてたらしく、それを当の本人に追求したミーラさんとネロさんに帰ってきたのは嘲笑。


ダリット・ウィンカウンは知らぬ存ぜぬを貫いては『現行犯を除きあらゆる懐疑行為による拘束を受けない』という条約(ルール)を盾に悠々と構えていたらしい。


「 ちッ……こりゃぁぁ絵に描いたような悪人だこって、胸糞悪いっったら、ありゃしない 」


報告者を読んだ雷蔵様はそう悪態をつき、手にしていた紙束を机へ乱暴に投げ戻すが、それを横目にすることで目の前の二人が未だ俺たちへ頭を下げ続けている事にようやっと気付いては慌ててしまう。


「 ちょッッ二人とも頭を上げてください!!別に俺たち責めてる訳じゃないですから、ね??雷蔵様ッッ!? 」


「 うん??……あ、あぁぁ、わりぃぃわりぃぃ!!ちょいと心の殻に籠っちまってたな、坊の言う通りだ悪いのは親玉で、お二人さんはなにも責任を感じる事ぁぁないぜい 」


今回の問題は全て、言ってしまえば中央局の重役が引き起こした組織絡みの汚職だ。おそらく二人は自らの仕事、立ち位置に誇りを持っているからこそ、その責任を重く感じてしまっているのだろう。


この、真面目で立派な人達が理不尽に頭を下げている現状が諸悪に対する憎悪を更に強めてゆくが、今はそれを抑えうちに留める。


そうして雷蔵様と口を合わせてどうにか励ましの言葉を並べ続けると、それを耳に頭を上げては顔を見合わせる二人。

続けて、ネロさんが「そう言ってくれると助かる」ともう一度軽く頭を下げてくれて事でようやっと話し合いの雰囲気が戻ってきた気がしてなんとか安堵の息をつけた。


しかし、こうなってくると後は俺の頑張り次第って事か……


「 カイルちゃんの推測通り、この不正でカウロ・ウィンカウンは筆記試験を問題なく合格したという事にされてしまいました。私達が解答用紙や合格者通知書を確保するより先に()()代表印を押されちゃって無効に出来なくなってしまったんです、本当にごめんなさい 」


その報告を耳にまたしても「やっぱりか」という呟きが無意識にもれ、ただの違和感でしかなかったそれは確かな事実へと変わってしまう。


最難関と名高い魔冠號器資格者選出試験。


その第一の門として立ちはだかる筆記試験は、計算を含む300の問を300分以内で全て解かなければならないという、長時間集中力を持続させる能力があるかを試されるものであり、毎年ほぼ全ての受験者が無惨にもここで振るい落とされ続けている。


もちろん、これに挑むものは日々を勉学に費やし知識を深め続けているがそれでもなお通過できないのだ。


その理由は単純明白で、ただでさえ難しい試験問題、その合格(ライン)が常に『満点』に定められているからだ。

ただの一つの間違い、書き損じさえも許されない絶対の条件。


300の問を300分で解き、全問正解を完遂する。

これが筆記試験の合格条件であり、故にこれに挑むもの達は皆、試験が近づくにつれ1分さえも惜しんで参考書を読み込むのが常なのだが、列車でカウロ・ウィンカウンと初めて遭遇した時にヤツが見せたように悠々とした態度をとっている受験生など、聞いたこともない。いるとすれば余程の自信があるか大馬鹿者かのどちらかだろう。


つまりヤツは初めからまともに筆記試験に挑むつもりなんてさらさらなかったのだ。


それを理解したことで出るため息。それを目にまた謝罪の数々を繰り返そうとし始めるミーラさんを制して、話し合いを続ける。


そうして挙げられていく今後の対策に敵の行動・思想予測。それらを踏まえて交わす言葉や思考から提案された案は、流石のメンツと言えるだろう、伝説または最強と呼ばれるに相応しい人達の経験則からなる数多くの確実性の高い意見。


けど申し訳ないがそのどれもが俺には後手に周る策に感じてどうしても最前手だとは思えなかった。


「 あ、あの……少し、いいですか? 」


故に繰り返される話の交わりを一旦止めてもらい時を貰うことにしてみる。


これは若造のなんとも身勝手な願いだが、今は少し考える時間。予め頭に浮かんでいた自分の案たちを整理し、大きな塊へと変えてゆく時がどうしても欲しかったのだ。


そんな思惑を尊重してくれたのか、目の前の猛者たちは「わかった」と了承を述べてくれては沈黙で応えてくれる……その対応に甘えさせてもらおう。


ゆっくりと小さな深呼吸を行い、頭の中で自らの思考を巡らせてゆく。


……相手側から一方的に手を打たれ続けている中、ここまで攻撃されてるのにずっと後手の対応に追われるだなんて、まっぴら御免だ。反撃に移れるタイミング、俺はそれを理解している。なら逃すなんてのは無しだろうッッ


ネロさんたちが教えてくれた、権力を振りかざしデカい顔を続けながらあらゆる悪行、悪評を振り翳しているというウィンカウン家の情報。頭の中でバラバラになっているそんな欠片たちを繋げ、廻し、策としての形にしてゆく。


そこへこちらから仕掛けられる攻撃の要素(スパイス)をふんだんに忍ばせ、そうして編み出させるは反撃の一手。

それは我ながら性格も意地も悪い作戦だと思うが、相手は俺の仲間、友達であるノイさんを利用した悪であり敵。そんな彼女の夢を汚し壊した者達にかける温情など微塵もない。


部屋の一角に設置されていた鏡に少し映る自分が、無意識に気味の悪い笑みを浮かべていた気もするが、そんな事など無視だ。


「 俺に考えがあります、反撃の案……上手くいけば裏に隠れた組織を炙り出すことも出来るかも 」


その言葉に必然皆の視線は集まる。

そうして俺は唱える。ゆっくりと静かに、考察をも踏まえた作戦案。


それに誰一人として口を挟む人はいない、全員がこの数分を黙って受けて入れてくれている。だからこそ、何の遠慮もなく発せられた言葉たち、その並び。


すると不意に、案を言い終わると同時とばかりにタイミングよく室内へ響き渡る鐘の音。部屋にある時計を見てみると指定された時刻はすぐそばとなっており、それを目に皆の顔をもう一度見渡すと彼らは一様に「やれやれ」と首を振ったり息を付いたりと脱力し始めた。


「 ふぅ……話し合いはここまでだな。まったく相変わらずとんでもない事を考えるヤツだよ、お前は 」


そう悪態をつき、ネロさんはゆっくり部屋を後にする。


「 ホントに……。カイルちゃん、無理に頑張る必要はないのですからね?いつでも相談して下さいね? 」


そう隠しきれない不安感を顔に浮かべながらミーラさんも続き、室内には俺と雷蔵様だけが残った。


今日は魔冠號器(クラウン・アゲート)資格者選出試験・筆記試験合格者と実技試験担当使役者が対面しその組み合わせを決める当日でもあり、先程の鐘の音はそれが行われる時刻の接近を告げるものだったのだ。故に二人はその準備も兼ねて足早に部屋を後にし、結果胸苦しい沈黙が部屋に漂い始める。


「 はぁ〜……なん、でこんな面倒な事になっちゃったかね〜〜 」


独り言を愚痴りつつも熱を持った頭を少しでも冷ますように髪を手でくしゃくしゃにしてみる。

本来なら憧れの人である伝説のお方、神羅雷蔵様と二人きりという今のこの状況は願ってもないというか、心臓が緊張で高鳴りすぎてしんどくなるほどである筈なのだが、どうやら今は余程心に余裕がないらしい。


自然と大きなため息が出ては、机にぐったりと寝るように脱力してしまっている現状に情けなくなってくるが、そんな中僅かに聞こえた小さく息をはく音と呟き……


「 ……ったく、最近のわけぇぇのはなんでこうも…… 」


气流力を使っていた訳ではないので言葉を最後まで聞き取る事は出来なかったのだが、僅かな呟きに感じた疑問と共に顔をあげてようと試みたその瞬間ッッーーー


室内に「パンッ!!」という耳にするだけなら心地よい平手からの殴打音が響くと同時に、背から全身に駆け巡り奔る脱力がかかっていた肉体を目覚めさせるかのような面の衝撃ッッ!!?


「 いッーーーーたッッッ!!!なッなにするんですかァァァ!!!? 」


へ!!?せ、背中を思いっきり叩かれたのか!!?


予想だにしていたなかった突然の痛みに、その場から勢いよく立ち上がっては背筋を本能的にピンッと張り、衝撃を少しでも誤魔化そうと部屋中を跳ね回る。


その様はまるでウサギの真似事だが、そうでもしないといってぇぇの!!


気になって横目で見てみると、そんな俺に雷蔵様は満面の笑みを浮かべていた。


「 ま、頑張れよ若いの!!………死なない程度にな 」


そうしてその言葉を最後にこちらに手をヒラヒラと靡かせながらも伝説は俺を残して部屋を出ていってしまう……


「 いってぇぇぇぇ……なんだったんだ?? 」


今だヒリヒリする背を摩りながらも、俺は呆然気味にそう呟いてしまうのであった……ーーーー



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