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人が壊したこの世界で  作者: 鯖丸
第四章 『 試練を乗り換えし者(後編) 』
59/71

059:中央都市での二日目(5)


「 はぁ……成る程、そんな事があったんですね 」


今や部屋を後にした同じく試験官として呼ばれていた使役者(ホルダー)たちと二日後となる実技試験についての一通りの説明を聞いた後、室内に残った俺と雷蔵様。そしてミーラさんとネロさんという4人で机を囲っての話し合いを始めて数分。


3人から教えてもらった、朝この施設に来るまでに街が少し騒がしかった理由が、どうやら俺を狙った暗殺者たち。そして俄には信じられないが雷蔵様の介入で失敗したそれらを始末するべく何処からともなく出現したという金級(ゴールドクラス)の魔物たちによるものであるという、とんでもない事実を聞かされて、もうそれだけで頭が痛い。


しかし押収したという机の上に置かれた、中央都市への道中で撃退した野盗たちが持っていたのと同じ俺の顔写真がデカデカと貼られた手配書の存在。それにより考えうる推測が肉を持ち、より現実味を帯びてくる。


そうしてため息を吐きながら頭を掻いていると、ミーラさんは手配書を指差しながらも、真っ直ぐにこちらへ視線を向けてきた。


「 カイルちゃん。もしかして、なにか狙われるような事したのですか?? 」


「 冠使役者(クラウンホルダー)である以上、目をつけられる事はあるかもしれないが、もしそれ以外に理由があるのなら話してくれ 」


そう中央局に所属する二人は真剣な面持ちを浮かべる。気になって視線を移してみると、隣に座る雷蔵様はなんでもこいとばかりに腕を組んで瞼を閉じていた。それを目に少し思考を凝らす。


本当ならこの問題は俺一人で解決するつもりだった、そう出来るというそれなりの自信があったからだ。しかし、相手は予想していたよりも強大、というより()()()()()()()可能性が高い。まさか頭の片隅に残していた程度の魔物を操る謎の存在が事に絡みそうになっているなど想定外も良いところだ……となると、味方を増やしておく方が得策なのかもしれない。


結論に至ったのでゆっくりと頭の中で思考を整理し、皆になにを提示すべきか慎重に選択してゆく。


「 実はここ数日で襲われそうになったのはこれが始めてじゃなくて、この街にくる道中も何度かあったんですよね……この手配書を見るのも2回目で 」


そうして記憶を蘇らせながら中央都市に辿り着くまでの道中での出来事を話してゆく。

こちらを確実に()()()為に事前に銃まで準備していた野盗たちの待ち伏せ。更には魔導列車でノイさんを騙し毒を盛ろうとしてきた謎の存在。


それらを耳に皆各々に思考を始めるが、きっと俺が思うこの問題の真相に近い推測を言えるのはこの機会しかない。故に話を続けてみる。


「 これは推測なんですが……俺、今回のこれらは()()()()()()が憧れてる魔冠號器を手に入れる為だけに起こしている幼稚なものだと思ってるんです。魔導列車で唯一俺に接触してきた()()()()()()()の人間が…… 」


「 おいおい、そいつぁ……随分しょうもない理由だな……まぁ、相手が性根の腐った権力者となりぁなくはないのかね〜? 」


ため息をつく雷蔵様を横目に俺の口から出た、名家なのだろう、その名を聞いた中央局の二人は一斉に目を見開いているようだ。この反応を見るにウィンカウン家とは余程有名な一家なのかもしれないが、少なくともウィルキーのような田舎町ではまず聞いたことがない。


「 勿論、証拠はありません。列車で毒を盛られそうになった時、似た人物の存在をうっすら察知出来たからこの推測を立てたというのはありますが、俺自身、气流力について力不足な所が大きく、故に信憑性には欠ける……けど、この可能性を捨てて良いとは思えない。中央都市の方ではウィンカウン家について何か問題などあったりしてませんか? 」


もしかしたら俺の推測には無意識に偏見のようなものが入っているかもしれない。

金のない孤児が持つ富豪たちに対する嫉妬、その感情がこんな思考を生み出したと思われても仕方がないし、絶対にそんな想いはないと言い切れない自分もいる。


しかし、そんな妄想が的外れでないのは、眼前で顔を見合わせている二人を目に実感できる。


「 ウィンカウン家、ですか……ダーリン 」


「 あぁ、辻褄は合うな 」


二人の間で何か納得したのか「少し待っててくれ」とネロさんは部屋を後にすると、直ぐに帰ってきては取りに行っていたのであろう一枚の写真をふわっと机に置く。


視線で促されそれを見てみると、女生徒なのだろうか学生服のような上着とスカートを身につけた一見では同い年程の美少女と言えるであろう綺麗、というより可愛いといった雰囲気の艶やかな黒髪を後ろで纏めた女性が、月夜に照らされ無邪気にポーズをとっているという、まるで雑誌用に撮られたかのような思わず魅入ってしまう光景がそこには写っていた。

当然、こんなものを見て何かを感じ取れるはずもなく、隣の雷蔵様も俺同様に疑問を浮かべている。


「 えっと……ネロさんの秘蔵コレクション? 」


「 はっ倒すぞ、貴様……それに、これに写ってるこいつは()() 」


「「 はぁッッ!!!? 」」


衝撃発言に思わず雷蔵様と揃って驚愕し写真を凝視してしまうが……いや、ないでしょう?

確かに胸は無いけど、顔付きはそんなのがあるのかは知らないが美少女コンテストなんてものがあるのなら上位にくいこむであろう圧倒的な美形で、肩幅だって小さくて、服装も合わせてどっからどう見ても女性にしか……う、うそぉぉん、マジでぇぇ??


何度見直しても信じられずネロさんを見るが、彼はゆっくりと首を縦に振っている。


「 ら、雷蔵様。おれ、もうこの世界が信じられないです 」


「 お、おう。儂も色々見てきたが……世界ってのは広いな〜 」


「 話を続けるぞ 」


そんな呆ける俺たちにネロさんは咳払いを一つ吐く。そして、空気を締め上げるように改まって静かに言葉を紡き始めた。


「 こいつは世界中で危険人物と指定され懸賞金まで賭けられている一流の殺し屋にして、数月前に今回の資格者選出試験で重役(トップ)を務めていた当時の代表を()()()()气流力使い『荒上牙(こうがみきば)』だ 」


「 あ、暗殺!!? 」


もう驚愕の連続だ。代表を暗殺されたという予想外な事実に、思わず言葉を遮るように叫んでしてしまうが、そんな俺を無視してネロさんは視線をこちらにしたまま懐から取り出したもう一枚の写真を机に置く。


「 そしてその暗殺によって、急遽代理として新たに代表となったのがこの写真に写るウィンカウン家・現頭首『ダリット・ウィンカウン』。お前があったというカウロ・ウィンカウンの父親だ 」


新たに置かれる写真、それを目に思わず「え!!?」と飽きもせず驚きが漏れては目を見開いてしまう。しかし今度のそれは雷蔵様も同じであったようで「こいつは……」と絶句のようなものをこぼしていた。


これは……一体どういう事だッッ!!?


「 正直、この街に住むものならウィンカウン家の悪評を知らないものはいない。そんな家系の頭首が急遽とはいえ代理になるというのは異例も異例。当時から疑ってはいたのだがな…… 」


二人の顔つきを見るに「こんな事になるとは」という思いが自然と読み取れてしまう。

気持ちを整え一旦写真から目を離し、ここまでの情報を整理しては唱えてみる。


「 えっと……つまり、今回の試験であらゆる不正を可能とする為にダリットは当時の代表の暗殺を依頼し、結果その座を奪い取った。その目的は、息子をどんな手を使ってでも冠使役者(クラウンホルダー)にする事……そしてウィンカウン家は魔物を操る謎の存在と繋がりがある 」


「 ……あくまで、お前の推測を元にここまでで得られた情報を組み合わせての可能性、だがな 」


ここ数分で得られた情報は莫大だ。しかしそれは不明瞭な部分が多く、それにより様々な推測が次々と浮かんでは形を作っていき、もう頭が痛くなる。一つだけ、おそらく確かな事は……


「 となると、やっぱり俺が試験官に選ばれたのも意図的なものだった可能性が高いって事ですよね? 」


その愚痴にも近しい問いに中央局へ所属する二人は言葉を発することが出来ないようであった。とはいっても、責めるつもりはない。元々、()()()()()()()()()()()()()という予防策として昔より定められているのが『実技試験』なのだ。


やれやれと、ため息をこぼす。そして改めて最後に置かれた2枚目の写真を凝視した。


「 ……どうした?見知った顔だったか? 」


「 そう、ですね……知る顔なんですが、新鮮です 」


「 新鮮?……それはどういう事だ? 」


疑問を感じながらも、ネロさんも俺と同じく写真へ視線を向ける。しかし、その瞬間……そこに写るモノを目にした刹那、彼は目と口を目一杯に開き驚愕した。


そこにあったもの、それは……


満更でもないといったぎこちない笑顔で、可愛らしいうさみみカチューシャを付けてはミーラさんとツーショットを決めているネロさんの、おそらく仮装パーティーで記念に撮ったのであろう仲睦まじい写真であったのだ……ッッ!!?


へぇぇ、ネロさんこんな顔で笑うんだ、これには雷蔵様もニッコリ!!


「 ーーーーーッッ!!? 」


当然の如く中央都市最強であるその使役者(ホルダー)は赤面絶句、声にもならない息を吐きながら目にも止まらぬ速さで写真を懐にしまい直し、本来出すものだったのだろう中年の男が写ったものを改めて机に置く。


「 ………その……すまない。間違ったモノを出していた 」


「 ネロさんの、秘蔵コレクション 」


「 はっ倒すぞ貴様 」


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