052:護衛団の新米《ルーキー》
これは歴史の話となる。
今より約500年前。各種族がこの世界の神となる為に繰り広げた愚かな戦争が終わり、そこに生きる存在全てが『人』という型に押し留められた事で始まった『人神歴』
惨憺たる争いを終えたハズの時代はしかし、変わらず暴虐の歴史を紡ぐ事となり、人神歴300年に人類が団結し知恵を結集することにより魔冠號器が開発されるまで、多くの命が魔物によって喰い奪われた。
勿論、その間人も完全に無力であったと言うわけではなく『冒険者』達は魔力なくとも力を極め抵抗していたのだが、現在では白金級と定められている凶悪な個体などの猛攻にはどうすることもできず、絶対兵器が生産されるに至るまで『力のある者程早死にする』と言われていた時代さえあったのだ。
しかし、人類が魔を用いて闘う術をもう一度手にしてもなお、世界の主導権を握り返すには、魔冠號器とそれを扱う使役者、その数が圧倒的に足りなかった。
絶対兵器が世に生み出された人神歴300年から現代に近い458年に至るまで、白金級の魔獣が精製した禁足領土に手も足も出せない人類は戦況を拮抗状態に保つので精一杯であり、そんな中で最も多く人間を襲い喰らっていたとされる魔物。それこそが全世界共通に定められた人類に対する脅威を表す等級の歴において、金に指定された初の個体ーー黒狼『ブラクガルヴ』なのだ。
「 畜生ッ……出来る事なら、2度とその顔拝みたくなかったんだがな 」
他の追従を許さない程の凶暴性を内に宿し、鉄の刃でさえ簡単には切り裂けない程の筋密度で武装された全身。そこから発揮される瞬発力により生み出される迅速は、常人は当然として、例え腕に自信のある冒険者でさえもその尾を追うので精一杯と言われているーーそんな黒狼の脚に、防ぐ鞘ごと押し潰されそうになりながらも老人は愚痴をこぼす。
先程まで暗殺者たちを前に悠々としていたはずの武人もこの状況には焦りを浮かべており、降り掛かる圧倒的な重量に顔を渋め耐えるしかなかった。しかし、その思考は向けられた獣の殺意に対する恐怖で埋め尽くされている訳でもなく、なによりこのおかしな現状について困惑しているようであった。
( こいつら本当に黒狼か?いやそれよりも、今の今までどうやって生き長らえた?……この街の護衛団達が仕事サボってた、なんてないよな? )
老人はギリギリと押される鞘をそのままにしつつも首を動かし、暗殺者たちを襲おうとしている同個体の四体を注視する。この状況にこそ、それは違和感を感じていた。
まず今の時代において『ブラクガルヴ』という魔物は既に絶滅している、と噂されている。
それは50年前に起きた、今では伝説とされている一人の冠使役者によって、新歴の始まりから約460年もの間人類を滅ぼしかねない脅威と後世にまたぎ畏怖され続けていた禁足領土。『死煙の狼牙砦』が踏破された事に起因している。
そこを支配していた白金級の魔獣『女帝白狼』こそが、全てが雄で統一されている事で繁殖能力を持ち得ない黒狼を産み落とす唯一の魔物であり、それが討伐された今従僕であるハズの存在などいるはずがないのだ。
もし生き残りがいたのだとしても、その凶暴性がある限り発見は容易で、すぐさま討伐隊がそれを狩っていた事だろう。
加えて冒険者にとっての周知の事実として、黒狼には狩りに対する高い知能が備わっている。それはこの場にいる人間の中で、暗殺者や護衛団のルーキーよりも、最も身体的に劣っているように見える老人こそが強力な力を有していると一瞬で判断出来るであろう程のものであり、本来ならそれを狩れる今の千載一遇であるチャンスを獣たちが見逃すはずはないのだ。
卓越した身のこなしも、その全身が封じられてしまえば発揮する事は叶わない。
強者の不意をつくことに成功しその動きを拘束出来たこの現状を作り出したにも関わらず、狩りの本能に忠実なそれらが爪牙の矛先を向けない、あまつさえそれよりも弱いと理解している暗殺者たちの捕食こそを優先しているなどありえない事だと老人は困惑せざるを得なかった。
( この動きは明らかに野生のモノじゃない、これじゃあまるで何かから指示でも受けてるみたいな……ん?待てよ。となると、みーちゃんが忠告してた、最近話題の魔物を操る組織とかってのが関係してるのか?だとしたら…… )
「 ……成る程、口封じって訳か。全く、とんでもない依頼主に雇われたみたいだな、殺し屋 」
自らもこの状況に冷や汗を流しながらも、老人は暗殺者たちへ皮肉めいた言葉を向ける。しかし、それらは目の前で起こっている出来事に対して、誰の目から見ても分かる程に明らかな動揺を表していた。
黒狼に短剣の先を向けてこそいるが、そのリーダーとされていた者は「どうなってる?」などと焦燥の籠るうわ言を呟き続けては荒い呼吸で、老人の反撃で意識を失ったままであった仲間が、黒狼に貪り食われ、まだ亡骸となっていない全身から目を覆いたくなるほどの血飛沫を散らされ、その度に肉体が悲鳴を上げ続けているように激しく痙攣しているという悪夢のような惨たらしい様に恐怖一色を向けている。
そこに闘争心などはなく、そんな人間を黒狼はまるで狂人のように口角をあげ歪な笑みを連想させる獣の顔付きで見つめていた。
「 さて、と……どうしたもんかね 」
そんな老人の呟きを掻き消すようにあげられる悲鳴。それは意識こそ残るものの、重いダメージにより地に伏し動けなくなってしまった、なんの抵抗もできず襲われる悲惨な運命を押し付けられた者達の絶叫であった。
「 あぎゃぁァァ!!!痛い痛い痛いィィ!!やめてくれぇぇぇぇ!!!? 」
「 頭ッッ頭ぁぁぁぁ!!助けて、助けてぇぇぇぇ!!! 」
まさに今、地獄を体感させられている二人の暗殺者たちは、まるで丁寧に味わわれているかのように全身の至る箇所へ黒狼の牙を立てられては肉を引き裂かれ続けている。
本来の野生であるなら一思いに捕食されている所が、そこにいる魔物たちは生き餌の悲鳴を楽しんでいるかのようにその命を少しずつ削り噛んでいるのだ。
拷問を楽しむ狂人の如く、獣とは思えない、歓喜の笑い感じさせる息を吐きながらそれらは餌である人間から長れる血の池を嬉々として広める。
「 ッッ!! 」
「 動くなッ兄ちゃん!! 」
老人は尻餅をつき震えていたそれに闘志のようなものが湧いているのを察知し一喝を吠える。
「 守衛の兄ちゃん。いいか、絶対にそこから動くなよ?こいつらの狙いはあんたじゃない、けど今はの話だ。分かるな? 」
そこに込められた「お前では助けられない」という想いを嫌にでも感じとり、ルーキーは拳を悔しく握り締め歯を食いしばるしか出来なかった。自らの役割は、護衛団としての職務は人を救う、護る事だというのに、震えて自分可愛さに立ち止まってしまう本心に彼は情け無さから目に涙を滲ませる。
「 あぁ、あぁッ!、あぁぁぁッッ!!? 」
その間も餌とされているそれには、臓物を貪られては、噛みちぎられる腸の千切れる音に恐怖を感じるしかできず、追従し雪崩れ込む激痛たち。耐えられないその衝動によって溢れる涙は決して止まらず、ぐちゃぐちゃになった顔面で暗殺者であったそれは必死に手を伸ばし続ける。
弱々しく、震えながらも精一杯。自らを肯定してくれた信頼できる、頭と慕うその存在へ……しかし、その手が届くことは決してない。
「 ぐぶぉぉッッ………!!? 」
それが一つ目の餌が最後に吐いた息であった。
「 くそッッ!!?くそぉぉぉぉッッ!!!? 」
限界だった。例え恐怖にのまれていようと仲間に対する想いは変わらない。頭と言われたそれには変えられなかったのだ。故に暗殺者は叫ぶ。
心を覆う絶望を吹き飛ばすように、雄叫びをあげ短剣を手に駆ける。もし、それが真の強者であるならその一歩に意味はあったのだろう。
しかし、現状において一人を除いてそこにいる人間たちは無力だった。役不足と断定出来る程に力足らずであった。
「 ダメだ、頭ッッ!!? 」
リーダー格のそれが飛び出した瞬間、頬を殴る突風と共に背後から叫ぶ仲間の声。そこに続く「ぐちゃッ」という耳を塞ぎたくなる、顔を顰めたくなるような不快な肉が潰れ裂かれる醜音。
「 ……え? 」
途端に背に感じる、生温い液体のようなものがかかったかのような感触に思わずそれは足を止めてしまう。そして振り返る、自分と同じダメージがない為にまだ自由に動ける筈の仲間の姿を確認する為に……
「 ……そん、な 」
しかしそこにあったのは、先程までいなかったハズのグチャグチャと赤い液体を汚く撒き散らしながら何かを咀嚼している黒狼と、その傍で立つまるで廃棄された価値の無くなったマネキン。胸から上が無くなり人型を完全に保っていない肉の人形。
それが噴き上げては付着してくる血飛沫は、奮い起こしたハズの闘志を嘲け染めるようにその全身を赤く彩っていく。
「 あ、あぁ……あぁぁぁぁ!!! 」
恐怖、絶望、怒り……
もはやこの現実を前に冷静な判断など出来ず発狂するしかないそれは、せめてもの足掻きと、短剣を持つ手に力を込め駆けるが、その瞬間、離れていたはずの黒狼は突風を伴い、それの目では追うことすら叶わない高速をもって間合いを詰めてみせた。
「 ひぃぃッ!!!? 」
寸分の行動。悲鳴を上げながらもそれが咄嗟に背後へステップを踏めたのは、この場では不十分でありながらも、確かに力と経験をその身へ刻み込んでいた為であろう。
瞬きの間に襲いかかってきた本来腹を大きく抉り裂き、絶命を招いていたであろう黒狼の一撃。横薙ぎに払われたその脚による直撃を暗殺者はなんとか回避するが、しかしそれを完全な物にすることは出来なかった。
「 ぐぅぅッッ!!?あ、あぁぁ!!? 」
避けきれなかった爪先はそれが纏う黒の衣装を、その下にある白い肌ごと貫き抉り、裂き散った布切れにより顕となった腹部にはすぐさま赤の三線が描かれる。
深すぎる傷ではない、しかし決して浅くもないそこから溢れる血は瞬く間に装飾に新たな色を染みこませてゆく。
「 は…はは、やっ、ぱり、だ 」
そんな中不意に発せられる乾いた笑い。今なお貪り喰われ死を目前としている暗殺者は、破られた内臓から登ってくる多量の血飛沫を吐きながらも、かつて仲間達と笑い悩んでいた話題の答えが見えた事に僅かばかりの満足を得ていた。
三つの線で破れた、頭と言われたそれの衣服の奥に僅かに覗ける胸の膨らみ、それを目に餌は最期の笑いを溢す。
「 や、っぱり……女、だった。頭ぁ、い……ったでしょ?俺たち……そ、んなの……気に、しな 」
そこで「ぐふぁッ」と噴き出る赤が言葉を遮り、その命を闇に誘い、今生の別れでさえも強制的に終わらせてしまう。
「 嫌……嫌ぁぁぁぁ!!! 」
キョロキョロと視線を彷徨わせる。しかし、それの仲間はもういない。どこにもいない。
あるのは喰われる血肉の塊だけ。その到底受け入れられない事実に残されたそれは頭を抱えて叫び狂う。
保っていた心は壊れた。壊された。
女だからと、舐められなるわけにはいかないと、顔を隠し衣装で身体つきも変えて偽ってきた。中性的な声色という事もあり、それは十分に通じてきた。
あと必要だったのは心持ちだけだったが、それも問題なかった。
弱々しい部分などない、いつでも気丈に振る舞えると思い上がっていたそれは、突然にやってきた圧倒的な絶望に畏れ泣いた。
その様はもはや暗殺者などではなく、盗賊に襲われた村の生娘のようであり、威厳などありはしない。
「 ひぃぃ、嫌……いやッ 」
そんな新たな餌に黒狼はゆっくりと近づき、その恐怖に娘は腰が抜けたのか、ガックリと尻餅をついてしまう。そして全身を激しく震わせながらもどうにか距離を取ろうと後退りを続けるが、それを目に獣たちはまた狂人の笑いを思わせる息を吐いていた。
「 やめて、お願い……お願い 」
目から下を隠している黒の布は、とめどなく溢れる涙と汗でびちゃびちゃとなって顔に張り付いており、娘は届かないのが分かっていながらも、バラバラに砕けてしまった心のままに懇願する。
「助けて」と……そして、それを耳にした老人は「助けられない」という事実に顔を伏せる。
しかし……しかし、彼は違った。
「 ーーーぁぁぁあ!!!!? 」
それは到底雄叫びと言えるものではなかった。傷付いたままの喉に無理矢理力を込めて、そう彼は吠えたのだ。
護衛団に入団して直ぐに立てた自らの誓い。寸前に破ってしまったそれを今度こそは果たす為、それは精一杯に吠えた。
「 待て、兄ちゃんッッ!!? 」
瞬間、慌てて首を回し静止を叫ぶ老人。しかしそれとすれ違うは青年の影。
ルーキーと呼ばれている彼は、自らの恐怖を掻き消すように咆哮をあげながら一直線に走る。
数分前、命を狙って襲いかかってきたそれを護るために彼は走ったのだ。
「 あぁぁぁぁ!!! 」
そして、勢いのまま暗殺者に最も近い黒狼へ渾身の突進を向ける。しかし、力とは非情。
金級に定められているその獣は、まるで羽虫を払うかのように、半身をクルッと回し難なくルーキーの身体が当たるよりも先にカウンターの容量で鋼鉄の如き自らの肉体を放りぶつけてみせる。
「 ッッぅああ!!? 」
衝撃の瞬間「ゴキッ」という鈍い音が彼の全身に響き、同時に重い痛みが駆け巡る。それは戦闘経験などないルーキーが初めて体験する、骨が折れたのであろう激痛。更にはその状態で勢いよく吹き飛ばされては受け身も取れず地に叩きつけられ、追従する感覚に無意識に歯が折れんばかりに力一杯に食いしばってしまう。
襲い来る全てが涙を伴う激動であり、それは彼の心に恐怖を滾らせ無謀な勇姿を止めようと試みるが、そんな弱い心を護衛団の団員であるそれは求めなかった。
折れたのが何処の骨なのかは分からない。だが、彼は駆け巡り続ける痛みからか、それとも恐怖からなのか、全身をぶるぶると震わせながらも立ち上がり、護るべき人の前に立つ。
「 貴様……なにを 」
そんな自らを無様にも護ろうとする存在に、娘は困惑しか浮かばなかった。
この弱い団員は何をしているのか?
今のそれには、いや例え常時の時でさえも分からなかっただろう。
向けられる呟きを無視し、ルーキーは唯一の装備である腰へ下げていた、暴れた酔っ払いなどに対する最終手段としていた支給されていた木製の警棒を取り、構える。
「 兄ちゃん、逃げろッ!!あんたにゃ無理だ、死ぬぞ!!! 」
老人も無謀そのものである彼に叫びをあげるが、今のそれに逃走という選択肢はもはや存在しなかった。
そんな震える人間を獣たちは変わらず笑い吠える。そしてその一つがゆっくりと近付き、凶器である脚を勿体ぶるように掲げた。
「 無理だ、そんな警棒で耐えられる訳ない!!逃げろッッ!!? 」
ルーキーは全身に残された力を込め、ズッシリと構える。
しかし、背後で叫ぶ暗殺者の声は正しく、瞬間として振り下ろされた脚、その先にある凶爪は型削られただけの木の棒を容易に切り落とし、更に勢いはそこで終わらずルーキーの顔を左上から目下に及ぶまで無情にも切り裂いた。
まるでナイフで紙を切るかのように、スゥと軽々と走る爪の三線。それは震えながらも強い意思を宿していた眼が気に入らなかったとばかりに無惨に抉り壊し、それに伴う血飛沫を激しく天へと噴き上がらせる。
「 ッッッ!!!?あ、あぁぁぁぁ!!! 」
「 兄ちゃんッッ!!? 」
投擲小剣で肩を刺されるよりも、骨が折れるよりも衝撃的かつ、悍ましい感覚。痛み。
2度と見えなくなった光に対する後悔と恐怖。様々な衝撃、衝動、感情が渦を巻き頭を支配しようとするが……それでも彼は負けなかった。
「 ぐッッ!!?あぁぁぁぁ!!! 」
激痛に呻き片手で顔を傷を抑えながらも、がむしゃらに僅かに残った警棒の振り回す。すると、そんなボロボロの彼を目にまた笑う獣はわざと距離を取り、それを嘲った。
「 はぁ、はぁ、はぁ!! 」
涙と流れる血が混じり、その顔はとても見れた物ではない。しかし、残された目は……決して強き意思を捨ててはいなかった。
震え続ける全身で、使い物にならなくなった警棒を放り投げては両手を広げ、最大限に護る意思をしめす。
「 な、んで……なんで、そこまでするんだ!!なんなんだ、貴様は!! 」
そんな彼に娘は叫ぶ。もうなにがなんだかわからなかった。自らにここまでしてもらう価値などない。
そう思っていたからこそ、目の前の団員の思いに、意志の強さに困惑しかなかった。
対して彼は、もはや限界などとうの昔に超えていた。
赤さえも見えなくなってしまった左目。残された視界も止まらない涙によって掠れているだけなく、意志とは関係なしに時折り暗転してしまい、少しでも気を抜けば深い闇へ沈み込んでしまい、戻ることは出来ないだろう。
それを自分のことながら理解してしまっていたからこそ、彼は決意を口にする。自らをまだ滾らせ続けるために、喉の痛みが増しそこから血の味を感じながらも絞り出すように言葉を紡ぐ。
「 貴女が……助けを、求めたから 」
その一言は娘にとって予想外のモノであった。しかしそれこそが、たったそれだけの出来事が彼を動かしたのだ。
「 護衛団は、助けを求めて伸ばされた手を……決して、振り払ったり、しないッ!!! 」
これが偽善なのは分かっている。つい先程殺された暗殺者たちが伸ばしていた手を、彼は老人に止められたからと言って見捨ててしまった。その事実がある以上、今の行為は偽善としか言えない。
簡単に破ってしまった誓い。しかし、彼は思い直す。自らが憧れた人はこんな時どうしただろうか?
護衛団の団長。その人は数々の勇姿を市民に示し、その大きな背で懸命に尽くしてくれた。それは今も変わらない。
そんなあの人のようになりたいと願い歩み出した事を彼は思い出す。故にもう逃げない。逃げる訳にはいかない。
沈みかけた意識に喝を入れるように、叫ぶ。自らの想いを、決意をッッ
「 僕は、護衛団として……例え、この命尽きようと!!!助けてみせる、護ってみせる!!!それが、それが僕の誓い、なんだ!!! 」
そしてその叫びは終わりの合図となる。
お預けはここまでとばかりに一斉に新たな二つの餌へ飛びかかろうとする四つの獣。
しかし、その狂気が赤で天を染めるよりも先に、これまでの余裕のあるものとも違う、深く重みのある老人の声がそこにいた全てに響く。
「 よく言った、兄ちゃんの覚悟しかとみせてもらったぜ 」
そして全ての存在が感じる、時が止まったかのような謎の感覚。風は止まり、世界そのものが静止しているかのようなそんな中、老人の声だけが鮮明に響く。
「 抜刀 」
瞬間、閃光が世界を包み光が全てを支配した……ーーー




