第2章 第34話 綿あめみたいな雲をあの日掴んでみたかった。
月っていいですよね。朝が来たら沈めるから。わたしも沈みたいよ。でも朝が来たなら起き上がらなければならない。それが人間。じゃあやめちゃう?人間。
隣の男の子の言葉がすこしだけひっかかりつつも私、篠原紗季は井島先輩に少しづつ頼るようになっていった。
幼馴染の大輝よりも。
もちろん大輝のことが嫌いになったわけとかではないけど、みんなから慕われて部活も順調な大輝を無意識にどこか遠ざけるようになっていったのかもしれない。
恋愛感情とかはまだ私にはわからないけど、先輩の姿を気が付けば探していたし自分から声をかけることはなかったけど声をかけてくれたらうれしくてでもはずかしくてあんまり話せなかったけど。
「まだ関わってるの?あの先輩と」
学校に行くのが少しだけ楽しみになっていたある日、また隣の男の子からそんなことを言われた。
前は笑って流したけど今度はちょっとだけ言い返してみる。
「それがどうしましたか?」
「前も言ったけど泣きたくないならあの先輩と絡むのやめた方がいいよ」
「どうして?」
私が聞き返すと男の子は困ったように眉をひそめて視線を落とすと、
「それは言えない」
なんとも煮え切らない答え。
だから私も突っかかった。
「それはないんじゃない?さすがに気になるよ」
もうちょっと強く言おうと思ったけど、それは今までの篠原紗季を壊しそうだからやめておいた。
「じゃあさ、まず僕の名前知ってる?」
その男の子の急な質問に私は「へ?」と変な声が出た。
さすがにクラス同じでしかも横なんだから覚えてる。
三木……三木……三木なんだったけ。
「三木君でしょ?」
私はあたかも名前もわかっているかのように答えた。
「苗字はあってる。名前は?」
いじわる。
「えぇっと……」
口ごもってしもっていると、
「お姫様はしらないよね、僕のことなんか」
すこしだけ嘲笑を含んだような声。
なんかうざい。
といかさ……
「なに?お姫様って?」
私自身があんまり人に話しかけることができないからみんなからすこしだけ距離があるのはわかってたけどお姫様なんて呼ばれたことがない。
「え?知らないの?物静かで落ち着いた感じがお姫様って男子から言われてるよ。女の子からは知らないけど」
「そ。でさ、三木君の名前は?」
「意外とあっさりしてるんだね、篠原さんって」
「そう?」
まあ、あっさりしてるってよりしゃべるのが苦手なだけで冷静な感じにみられてるけど多分私本来はそんなにいい子ちゃんではない。
「うん。あ、僕の名前は三木良太。よろしく」
「三木良太君ね。よろしく」
名前を知るまでに少し時間がかかったけど私はもう一度本題に切り替える。
「で、先輩と仲良くしないほうがいいってどういうこと?」
「だからそれは言えないって」
「ねえ、なんで?」
三木君は視線を逸らして口ごもる。
「ねえ、なんでって聞いてるの」
「言っても信じてくれないだろうし、聞かせたくないから。でも本当にあの先輩はやめといたほうがいい」
「理由も言ってくれない人の忠告なんて逆に三木君は聞けるの?」
「それは……」
眼鏡の奥の三木君の視線はずっと私とは交差しない。
顔も見てくれない人とちゃんと私を見てくれる先輩、どっちが私が信じたいかなんて考えるまでもない。
でも三木君がなんの理由もなしに人の付き合いに口を出してくるような人間に見えない。
私も何をいっていいかわからないまま三木君の影がすこしだけ動いたとき、背中にドンと重い衝撃が乗った。
「どーしたんだ?紗季と三木が話してるなんて珍しいじゃん」
「大輝」
私の肩に添えられた大輝の手が離れると驚いた顔をしていた三木君がやっと口を開いた。
「獅子原君。どうしたの」
「ん?いや、紗季と三木が話してるのが見てな。最近あんまり紗季とも話せてなかったし」
そういいながら大輝はごめんよと顔の目の前で手を合わせる。
本当に大輝には悪気がないから嫌いにはなれない。
「そっか。獅子原君と篠原さんってたまにしゃべってるよね。幼馴染とか聞いたけどほんと?」
「おう、ほんとだぜ。昔からの付き合いだ」
「そっか」
どこかさみしそうな三木君の横顔がバックの青空によく映える。
あんまりちゃんと見たことなかったけどきれいな横顔の男の子。
もっといろんな女の子としゃべるのなら結構モテそうな顔立ちしてるんだ。
「なあ、紗季?」
ぼーっと三木君の横顔を見てると大輝の声がふってきた。
「なあ、紗季。井島先輩と仲良くしてるって本当?」
「え、うん。そうだけど」
大輝まで私の付き合いに口出してくんの?
最近話してくれさえしなかったのに。
「あの先輩はやめとけ」
いつもおちゃらけてる大輝の声とは思えない、大会前の集中した声とも違う、聞いたことのない幼馴染の声だった。
本気で心配してくれてる声。
「なんで二人にそんなこと言われなきゃいけないの」
私の口から放たれた言葉は大輝の優しさを無碍にするひどい言葉だった。
先がない優しさだとしても、その先輩の優しさに触れてしまったのだからその優しさをつかみたかった。
誰もが雲をつかんでみたいように。
ふふっ。全然違う前書きでごめんなさいね。ちょっと書きたくなったしこれから前書きか後書きはたまに書こうかな。
小説の中身は本気で書いています。
ぜひお読みください。




