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頼れるバディ

——そんなバカなやり取りはともかく。


 妙なことで白熱してしまったが、話すべきことはまだ残っている。凛もそう感じていたのか、先ほどの話を振り返ってくる。


「えっと、さっきの話だけどさ」


 学園への通学路を二人で歩きつつ、俺は凛の次の言葉を待つ。


「そのマオって子の話がもし本当だとしたらね……その、とりあえず良かったよね」


「……? 何が?」


「霊力? やキス云々の話は置いておくとしても、その話が本当だとすれば直ちゃんのご両親は息災ってことだよね。それは本当に——」


 そこで言葉を切った凛は顔を背け、ハンカチで目元を拭いている。凛、お前……。


「……ごめんね。あまり考えないようにはしてたんだけど、失踪してから半年以上ご両親の安否が確認できなかったから、『もしかしたら』って最悪の可能性が頭をよぎることもあって。直ちゃんはずっと信じて待ってたのに……わたしが弱気になってたらダメだよね」


「ダメなわけないだろ。というか俺だって何度も考えたさ。でもそれに囚われずに済んだのは間違いなくお前のおかげだ。凛はいつだって傍で支えてくれた。凛がいなければ、俺はすぐに潰れていただろう。だからそんな自分を卑下するようなことは……言うな」


「……うん、ありがと」


 礼を言うのはこちらの方だ。無事の可能性が少し浮かんだだけなのに、それで涙を流してくれるほど両親の身を案じてくれていたなんて……俺は良い幼馴染を持ったものだ。


「こちらこそありがとう。そんなにも両親を想ってくれていたなんて、知らなかったよ」


「凄く親切にしてくれたからね。まあ、ちょっと風変わりなところもあったけど……」


 それを言われると痛い。自分で言うのもなんだが、俺の両親は結構な変人であった。


 父さんは無類の海外旅行好きで頻繁に家を空けていたし、母さんもそれに喜んで付いて行っていた。

 そして家に帰ってくると父さんは怪しげなお土産を俺に押し付け、母さんは旅行先で出会った面白い外国人のマネをする。元劇団員の母さんはモノマネが上手で、父さんにはかなりウケていた。そんな二人を眺める俺も、自然と笑みを浮かべていて。


 ……いけない。両親のことを思い出すと、色々と込み上げてくるものがある。

 家族の楽しい思い出は横にのけ、先の話を続ける。


「それで話を戻すんだが……ぶっちゃけ、どう思う?」


「どう、とは?」


「直接的な証拠ではないが、霊力を見せたり両親の特徴を話してみせた以上、それなりに信憑性はあると思う。だけどそれを鵜呑みにしていいのかどうか。マオの言う通りに神楽さんとキスして霊力を回収すれば、本当に両親の居場所を教えてくれるんだろうか?」


「うーん、どうだろうね。そのマオって子が霊力の回収だけを目的としているのなら、ちゃんと教えてくれそうなものだけど……正直わからないよ」


「何か別の目的があるかもしれないってか?」


「わたしはその子じゃないからわからないよ。もしかしたら他に目的があるのかもしれない。けど直接直ちゃんの元に出向いて依頼してくるってことは、結構切羽詰まってたりするんじゃないかな? というかこの話、どこまでが嘘でどこまでが本当かなんて判断は付かないから、わたしは乗るだけ乗ってもいいんじゃないかなって思うよ」


 凛は少しだけ歩く速度を落とす。……そろそろ学園が見えてくる頃か。


「でもそれはわたし個人の考えだから、最終的な判断は直ちゃんに任せるよ。こんな言い方は無責任かもしれないけど、結局のところは『直ちゃんがどうしたいか』だと思うの」


「俺がどうしたいか、か」


「そ。その子を信用して神楽さんにアプローチをかけるのも、その子を信用せずに別の方法でご両親を捜索するのも、直ちゃんの自由だよ。わたしは直ちゃんの決めたことに従うから。もちろん、どんな選択をしたとしても協力は惜しまないから安心して」


 凛の考えを踏まえた上で俺は一考する。だが——出てきた答えは、一つしかない。


「俺は父さんと母さんを一刻も早く取り戻したい」


「うん」


「必死で捜索して何も手掛かりを得られなかったのに、突然現れた少女が『居場所を知っている』と言う。正直、胡散臭い話だとは思っている」


「……うん」


「だが、突然現れた両親の手掛かりをみすみす逃すようなマネはしたくない。もしかしたら、マオは別の目的のために俺を利用するつもりなのかもしれない。けど、さっきお前が言った通り、マオの考えや狙いを知る方法はないから、それを言っても仕方がない」


「そうだね」


「あいつが普通の人間じゃないのは霊力行使を目の前で見たから確実だ。希望的観測かもしれないが、普通じゃないマオだからこそ、謎の失踪を遂げた両親の手掛かりを持っている、と考えることもできる。実際、両親の特徴を述べてきたわけだしな。何かを知っている可能性は高いと思う。だから、凛——」


 俺は一呼吸置いてから、凛の目をしっかりと見据えて告げる。


「協力してくれるか?」


「もちろん。そんなこと訊くまでもないよ」


 幼馴染の力強い返答に、俺は頼もしさを覚えずにはいられない。


「ありがとう」


「お礼を言うのはご両親を見つけてからね」


「……そうだな。それで凛、これからの予定なんだが」


「うん、まずはどうしよっか?」


「まずは神楽さんと話してみようと思ってる。とにかく会話しないことには何も始まらない。昨日霊力行使の瞬間を目撃したから、とりあえず、それを問いかけていこうかなと」


「オッケー。じゃあわたしは傍でサポートに徹するね」


「頼んだ」


「うん、任せて。あ、もう学園着くよ」


 凛の言う通り学園が見えてきた。白鷺の生徒が続々と校内に入っていくのが見える。


「凛、ところで一つ訊きたいんだが」


「ん、なに?」


 俺は凛の経験に期待を寄せ、一縷の望みをかけて問いかける。


「キスってどういう風にするのが正解なんだ……?」


 辺りにチャイムの音が鳴り響く中、凛は気まずそうに苦笑いを浮かべていた。


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