来訪
……途端に家が静かになる。俺は反転して寂しげな廊下を抜け、リビングへ入って中を見渡すも——そこには当然、両親の姿はない。
「ったく、どこで何をしてるのやら……」
一人強がってみせる俺だったが、それは寂しさを誤魔化すための精一杯の虚勢だった。
「早く帰ってこいよな」
一人呟いて、水を飲むためコップを手に取ろうとしたところ。
——突然インターホンが鳴り響く。
静寂を切り裂くような高い音に、ビクッと身体が反応してしまう。
「誰だ? こんな時間に……」
凛は合鍵を持っているため、基本的にインターホンを鳴らすことはない。不審に思いつつ玄関モニターの前に立ち、来客の姿を確認する。
「うわ……」
思わず驚いてしまう。佇んでいたのは一人の少女だが、その見た目が怪しすぎたのだ。
艶やかな銀髪、左右で色彩の異なる瞳、真っ黒なドレスといった恰好。何かのコスプレか、それか中二病を患っているのか。俺もこういった「ゴシック・ファッション」を良いと思っていた時期がある。この子は現在進行形でそうなのかもしれない。
無視するのが最善、と判断した俺は自室に引き返して椅子にドカッと座る。だが、もう一度インターホンが鳴った。
「(無視だ無視、あんなのと関わってられるか)」
居留守を決め込む俺はスマホをテキトーに弄るも、インターホンは一向に鳴りやまない。
「ああ、もう!」
苛立ちがピークに達した俺は勢いよく部屋から飛び出し、すぐさま玄関まで辿り着く。
やや強めに玄関ドアを開け放ち、怒鳴り散らしてやろうとした——が。
「キスをしなさい」
俺が言葉を発すよりも先に、少女は唐突に告げてきたのだった。