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ワンチャンの女神  作者: 黒森 冬炎
恋は無敵(全4話)
7/7

恋は無敵(4)

クラウディア父母の物語、4話完結まとめて投稿します。



 リチャードにくっついて、ベアトリスとアンバーも謁見の間に通される。必要な申し込み手続きをしてから、程なく呼ばれたので、常識人ベアトリスは驚いた。

 アンバー姫絡みの案件は、下手すると戦争の原因を作りかねない為、最優先なのだ。そんな事情は、一部の王族しか知らない。


「何、魔王討伐。しかも放置していただと?何がメンドクセエだ、エドワードめ!」


 国王が吠える。


「仕方ない。許可証作るしかあるまい。ちょっと控え室で待っておれ」


 国王は疲れた顔で言い捨てると、王様用出口から立ち去った。3人は案内係に連れられて、控えの間に入る。ここでお茶やお菓子などを楽しみながら、待つことしばし。


 勅令配達員がやって来た。懐から出した巻き紙を無言で開くと、朗々と読み上げる。


「汝、エドワード・スカイハート。裏山の魔王を見過ごす事、誠に遺憾である。直ちに討伐いたせ」


 読み終わると、配達員は再び丁寧に丸めた勅令書類を、リチャード王子に差し出した。リチャードは、無言で受けとる。アンバー姫とベアトリスも黙ってその様子を見ている。



 配達員が出ていくと、案内人に促され、3人は扉へと向かう。扉が開く直前に、急に廊下が騒がしくなった。


「きゃー!」

「ぎゃー!」

「うわぁ!」

「げえー!」


 扉を開くと、目を覆うような光景が広がっていた。逃げ惑う人々と廊下に充満した濃い魔族の瘴気に、まさしく阿鼻叫喚である。


「一体何が……」


 リチャード騎士王子と、魔法拳の門下生ベアトリスが、アンバー姫を背中にかばって身構える。

 瘴気のカーテンに目を凝らせば、大きな人影が揺らめいている。


「何者」


 リチャードが鋭い声を出す。


「リチャード兄様、ちょっとどいてくださるっ?」


 背中のアンバーが、甲高い声と共に赤毛の大男を押し退けて飛び出す。


「あっ!待て」

「アンバー姫!」


 2人の制止も聞かずに、アンバーは人影へと突進した。


「エド兄様っ!!」

「おう!」


 少し離れると前も見えない濃い瘴気の中から現れたのは、エドワード・スカイハートその人であった。右手に巨大な角を掴んでいる。複雑にねじくれたその角から、人々を恐怖に陥れる禍々しい瘴気が立ち上っていた。


「魔王の角だぜ。引っこ抜いてやったら、大人しくなったよ」

「あ、そう」


 得意そうなエドワードに、ベアトリスが真っ先に反応した。エドワードの側は浄化作用があるのか、抱きついているアンバーは涼しい顔だ。


「お前ら、取りあえず離れろ。勅令きたぞ。謁見の申し込みは済んでんのか?」


 リチャードは、のろのろと口を開く。対するエドワードは、元気一杯だ。


「おう!係員にすぐ行け言われたから行くとこだ」

「そんなもん剥き出しで持ち歩くなよ」

「浄化しながらだから大丈夫だって」

「現に廊下がパニックじゃねえかよ!」


 押し問答しながら、4人は謁見の間に到着した。中に入ると、国王は既に居た。4人を目にするなり、国王は大音声で宣った。



「きけっ!エドワード・スカイハート!魔王討伐を成功させるとは、そなたの功績は素晴らしい!よってアンバー姫と結婚後は公爵位と魔王の山周辺地域の領有権を与える!以上!下がってよし!」


 王様は、それだけがなるとまた、王様用出口から出ていってしまった。残された4人も仕方なく謁見の間を後にする。入口付近に居た献上品を受けとる係に魔王の角を渡すと、エドワードは何事も無かったかのような様子で廊下を城門へと歩き出す。


 献上品係もたいした職業意識の持ち主であり、顔色ひとつ変えずに魔王の角を抱えて立ち去った。魔王の瘴気は、もうすっかり無くなっていた。最早、只の気持ち悪い形の巨大な角である。


「お前さあ、せめて浄化してから持ってこいよ」

「こう言うのは早い方がいいだろ」

「えー」


 ベアトリスには、エドワードが何を言っているのかまるで理解が出来なかった。


「うれしいっ!エド兄様」

「なあ、もう結婚することに決まったんだからさ。兄様ってのやめようぜ」

「じゃあ、そうねえ」


 アンバーは、小首を傾げて少し悩んでから、にっこり笑ってこう言った。


「エドワード!大人っぽくない?正式名で呼ぶの」

「その発想が子供っぽいぜ?」

「酷い、酷いわよ、エドワード!」

「お前、すんげえレディになんだろ?そう言うの卒業しな」

「何よう!跪かせてやるんだからっ」

「ははっ!楽しみに待ってるぜ」



 一方、じゃれあうアンバーとエドワードの後ろに着いて来る2人は、手を繋いでのんびりお喋りをしていた。


「なあ、トリ。男の誠意って何だろうな」

「そうねえ。そもそも誠意を見せるべきなのは、アンバー姫じゃないのかしら?」

「だよなあ」

「押しきられて絆されただけのように見えたけど」

「なあ」

「なんで、若師匠が押せ押せで王宮に乗り込んだみたいになってんのよ」

「あいつ何考えてんだろうな」


 ちらり、と視線を交わし、2人は会話を続ける。


「それにしたって、結納に魔王の角を持ってくるとか」

「浄化しながら」

「ねえ」

「喜ぶアンバーもわかんねえよ」

「解らないわねえ」


 またちらり、と視線が交わる。2人とも大柄なので、無理に首を動かさなくてもお互いが相手の視界に入っているのだ。


「ねえ」

「ん?なに?トリ」

「大人しくなったって、何?」

「ああ」


 騎士王子は、考えたくない為にわざと聞き流していた単語に疲れた顔を見せた。


「何だろうな」

「討伐したとは言ってなかったわよね」

「親父は言ってた」


 リチャードは、主語をすり替える。ベアトリスが胡乱な顔をする。


「そうだけど」

「じゃあ、それでいいんじゃね」

「それに、王様のお言葉、なんか既に婚約してるっぽい言い方だった」

「してねえよな」

「若師匠も、急に嫁とか言い出してた」

「なあ」

「あの2人、なんなの」

「色々すっ飛ばして迷惑だよな」


 ちらり。視線を交わす。


「やっぱり魔王気になる……」

「気にすんな……」


 2人の語尾が力無く消える。もうすぐ城門だ。


「じゃ、また」

「送るぜ」

「平気よ。まだ明るいし」

「なんだよ。まだ離れたくねえよ」

「リッキー」


 ちらり。視線を交わすと、2人は手を繋いだまま、徒歩で城門を出る。門衛も慣れたもので、王子とご令嬢の護衛が、慌てて引いてきた馬を預けて行くのにもスマートに対応する。


 先を歩いていた姫君と少年騎士とは、いつの間にか馬上の人となって走り去った。此方の護衛は、慌てて騎乗して追いかける。


「あいつら、こんな時間からどこ行くんだよ」

「気にしない方がいいわ」

「そうだな」



 諦めきった王子に見送られ、一頭の大きな黒い馬に相乗りした姫君と騎士は、愉快そうに言葉を交わす。


「魔王、角は何本あったの?」

「五本あったぜ」

「全部抜いた?」


 アンバー姫は、息を弾ませて訊く。


「いや、1本抜いただけで降参したぜ」

「なーんだ」


 姫は、がっかりと声を落とす。


「角、欲しかった?」

「うん」

「もう1本取って来るかあ」

「本当に?」

「それとも、自分で取るか?」

「出来るかしら?」

「魔法拳教えてやるよ」

「えっ、いいの?前はダメだって」

「嫁なら別だろ。むしろ出来ねえと困る」

「キャー楽しみっ!」


 小柄な姫の薔薇色に染まる頬を愛しそうに見つめて、エドワードがアンバーに顔を近付ける。



「でも、すげえレディにも、ちゃんとなれよ?」

「勿論ですわ。女公爵と公爵の夫婦ですもの?でも、スカイハート公爵2人になっちゃうわね?変なの」

「んー?そうだな。今度親父さんに聞いてみるか」


 つい数時間前まで身分の差を気にしていたとは思えない、ぞんざいな口のきき方である。王様の事も、親友の親父さんという認識だ。



 後ろに取り残された親友とその恋人も、その事に気づいて呆れている。


「あいつさあ、なんで突然身分身分言い出したんだろうな」

「そうねえ。やっぱり、恋は人を変えるのかしら?」


 ベアトリスは、夢見る乙女の瞳になった。


「恋は無敵よねえ」


 しかし、彼女の恋人は脳筋だった。


「魔王の角も引っこ抜くしな」


 そう言う事を言っているわけでは無かったが、ベアトリスは話を合わせることにした。


「そうね。若師匠のことは噂でしか知らなかったけど、普段のエドワード若師匠なら、そんなのメンドクセエ言ってやんないわよね」

「実際放置してたしな」

「街中の手下どもを適当に蹴散らしてるのは噂になってた」

「あ、それ、騎士団の仕事だから」

「仕事は真面目にやんのね」

「まあな。信頼されてるぜ」

「ビール飲むのと魔王の角を引っこ抜くのと同列だけどね」

「ああ、まあ、うん」


 暮れ始めた7月の空が、それぞれの恋人たちに黄金の光を投げ掛ける。赤も茶色も金髪も、みな幸せそうに輝いて、涼しい夕の風に揺れていた。


追加エピソード『恋は無敵』これにて完結。

お読み下さりありがとうございました。


次は、老衰以外で死なない呪いに関するエピソードを準備中。

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