恋は無敵(4)
クラウディア父母の物語、4話完結まとめて投稿します。
リチャードにくっついて、ベアトリスとアンバーも謁見の間に通される。必要な申し込み手続きをしてから、程なく呼ばれたので、常識人ベアトリスは驚いた。
アンバー姫絡みの案件は、下手すると戦争の原因を作りかねない為、最優先なのだ。そんな事情は、一部の王族しか知らない。
「何、魔王討伐。しかも放置していただと?何がメンドクセエだ、エドワードめ!」
国王が吠える。
「仕方ない。許可証作るしかあるまい。ちょっと控え室で待っておれ」
国王は疲れた顔で言い捨てると、王様用出口から立ち去った。3人は案内係に連れられて、控えの間に入る。ここでお茶やお菓子などを楽しみながら、待つことしばし。
勅令配達員がやって来た。懐から出した巻き紙を無言で開くと、朗々と読み上げる。
「汝、エドワード・スカイハート。裏山の魔王を見過ごす事、誠に遺憾である。直ちに討伐いたせ」
読み終わると、配達員は再び丁寧に丸めた勅令書類を、リチャード王子に差し出した。リチャードは、無言で受けとる。アンバー姫とベアトリスも黙ってその様子を見ている。
配達員が出ていくと、案内人に促され、3人は扉へと向かう。扉が開く直前に、急に廊下が騒がしくなった。
「きゃー!」
「ぎゃー!」
「うわぁ!」
「げえー!」
扉を開くと、目を覆うような光景が広がっていた。逃げ惑う人々と廊下に充満した濃い魔族の瘴気に、まさしく阿鼻叫喚である。
「一体何が……」
リチャード騎士王子と、魔法拳の門下生ベアトリスが、アンバー姫を背中にかばって身構える。
瘴気のカーテンに目を凝らせば、大きな人影が揺らめいている。
「何者」
リチャードが鋭い声を出す。
「リチャード兄様、ちょっとどいてくださるっ?」
背中のアンバーが、甲高い声と共に赤毛の大男を押し退けて飛び出す。
「あっ!待て」
「アンバー姫!」
2人の制止も聞かずに、アンバーは人影へと突進した。
「エド兄様っ!!」
「おう!」
少し離れると前も見えない濃い瘴気の中から現れたのは、エドワード・スカイハートその人であった。右手に巨大な角を掴んでいる。複雑にねじくれたその角から、人々を恐怖に陥れる禍々しい瘴気が立ち上っていた。
「魔王の角だぜ。引っこ抜いてやったら、大人しくなったよ」
「あ、そう」
得意そうなエドワードに、ベアトリスが真っ先に反応した。エドワードの側は浄化作用があるのか、抱きついているアンバーは涼しい顔だ。
「お前ら、取りあえず離れろ。勅令きたぞ。謁見の申し込みは済んでんのか?」
リチャードは、のろのろと口を開く。対するエドワードは、元気一杯だ。
「おう!係員にすぐ行け言われたから行くとこだ」
「そんなもん剥き出しで持ち歩くなよ」
「浄化しながらだから大丈夫だって」
「現に廊下がパニックじゃねえかよ!」
押し問答しながら、4人は謁見の間に到着した。中に入ると、国王は既に居た。4人を目にするなり、国王は大音声で宣った。
「きけっ!エドワード・スカイハート!魔王討伐を成功させるとは、そなたの功績は素晴らしい!よってアンバー姫と結婚後は公爵位と魔王の山周辺地域の領有権を与える!以上!下がってよし!」
王様は、それだけがなるとまた、王様用出口から出ていってしまった。残された4人も仕方なく謁見の間を後にする。入口付近に居た献上品を受けとる係に魔王の角を渡すと、エドワードは何事も無かったかのような様子で廊下を城門へと歩き出す。
献上品係もたいした職業意識の持ち主であり、顔色ひとつ変えずに魔王の角を抱えて立ち去った。魔王の瘴気は、もうすっかり無くなっていた。最早、只の気持ち悪い形の巨大な角である。
「お前さあ、せめて浄化してから持ってこいよ」
「こう言うのは早い方がいいだろ」
「えー」
ベアトリスには、エドワードが何を言っているのかまるで理解が出来なかった。
「うれしいっ!エド兄様」
「なあ、もう結婚することに決まったんだからさ。兄様ってのやめようぜ」
「じゃあ、そうねえ」
アンバーは、小首を傾げて少し悩んでから、にっこり笑ってこう言った。
「エドワード!大人っぽくない?正式名で呼ぶの」
「その発想が子供っぽいぜ?」
「酷い、酷いわよ、エドワード!」
「お前、すんげえレディになんだろ?そう言うの卒業しな」
「何よう!跪かせてやるんだからっ」
「ははっ!楽しみに待ってるぜ」
一方、じゃれあうアンバーとエドワードの後ろに着いて来る2人は、手を繋いでのんびりお喋りをしていた。
「なあ、トリ。男の誠意って何だろうな」
「そうねえ。そもそも誠意を見せるべきなのは、アンバー姫じゃないのかしら?」
「だよなあ」
「押しきられて絆されただけのように見えたけど」
「なあ」
「なんで、若師匠が押せ押せで王宮に乗り込んだみたいになってんのよ」
「あいつ何考えてんだろうな」
ちらり、と視線を交わし、2人は会話を続ける。
「それにしたって、結納に魔王の角を持ってくるとか」
「浄化しながら」
「ねえ」
「喜ぶアンバーもわかんねえよ」
「解らないわねえ」
またちらり、と視線が交わる。2人とも大柄なので、無理に首を動かさなくてもお互いが相手の視界に入っているのだ。
「ねえ」
「ん?なに?トリ」
「大人しくなったって、何?」
「ああ」
騎士王子は、考えたくない為にわざと聞き流していた単語に疲れた顔を見せた。
「何だろうな」
「討伐したとは言ってなかったわよね」
「親父は言ってた」
リチャードは、主語をすり替える。ベアトリスが胡乱な顔をする。
「そうだけど」
「じゃあ、それでいいんじゃね」
「それに、王様のお言葉、なんか既に婚約してるっぽい言い方だった」
「してねえよな」
「若師匠も、急に嫁とか言い出してた」
「なあ」
「あの2人、なんなの」
「色々すっ飛ばして迷惑だよな」
ちらり。視線を交わす。
「やっぱり魔王気になる……」
「気にすんな……」
2人の語尾が力無く消える。もうすぐ城門だ。
「じゃ、また」
「送るぜ」
「平気よ。まだ明るいし」
「なんだよ。まだ離れたくねえよ」
「リッキー」
ちらり。視線を交わすと、2人は手を繋いだまま、徒歩で城門を出る。門衛も慣れたもので、王子とご令嬢の護衛が、慌てて引いてきた馬を預けて行くのにもスマートに対応する。
先を歩いていた姫君と少年騎士とは、いつの間にか馬上の人となって走り去った。此方の護衛は、慌てて騎乗して追いかける。
「あいつら、こんな時間からどこ行くんだよ」
「気にしない方がいいわ」
「そうだな」
諦めきった王子に見送られ、一頭の大きな黒い馬に相乗りした姫君と騎士は、愉快そうに言葉を交わす。
「魔王、角は何本あったの?」
「五本あったぜ」
「全部抜いた?」
アンバー姫は、息を弾ませて訊く。
「いや、1本抜いただけで降参したぜ」
「なーんだ」
姫は、がっかりと声を落とす。
「角、欲しかった?」
「うん」
「もう1本取って来るかあ」
「本当に?」
「それとも、自分で取るか?」
「出来るかしら?」
「魔法拳教えてやるよ」
「えっ、いいの?前はダメだって」
「嫁なら別だろ。むしろ出来ねえと困る」
「キャー楽しみっ!」
小柄な姫の薔薇色に染まる頬を愛しそうに見つめて、エドワードがアンバーに顔を近付ける。
「でも、すげえレディにも、ちゃんとなれよ?」
「勿論ですわ。女公爵と公爵の夫婦ですもの?でも、スカイハート公爵2人になっちゃうわね?変なの」
「んー?そうだな。今度親父さんに聞いてみるか」
つい数時間前まで身分の差を気にしていたとは思えない、ぞんざいな口のきき方である。王様の事も、親友の親父さんという認識だ。
後ろに取り残された親友とその恋人も、その事に気づいて呆れている。
「あいつさあ、なんで突然身分身分言い出したんだろうな」
「そうねえ。やっぱり、恋は人を変えるのかしら?」
ベアトリスは、夢見る乙女の瞳になった。
「恋は無敵よねえ」
しかし、彼女の恋人は脳筋だった。
「魔王の角も引っこ抜くしな」
そう言う事を言っているわけでは無かったが、ベアトリスは話を合わせることにした。
「そうね。若師匠のことは噂でしか知らなかったけど、普段のエドワード若師匠なら、そんなのメンドクセエ言ってやんないわよね」
「実際放置してたしな」
「街中の手下どもを適当に蹴散らしてるのは噂になってた」
「あ、それ、騎士団の仕事だから」
「仕事は真面目にやんのね」
「まあな。信頼されてるぜ」
「ビール飲むのと魔王の角を引っこ抜くのと同列だけどね」
「ああ、まあ、うん」
暮れ始めた7月の空が、それぞれの恋人たちに黄金の光を投げ掛ける。赤も茶色も金髪も、みな幸せそうに輝いて、涼しい夕の風に揺れていた。
追加エピソード『恋は無敵』これにて完結。
お読み下さりありがとうございました。
次は、老衰以外で死なない呪いに関するエピソードを準備中。




