表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンチャンの女神  作者: 黒森 冬炎
恋は無敵(全4話)
5/7

恋は無敵(2)

クラウディア父母の物語、4話完結まとめて投稿します。



「そういや、お前ずっと会ってねえか」

「当たりめえだろ。姫様だからな」

「俺だって王子だぜ」

「お前は、そりゃ、騎士団だし?同期だし?それに、お前、親友だろ?」

「アンバーだって幼馴染みだぜ?」

「子供じゃねえからな」

「子供だぜ」

「そろそろ嫁入りだろ?」


そこで、ベアトリスが口を挟む。


「あ、護身術は、お嫁入り準備の一環でしょうか?」

「いや、あいつ、見合い相手に悪戯仕掛けるから、まだ婚約者もいねえんだよ」

「い、悪戯ぁ?」


エドワードが呆れる。


「澄ました顔して、相手の顔めがけてバッタ放ったり、足元に魔法で大量の猫を呼び出したりさ」

「はぁ?あいつ、まだそんな事してんのかよ?」

「グレードアップしてるよ」

「ひでぇな」

「だろ」

「護身術より、マナーが先じゃねえの」

「いやあ、有り余る体力を活かした方がいいだろ」

「そんなもんかね」

「そう思うぜ」



「それで、いつお伺いしましょうか」


 ベアトリスが、アンバー姫の護身術教師を引き受けてくれることになった。


「正式な依頼書作るから、ちょっと待っててくれ」

「承知致しました」


 リチャード王子は上機嫌である。


「あと、堅っ苦しい口調無しな。俺の事はリッキーでいい。みんなそう呼ぶ」

「そんな、恐れ多い」

「あんた、俺達と同じくらいの歳だろ?俺とエド、16なんだけど」

「あ、はい。私も16です」

「だから、敬語やめなって」

「でも」


 しばらくもじもじ遠慮が続く。


「あんた、何て呼ばれてんだ?」

「親しい人は、トリと」

「OKトリ。俺はリッキーな」


 強引なリチャードに、困ったように笑うベアトリス。嬉しそうなリチャードが、なおも繰り返す。


「な?リッキーって呼べよ」

「仕方ないわねえ」

「はい、じゃ、言ってみ?リッキー」


 ベアトリスはため息を1つ吐くと、観念した。


「よろしく、リッキー」

「ああ、トリ!」


 リチャードの笑顔が眩しい。ベアトリスもつられて本物の笑顔になった。



 後日、ベアトリスの師匠筋と言うことから、エドワードも初日に付き合うことになった。王族用の武術場に案内しながら、リチャードが口を開く。


「魔法拳の適性があるか見てくれるか?」

「そうだなあ」


 エドワードは、思案顔だ。魔法拳は、秘伝拳法だ。おいそれと弟子を増やすわけにはいかない。


「先ずは宗主に聞かねえとな」

「そうよ。いくら若師匠でも、勝手に適性見られないわよ」


 ベアトリスがバカにしたようにリチャードを見る。


「何だよトリ、そんな言い方すんなよな」

「じゃあ何て言えばいいのよ」


 リチャードがヘラヘラ笑い、ベアトリスもつられて笑う。エドワードは、いたたまれない気持ちで青空を見上げた。雲は白く流れて行く。7月の風のなか、カラスが黒い体を光らせて、カアカア鳴きながら飛んで行く。



 見事な夏バラの庭園を抜け、その先にある小宮の回廊をぐるりと回る。この建物はバラの庭園とナツメの樹がある中庭を繋ぐアーチを持つ。アーチの途中には衛兵が生真面目に立っている。そこには、鉄の鋲が打たれた頑丈な扉があった。


 アーチを潜って中庭に面した回廊を行く。回廊の角を1度だけ曲がり、中程でリチャードが小さな扉の錠を開ける。広々とした石造りの部屋には、武器や防具が整然と並んでいる。そこを通り抜けると、裏庭に出た。王族用の武術場である。灰色の石が積み上がった殺風景な壁際に儲けられた休憩スペースに、華奢な赤毛の女性が座っていた。


 リチャードどそっくりな赤い巻き毛をきっちりと束ねたその少女は、冬の黄昏を映すかのような琥珀色の瞳を煌めかせて立ち上がる。小柄な少女は、3人が近づくのを待ちきれず、軽快な足音を立てて駆け寄ってきた。



「エド兄様っ!」


 少女は赤毛を背中で弾ませて、エドワードの逞しい胴に抱きついてきた。


「あっ、こら、アンバー!はしたない」


 リチャードが慌てて意見する。エドワードは驚いて、密着してくる少女を見下ろす。


「えっアンバーか?お前、ちっとは落ち着け」

「何よう。騎士団忙しいからって、ちっとも来て下さらないじゃないの!」

「バカか。身分が違い過ぎんだよ。そうそう遊びになんか来られっかよ」

「リッキー兄上とは毎日お会いでしょ。私のこと、2年も放ったらかして!」


 アンバー姫はむくれる。


「リッキーとは同僚だっての」



 納得がいかない顔をしながらも、アンバーは話題を変える。


「ねえ、お土産は?」


 エドワードは、街で人気のお菓子を、ベアトリスの門下生の妹情報で買ってきていた。


「ほらよ」

「何これ?」


 可愛らしい小さな茶色の包みを、アンバーは鼻に皺を寄せて眺める。受け取ろうとはしない。


「街で14,5歳のお嬢ちゃん達に流行ってるんだと」

「何それっ誰に聞いたのよ」


 アンバーが怒る。エドワードは困惑した。


「え、何だよ?」

「トリの門下生の妹だよ」


 王子の助け船に、アンバーは却って怒りを増した。


「どんなひとよ」


 アンバーは小柄な体を延び上がらせて、エドワードをキッと睨み付けた。少し上気したその顔に、エドワードは戸惑いながら訊いてみる。


「何、お前、焼き餅?」


 可愛らしく拗ねる妹分に、エドワードは満更でもない顔を見せた。



「浮気は許さないんだからっ」

「えっ、浮気?何言ってんの?お前」


 プンスカ怒るアンバーに、戸惑うエドワードが眼を丸くする。


「ちょっと待って」


 エドワードのキョトンとした表情を見て、青ざめるアンバー。唐突に現実を見せられたアンバーは、絶望したように呟く。


「好きなの、わたくしだけ?」


 エドワードは更に驚いた。2年振りの姫君は、娘らしく丸みを帯び始めている。気の強そうな尖った鼻を泣き出しそうにひくつかせる様子は、どう見ても失恋した乙女である。


「好きって、そう言う?」


 思いがけないアンバーの様子に、急に妹分を愛しく感じたエドワードは、労るようにアンバーを見る。自然と手を伸ばし頭を撫でると、アンバーが嬉しそうに眼を細めた。そのまま、互いに優しい視線を絡ませて見詰め合う2人。



「こら、後にしろ」

「護身術始めましょうか~」


 様子を見守っていたリチャード王子とベアトリスの声かけにより、2人ははっと身を離した。


「あたし、お菓子よりも街でしか手に入らないスパイスジャーキーがいいな!次は買ってきてね?」


 アンバーは、小さな茶色の箱を漸く受け取り、元気よくソプラノを響かせる。


「次?次かあ」


 エドワードは苦笑いをして、壁際に向かう。


「身分が違い過ぎんだろ」


 突然芽生えた暖かな気持ちを振り払うように呟き、エドワードは渋面を作る。



 それから一月ほどしたある日、リチャードとベアトリスに呼び出されたエドワードは、『虹色鹿角亭』に居た。


「アンバーが、お前はいつ来るのかって煩くてさ」

「今日もご機嫌斜めで大変だったのよ」

「えー、俺関係ねえ」

「お前が原因だろ」

「何でだよ。思春期女子の扱いなんか知らねえ」


 エドワードは、ブスッとしている。何時もの陽気さが欠片もない。


「エドらしくねえな」

「何だよ、俺らしさって」


 リチャード王子がイライラし始める。こちらもいつもの爽やかさが無い。2人がギスギスするのを見かねて、ベアトリスが話を進めた。


「今日は、アンバーと話してみたのよ。リッキー抜きで」

「ふうん」

「エドワードの為に、婚約回避しているのよ、あの姫君は」

「はんっ」


 エドワードが殊更苦い顔を見せる。


「身分が」

「うるせーよ!」


 リチャードがいきなり椅子を蹴って立ち上がる。


「ウジウジしやがって!」


 騎士王子は、テーブルを飛び越えて親友の胸ぐらを掴む。


「こらっ!喧嘩なら外でやんなっ!」


『虹色鹿角亭』のオバサンに怒鳴られて、2人は一旦離れる。そして、殆んど同じ動きをした。

 小粋な紺の騎士団新人服のズボンについているポケットに手を突っ込むと、2人は同時にテーブルへとお代を投げた。


お読み下さりありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ