ブラック企業と異世界転生は切っても切り離せない
「佐々木!! この資料今日中に終わらせておけよ!!」
とある会社の一室に、中年男性の怒号が響き渡る。
「はっはい!!」
佐々木と呼ばれた若い男は、反射的に勢いの良い返事をした。
(はぁ……また残業か)
働き方改革という言葉も高橋課長は気にする様子はない。
なので佐々木も気にしない。一度痛い目を見た方が少しはまともな会社になるかもと思っていた。
そんな、ある日の帰り道、佐々木が暗い夜道を、歩いていると1人の老婆が露店を出していた。
(こんな夜中に露店かよ……)
佐々木は、気味が悪く思い、すぐにこの場を立ち去ろうとした。
しかし、老婆の前を横切ろうとした瞬間、声を掛けられてしまう。
「異世界転生ってご存じ?」
佐々木はアニメに詳しくないが、帰宅してテレビを付けると深夜アニメが目に入る事も多かった。
なので、異世界転生という言葉には覚えがあった。
「はい?」
立ち止まる気など、全く無かったが、うっかり足を止めてしまう。
老婆の売っている商品は『転生トラック』というパッケージに入ったミニカーだった。
(100円か……)
この場をすぐに立ち去りたかった佐々木は、このミニカーを買ってしまう。
「ただのトラックじゃん」
ミニカーは商品名こそ変わっているが、見た目は一般的なトラックだった。
「まぁ、いっか早く寝よう……」
佐々木は、ミニカーを机でガラガラ走らせた後眠りにつく。
翌日、佐々木の通勤中の事だった。
横断歩道を渡ろうとしていた佐々木の前を1台のトラックが横切った。
(昨日転生トラックなんて買ったけど、実際ある訳ないよな?)
トラックは、違反1つ無く佐々木の前を横切る。
いつもと変りなく出社したが、社内は妙に慌ただしかった。
「どうかしたんですか?」
佐々木は女性社員に声をかける。
「あっ佐々木さん。高橋課長が……朝トラックに轢かれて亡くなったそうです」
「えっ?」
その頃、高橋は……
「何だ? ここはどこなんだ?」
見慣れないジャングルを、さ迷い歩く。
すると草むらからガサガサ音が聞こえる。
草むらの方を振り向くと、そこには緑色のドロドロした化け物がうめき声を上げ、高橋に襲い掛かってきたのだった……