八頁 Are you understand?
「さてカルルト、そろそろ何故今リスカを連れ戻したのか、聞かせてくれないか?」
「まず、お前等。この世界では何故戦争が起こって、何故戦争が終わらないのか分かるか?」
グロウサイに着くなり、カルルトはマニラスの問いを無視して二人に問う。
「知るわけないよ。」
死ぬ程憎んでいるはずのマニラスに対して何の関心も持っていないようなリスカの目。
感情を表に出さないタイプなのか、この男の心の黒さを理解したのか。
「詳細は知らんが、きっかけは恐らく俺が先遣隊を組む依頼を受けた所だろ?」
「OK、そこまで知ってりゃ十分だ。きっかけはさっきマニラスが言ったやつで合ってる。マニラスは先遣隊……神族以外の種族メンバーを集めて犯罪を犯し、神の国にダメージを与える組織を作る為にリスカを買った。ここまでが、今まで見たことだ。そして、態々今になってリスカを連れ戻したのか。それはリスカにも、この先の事……つまり、戦争の原因を知ってもらいたいからだ。」
「そうか、リスカは俺に鎖を向けてからの記憶が戻ってない。リスカの記憶にはここからがないんだな。」
「どういうこと?」
「リスカ、これ覚えてるか?」
マニラスが鉄槌を見せると、
「ひぃっ!!!!」
悲鳴を上げてリスカが飛び退く。
「こいつは生ける者達の心を砕ける特殊な鉄槌だ。最も使いこなせるのは俺だけだがな。」
「じ、じゃあ心が砕かれたから私には記憶が無いの……?」
「そうだ。理解が早くて助かる。」
「2度も喰らったら嫌でもどんなものか覚えるよ。あんた達が話してる内容から少しは推察出来るし……『理解』をしなくてはいけない。『理解』することの優先度は全てに勝る。」
「スラム生まれの孤児なのに理解できる程の知性あるのか?」
「俺達結構詳しく話してたし、いけるんじゃねぇのか?フロイに少しは教わってるだろうし。」
「あぁ、そっか……」
「……話を戻して。ご主人の事を思い出させないで。殺したくなっちゃうから。」
少なくとも、リスカにはここでマニラスを殺しにかかったらろくな目に合わないと理解できる知性がある。
「本当はもう一度心を砕いて終わりだった筈なんだが、イレギュラーが起きたんでな。」
イレギュラー。リスカが心を失わなかった事だ。
「また心が壊れたのなら、一気に記憶を蘇らせても精神崩壊せず楽だったんだが……自我も復活したし、この際マニラスと同じ様に段階的に記憶を蘇らせようって事よ。」
「なら他の奴等も今すぐ取り戻しに行こうぜ。記憶が無くとも早めにやっておく事に損はない。」
「そうするのもいいと思うんだが……出来ない理由があるんだ。今から説明する。」
「出来ない理由……」
カルルトは今度こそ、理由を話し出す。
「俺は罪の異形。大罪の力を行使出来る………だが、この話で大事なのはもう一つの能力……贖罪だ。」
「贖罪?」
「贖罪……罪を贖う事だ。この能力は簡単に言うとな………………罪を消せるのさ。」
「罪を……消せる……?」
罪の異形はそんな聖職者の様な力も持っているのか……と思いつつも、マニラスは口を噤む。
「ただ、これには面倒な条件があってな……まず、贖罪を使うには罪を犯した者が必要だ。」
「つまり俺達か。」
「そう。そして更に、お前達が過去に罪を犯した場所と同じ場所でお前達の犯した罪に対する『修復』をしなければならない。」
「修復?」
「例えばどんなのだ?」
「殺しなら殺した奴を弔い、器物損壊なら壊した部分を直し、窃盗なら盗んだ物と同じ種類の物かそれに相当する金額を用意……ま、おいおい説明してやるよ。そして最後に、贖罪をする時は『罪を犯した者のみと罪の異形』だけがそこにいる必要がある。」
「罪を犯した者のみ……」
「これが、リスカ以外を取り返さない理由だ。」
「(成程、つまり予めメンバーを確保しても邪魔でしか無いと言う事か。)」
「ここまでの手順を踏む事で、そこまでの罪が浄化され、晴れて犯した罪が無かったことになるって寸法よ。」
「………待てよ。」
マニラスはカルルトがおかしい事を言っていると気づいたようだ。
「贖罪の意味は何だ?先程お前が言った手順を踏んだのなら、贖罪する必要も無く被害が元通りになっているじゃないか。」
そんなマニラスの疑問に、カルルトは。
「いい質問だな。」
と、続ける。
「贖罪を行った場合の罪の精算は、物理法則を無視する。例えば、作物が実らないこの世界に、作物を実らせる事とかな。」
「「!?」」
マニラスもこの時は流石に驚きを禁じ得なかった。
「今何と?」
「聞いてなかったのかよ?戦争の原因である食物の不足を解消出来るっつってんだよ。」
この世界の土壌には作物が実らない。
植物自体は生えるが、例えばリンゴのような実をつける植物が生えてこない。
もとより食べ物を必要としないコードは別として、この世界で食べ物が足りなくなった時は同胞を食らうか、料理系異形の生み出すものを食べるしかない。
が、何も元々作物が育たない大陸だったのではない。
1000年以上前は、普通に作物は育ったと言われている。
そう、1000年前までは。
「つまり、作物が育たなくなった原因は俺達にある……と。」
「私達が世界の作物を滅ぼした→私達がカルルトの力で贖罪すれば、また作物が育つようになる
なるほど。理解した。これで何が起きても怖くない。」
「リスカがさっきからやけに『理解』することを大事としているんだけど……性格変わってないか?」
「俺はこいつに会ってすぐにイデアロスしたから知らないのであって、本来はこういう人生観を持ってるんだろ。理解する事は大切ってのはその通りだしな。自分が置かれている状況を理解して対処する事は生きる上で必須の心得だ。」
「理解する事で、人は最善最良の結末へ向かうことが出来るんだよ。逆に理解が出来ないと、いざという時に全てにおいて遅れてしまう。自分を理解出来ないと、良い結末を得られない。理解出来ないと、運命がやって来ない。私にとっての『理解』はそういうものなの。」
これは本当に禄に教育を受けて来なかった15の少女の人生観か。
マニラスはそう思った。
「さてと。リスカの人生観を理解出来たし、続きを話してくれよ。」
マニラスはカルルトに促す。
「続きな。お前らが罪を精算することで、この世界を再生する事が出来る。逆に言えば、お前らはそれだけの事をやらかした。この先の道は決して楽じゃないぜ。俺から次の話をさせた時、お前らはもう戻れない。一応聞いとくが、次の話を聞くか?」
カルルトは急に慮ったような口調で聞いてくる。
その問いに、2人は。
「このままボーっと生きるのもいいが、人は常に刺激を求めなければ死んでしまう性を持った生き物だ。俺は聞くぞ。」
「ここまで理解させておいて今更先の話を理解させてくれないなんて、どういう拷問?私はもう、この世界を理解すること以外考えられないよ。」
人は生まれながらに罪を背負っている。罪人とは、その罪を止める心を持たない者の事。
「ふふっ……そう言うと思ってたぜ。じゃ、話そう。お前らの1つ目の罪は、これだ!」
かくして、ひっそりとした病院の中。
贖罪が始まる。
ここまでがチュートリアル。
ここからやっと、物語が始動する。