六頁 俺達は再び心を壊す。
「あのマニラスと言う男……俺と同じ容姿、つまり彼奴は昔の俺だと考えるのが妥当だ。それならカルルトが俺にここまでの歴史を見せるというのも頷ける。実際、昔のマニラスが使ったあの技は俺の使う『イデアロス』と全く違いがない。正直前まではただのそっくりさん説を信じていたがイデアロスまで使われたら言い訳できん。だが、だとしてもなんでカルルトは俺に昔の俺を見せる?記憶を呼び戻すのが目的か?だとしても、記憶を呼び戻して俺にどうしろと言うんだ?そもそも俺が何故過去にいるのか、あれはただのフェイクなのではないか?だが謎の既視感が………駄目だ頭がパンクする。」
マニラスは自分を整理し始めた。
「俺は人間。兵士として特に意味もなく上官からの命令で戦っていた。何故か他の皆より身体能力も術適正も高い。カルルトと出会い何故か歴史履修中……だが、昔の俺は魔族だ。魔族は無限に近い寿命があるので、千年前起きた大戦争を生き延びている奴ばかりだろう。俺が人間になっているということは、俺は一度死んだのだ。だとしたらカルルトが見せている意味……俺が死ぬ時、何かが起こったのか?」
考えていても脳を酷使するのみで意味がない。マニラスはカルルトの元へ向かう。
「おはよう。あまり疲れ取れなかったか?」
カルルトには見抜かれているようだ。
「ちょっと考え事していてな……お前には話しておいたほうがいいだろうな。」
「?」
「昨日の映像でマニラスがリスカに使った技……俺もあの技を使える。」
「なるほど?」
「その反応からしてお前、知ってやがるな?」
「バレたかー。ああ、全部知ってるよ。あの技は『イデアロス』。お前の使うものと同じだ。」
「やはりか……」
「激昂や絶望で心が脆くなったところを攻撃し、心を完全に砕く技。改めて考えるとひでー技だな!ハハハ!」
「心を砕いた相手は俺の命令を聞く人形になる。また、壊れた心は二度と修復することが出来ない。それを知っておきながら、俺は何度も何度も心を砕いてきた。」
「でも、反省も後悔もしていない。だろ?」
「最適解だからな。只の仲間意識では、いつ裏切るか気が気でないだろう。」
「ま、いつ裏切るかわからない仲間を置いておくなら、操り人形連れて旅するほうが安心だわな。」
「その通り。」
「話はそれだけか?なら今日も見ようぜ。」
「待て待て。聞きたいことがあるんだ。俺に昔を見せる理由。」
「お前が興味持ったんだろ?」
「それもそうだが、本当にそれだけか?」
「?」
「彼奴と俺を同一人物とすると、何故奴は魔族で俺は人間なのか。何故ほぼ無限の寿命を持つ魔族が生まれ変わっているのか。それは俺が何らかの理由で死んだからだ。俺は何故か、前世の体と力を持って今世に生まれて来た訳だ。」
「ふーん……」
「前世と同じ姿で産まれさせる何てことは不可能だ。現在ではそんな技術は無い。だがそれはあくまで俺達の話だ。超常の存在である初期異形ならば、可能なんじゃねぇのか?」
「いやいや、只の偶然かも知れないだろ?偶然見知った顔に似てる奴を見つけたから面白そうと思っただけかもだろ?ほら、俺って適当な奴だしさ!」
「無いな。確かにお前は楽しむ為に理由なく行動するタイプだろうが、俺はお前が楽しそうな顔をしたのを一度も見たことが無い。」
「……………」
「………飽きたんだろ?戦争に。当然だよな、1000年もやってたら。」
「はあ……お前洞察力凄すぎだろ。まだ序盤も序盤ってのに……」
「やはりそうだったか。お前は飽きたから戦争をやめさせたい。そして俺こそが戦争を止める為に必要な人物。だから俺に戦争の原因を思い出させる為に、こんなことをやっている。違うか?」
カルルトは黙り込んでいたが、暫くすると笑顔で言った。
「外れだ馬鹿」
「違ったか……ま、こんな無茶苦茶な仮説だ。外れてはいるだろうと思った……」
「別に戦争はどうでもいいんだ。だが、このまま戦争をほっとくと……いずれ世界は殺されてしまうのさ。」
「世界が殺される?」
「詳しい説明はまだすべきではない……約1000年程前、とある異形の者がこの世界に絶望した。奴は、封印されていた最強にして最恐にして最凶の異形である『殺害の異形』を蘇らせて世界を滅ぼそうとしている。」
「なんだと……?」
衝撃の事実にマニラスは絶句する。
「奴を止めるには戦争を起こしたお前達が必要だ。まだ詳しい説明は出来ないが、納得してくれ……」
その言葉が反響する。
「分かった、納得しよう。だが……ならば一気に記憶を戻せばいいんじゃないか?何故段階的に戻す?」
「一気に戻したら頭がパンクするだろ、精神崩壊してやり直しだ……そんな手間は負いたくない。」
「把握した。だから何回にも分けて過去の俺がやってきたことを見せているわけだ。」
「そうそう。………さてと、もう気づかれちまったし、これからちょっと出かけるぞ。」
「は?」
いきなり出かけると言い出すカルルトに、今度こそマニラスは驚いた。
「なんでだ?俺の記憶を戻さなければいけないんじゃないのか?」
「そのつもりだったんだけどな……少し予定が変わった。助けに行くぞ、お前の奴隷を。」
「俺の奴隷……リスカか?」
「そうだ。当初の予定では全てを伝えたあとから奴隷を助けに行く事になっていた……だが、お前は過去の人物が自分の見抜いた。ならば今からでいい。」
「待てよ、意味がわからねぇ。何故俺が俺を自覚してからなんだ?」
「彼奴も作り直されてんだよ。奴の記憶は凍結され、作り直されている。それを壊せるのは、お前の力だけだ。お前が『マニラス』として接する事に意味がある。」
「だからわからねぇって……もういいか。つまり、リスカは俺のように転生させられているが記憶が戻っておらず、新しい人格を作り上げている。今の俺がではなく、過去の俺が、彼奴を過去に戻せると。」
「大体合ってる。さ、行くぞ……そうだ、折角だからお前の服も過去仕様に変えとくか。」
「服?」
「その服だよ。そのダッセェ軍服、違和感凄いんだよ。」
「……ああ、これか。」
今まで描写してこなかったが、マニラスが着ているのは軍服である。
と言ってもカーキ色の防弾チョッキのような厚手の上下に、同じくカーキ色のヘルメット。確かにダサい。
「まあ確かにデザインは気に入ってない。だが、戦えれば何でもいい。俺は素の見た目が気持ち悪いからな。」
「悲しい事言うなよ……ほら、これに着替えろ。」
「これは……………昔の俺の正装じゃないか。」
過去のマニラスが来ていた服。
帽子と一体化した仮面は顔の半分を覆い隠し、仮面のついている側の体は大きな黒いマントで隠されている。
マントに隠されている服はマントと同じく真っ黒できっちりしたもので、動きやすくかつ洒落ている。
1000年前の貴族や商人の男性が着る正装である。
様になっているように見えるが、着ている人物が不気味な容姿をしているため、服さえも不気味に見える。
「これでなんとか格好がつくな……」
「それは良かった。じゃ、行くぞ。リスカの居場所は既に割り出してる。ここからだと結構遠いな……仕方ない。アレを使おう。」
「アレとは?」
そう答えた頃には、二人は既にキラサリの街を見下ろせる所に居た。
「…………アレとは?」
一瞬間をおいて、マニラスは一言一句違わぬ質問を寄越す。
「これは『大罪』の力。モチーフ『罪』には罪深さが強さに直結するという面があるが、罪に応じた力を使う能力もある。今の瞬間移動は『怠惰』の力だ。」
「怠惰……面倒くさい、だらしないという意味だったか?それがどうして瞬間移動に……歩きたくないって事か?」
「ちょっと違うな。怠惰の能力は、【ものとものを入れ替えて入れ替え先の役割を強制させる】というものだ。」
「何と無く分かるが、難しいな……」
「説明するよりやってみせた方が早い。あそこのパン屋と八百屋を入れ替えよう。」
「パンはいかがですか〜!」
「今日はこの野菜が安いぜ!」
「………やりたくない、押し付けたい。」
カルルトがボソッと呟いた瞬間、パン屋と八百屋の立ち位置が入れ代わり、
「野菜はいかがですか〜!」
「今日はこのパンが安いぜ!」
台詞も入れ替わっていた。
「こういうことよ。」
「ふむ、パン屋が八百屋に、八百屋がパン屋になっているな。」
「これが怠惰の力よ。俺が許可しない限り、入れ替わった2つは入れ替わったことさえ気づかない。」
「………となると、俺とお前は何かと入れ替わった事になるわけだが……俺達は何の役割を強制されている?」
「何も強制されてないってのが正解だ。」
マニラスは当たり前の疑問をぶつける。カルルトはこの質問が来ることが分かりきっていたようで、即答する。
「俺自身は能力の影響は受けねぇよ。お前が何も強制されてない理由も簡単だ。世の中には何の役割も持たねえ物質が山程ある。そんな物質と入れ替われば、役割を持たないが故に好きに動けるって寸法さ。」
「そんな法の穴をつくようなやり方があんのな…………待て、じゃあグロウサイには俺の代わりとなった『役割を持たないもの』が俺の役割を果たしてんのか?」
「いや、役割を持たない者達は入れ替わっても何もこなさないようになってるから問題ねぇ。そろそろリスカを探そうぜ。」
「つーか、彼奴は千年前と変わらずキラサリに居るのな……ま、前世と同じ姿で転生させられるんだし素性が同じでも可怪しくはないか………………………あ」
マニラスの目の先を歩いている少女は正に、リスカそのものであった。