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sin in the world in the sin  作者: 勧悪懲善者
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五頁 彼女の目から光が消える、いや、既に消えていた。

病院内に響く話し声。


「その知識はどっから手に入れているのか……まあいい、正解だよ。いくら『劣化合成異形』だとしても強いのは変わりない……」


「劣化合成異形?」


現代。

異形について話していた中で、マニラスは見慣れない単語を聞く。


「ああ、この時代には広まってねぇんだっけ……戦時中だし、仕方ない所もあるか。いいかよく聞け。異形には2つの種類がある。」


「2つ…………?」


カルルトは構わずに話を続ける。


「一つが劣化合成異形。この時代に広まっている、モチーフと体を掛け合わせて作る異形だ。モチーフの力を得られ、身体能力が飛躍的に上がる……」


「ああ、知っている。だが、劣化と言うのは何だ……?」


「そりゃあ、もう一つの種類に比べたら完成に劣化だしな。」


あっけらかんと言うカルルトを見て、マニラスはゴクリと唾を飲み込む。


「もう一つは初期異形。ずっと昔からいる異形だ。モチーフはお前らの時代のどこにでもあるモノじゃなく……所謂『概念』とか呼ばれるモノとなっている。おまけに、製作者も古代の神々だ。」


「おい待てカルルト、そういやお前初めて会った時自分の事異形だって言ってたよな?って事は……」


「そう。俺も初期異形。モチーフは『罪』……もっと言うと『七つの大罪』。詳しい能力は使うたびに別途説明してやるよ。」


「七つの大罪……全ての犯罪の大本となる七種類の罪、欲望の事か。」


「それだ。俺はそれに関係する権能を使えるのさ。例えば、お前に見せている世界の空間もな……」


カルルトは、続きを見せたがっているようだ。






















リスカとマニラスの前に現れたのは所謂「名無しのエネミー」である。

エネミーという種族は飛び抜けて力があるもののみが名前を持ち、それ以外は種族名で呼ばれる。

今回二人が相対しているのは「偽人コピーマン」。人間とそっくりだが、体のどこかに明確に人間と違う場所がある。

今回現れた偽人は右手がゼリー状になっているようだ。


「丁度いい、アイツを倒してみろ。」


「え……いきなり……?私戦闘経験ゼロだよ?」


「大丈夫だ。その鎖の能力があれば偽人くらいどんなに弱くても倒せる。万が一の自体があったら俺が助けに入るから心配するな。」


「=9/"’}:||:¡·+`}£+[¡\<£<!!!」


「!?」


「気にするな。只の雄叫びだ。」


いつまで経っても攻めてこないリスカに痺れを切らしたのか、偽人が向かってきた。


「来るな!!」


リスカが思わず手を出すと、鎖が手から飛び出て偽人を胸を貫く。

偽人は刺された胸から血を吹き出し、倒れる。

偽人は人間と何処か一つが違うだけ、他は全く同じ。

故に偽人から吹き出した血は真っ赤である。

偽人を殺すことは実質、人間を殺すことに他ならないのだ。

初めて人間の形をした者を殺した時、人は嘔吐するだろう。


「うぅ……」


「そりゃ初めて人間の形をしたものを殺したらそうなる。だがリスカ、お前はこの先もっとおぞましい者を相手する事になるだろう。そこで………」


「え……?」 


リスカの後ろには無数の偽人。


複製ライアーで偽人を増やした。とりあえず倒しまくれ。」


「複製って……そんな上位怪術使えるの……?」


ここで改めて説明に入る。

この世界には所謂「術」と呼ばれるものが存在する。

上から、

異術いじゅつ

怪術かいじゅつ

界術かいじゅつ

である。

異術は異形の者のみが使える異形の術。

モチーフにより使える異術は異なるが、どの異術もある程度戦え、使い道がある。勿論、異形の者は異術だけでなく、怪術と界術も使える。

怪術は異形の者でなくても使える上位の術、但し使える者は限られる。トリッキーな効果を持つものが多い。多すぎるので出てくるたびに解説しよう。

マニラスが今回使った複製は、その名の通り対象を魔力の続く限り増やせる効果を持つ。

界術は才能のない者でも最低限使える術であり、5つしかない。これも出てくるたびに解説しよう。


「死ぬ気で倒せ。死にたくなけりゃあな。」


「待って!これは流石におかしい……待って!来ないで!」


リスカは無我夢中で鎖を操った。手から鎖を出し、巻き付け、縛り、刺し、巻き取り、ぶつける。足から鎖を出し、削り、穿ち、ねじ切り、ぶちまける。

だがそれでも「敵」は減らず。

リスカは痛みを感じなかった。

感じる暇があれば、新たな負荷で上書きされる。

ようやく「敵」が消え去った時、リスカは感情すら出せなかった。

痛みと同じく、負荷で上書きされるからである。


「ま、今回はこれくらいでいいだろう。戦い初日でこれなら上出来だ。」


満足そうにマニラスは立ち上がり、荷物の中にあったらしい野宿用具を出す。

そこでようやくリスカは、辺りが真っ暗であることを知った。

だがそんなことはどうでもいい。

リスカは戦っている最中も守り続けた物を取り出した。

フロイから受け取った携帯電話である。


「(契約内容と合ってない……このままじゃほぼ確実に死ぬ……!ご主人に助けを求めないと……)」


震える手でリスカはフロイに電話を掛けた。


















その頃のフロイ。


「あー……リスカ大丈夫かな……相手は魔族のお偉いさんだし断れなかったけど、異形の者とはいえ戦闘経験0のリスカを売ってよかったものか……心配だ……………」


心優しい奴隷商人フロイはリスカが心配で仕方なかった。

この後のことも知らずに。


「!」


フロイの携帯電話が鳴り響く。


「リスカからの電話か!?良かった、無事みたいだな?(ガチャ)もしもし、こちらは………(ザクッ)は………?」


何が起こったのかも分からず、フロイは倒れる。

この出血量ではもう助からないだろう。

薄れ行く意識の中、フロイはリスカを送り出したことを悔んだ。

そして、リスカの無事を祈った。





















「早く出て……!『もしもし、こちらは……』あ、出た!ご主「ザクッ」……………………え?」


「あーあ、電話しちまったな。」


「…………もしかしてこれは………!?」


「俺がお前の携帯に罠を仕掛けておいたのさ。フロイに電話を掛けたらフロイの携帯から棘が出て奴を殺すようにな……」


リスカの声が震える。


「じゃあ今の音って……」


「十中八九、フロイが死んだんだろうな。おっと、俺を責めるなよ?確かに罠を仕掛けたのは俺だ。だが、フロイに電話してフロイを殺したのはリスカ、お前だ。お前なんだよ。」


「違う………貴方がご主人を殺そうとしたんでしょ……?私じゃ……ない………」


「『私じゃない』?何言ってんだ?俺が罠を仕掛けたのはあくまでもお前の携帯だ。奴の携帯から掛かってくる電話ならなんの問題もない。お前が電話を掛けた時点でお前の負けなんだ。分かったか?」


マニラスの言うことは筋が通っている。


「いや……やめて………やめろ……!」


マニラスは畳み掛ける。


「お前も災難だよなぁ、偶然キラサリで生まれて偶然捨てられて偶然フロイに拾われて偶然強いモチーフ持った異形の者になって偶然そこに俺が来てお前を買わなければ今こんなことになってねーのになァ!」


「黙って!黙ってよ!」


「恨むならこんな生まれをした自分と自分を拾ったフロイを恨むがいい」


「黙れええぇぇっっっっっ!!!!!」


リスカは鎖を出しマニラスを狙うが、マニラスはもうリスカの背後に周っていた。

マニラスは鉄鎚を振り下ろす。心を奪う、絶望の鎚を。

リスカの背後から、何やらガラスが割れるかのような音が出る。そしてリスカは倒れる。


「心を壊した……お前はもう俺の操り人形でしかない。」


マニラスは激昂、もしくは絶望した相手の心を壊し操り人形にすることができる。

これは異術でもなく怪術でもなく、はたまた界術でもない、マニラス個人の持つスキルである。

ちなみに、心が壊れた証拠として目から光が消える。


「自我を持つのはリーダーの俺だけでいい、他の奴らにとって自我など邪魔だ。俺がほしいのはお前の種族という名の『ブランド』だけだからな。」


マニラスによって心を壊されたリスカ。

被害が彼女だけであればどれだけ良かったか……








 



















「はいここまでー。」


「今日は胸糞悪かったな……」


「まぁな。この絶望感が大好きだから今回をお前に話すことをずっと楽しみにしてたんだぜ。」


「………俺は思いやりの心がないからどうでもいいが、やっぱりお前、趣味悪いよ。所で、マニラスが心を壊した相手は目から光が消えるんだよな?」


「それがどうした?」


「お前の目にも光がないじゃないか。お前の心はとうの昔に壊れたりしたのか?」


「なーに言ってんだ。初期異形は初めから目に光がないんだよ。潰したんだ。いらないからな。」


「いらないから?」


「目に光があったら暗闇で敵に感づかれちまうじゃねーか。」


「…………ああ、確かに。」


元々黒目がないため目に光が反射せず、結果として目に光がないマニラスには分かるわけがなかったが、目に光があると光が反射して目立つのだ。


「目に光があるよりない方が怖い印象もあって威嚇もしやすいからな。」


「なるほど……いいこと尽くしだな。」


「だろ?」


そんな他愛もない話をして、マニラスとカルルトは別れた。








「ふぅ、危ないところだったかも。『奴』の力を持ってるだけあってそういう話題には敏感みてーだな。」


カルルトは一人、そんなことを呟くと、夜の宵闇に溶け込んだ。

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