三頁 依頼人(元凶)は事務的に訪れてしまう。終わりを背負って。
翌日……………
「おい………お前ここで寝たのかよ。趣味の悪い魔族やらエネミーやらに呪われても知らんぞ。」
「魔族の気配もエネミーの気配も無かったからな。お前にビビって逃げたんだろ。」
「そっか……ていうか一応軍人だろお前。生存報告とかいいのか?」
「いいよいいよ………軍では俺は嫌われてたからな。清々してんだろ。」
マニラスはグロウサイから帰るのが面倒だったのでそのままグロウサイで野営することにしたのだ。
因みに軍でマニラスが嫌われてた理由……白目とアンバランスな髪型が気持ち悪い、味方を道具としか見ていないかのような動き、常に他人を見下すような話し方をするなど様々だ。
この物語において重要な事項ではないので、割愛させてもらうが。
「ま、いいんだよそんな事は。それより昨日の続きが見てぇから早くしろ。」
「へいへい……ほら、行くぞ。」
リスカの異形としての力が分かった所だったか。
リスカの異形モチーフが『鎖』と分かり、鎖を操れるという割とありそうな能力。
「そーいや………なんでご主人は異形化しないの?」
「そりゃお前……聞いてなかったのか?異形化の成功率はそこまで高いわけじゃないんだ。」
「あー……そういやそんな話してたっけ?」
「普通に失敗して何も起きないパターンもあるし、後遺症が残るパターンもある。最悪の場合死もあるな。」
「地味に命の危機だったんだ私……」
「許せ、上からの命令なんだ。異形の奴隷を増やせってな。」
フロイの屋敷(簡易)の呼び鈴が鳴る。
「っと、客かな?」
フロイは玄関を開ける。
玄関にいたのは、白だけの目が不気味な男だった。
「少しいいだろうか?」
「どうぞ、上がりな。」
接客モードになったフロイが不気味な男を招く。
リスカは嫌な予感がした。
「俺はマニラスと言う。ここでは奴隷を売っていると聞いてきた。」
「奴隷売っているのは本当だぜ。となると、奴隷が欲しいってとこかい?」
フロイは味をしめたとばかりに話を進める。
「どんな用途、どんな目的で奴隷が欲しいんだ?それを聞かないと、奴隷は売れねえ。俺が手塩にかけて育てた奴隷だからな。」
マニラスは少し黙ってたが、やがて告げた。
「戦える奴隷が欲しい」
『少し時間を戻すぞ。』
1週間程前………………………………………
マニラスは魔族陣営の土地で暮らす魔族であった。
飛び抜けて強く、敵を騙すことが得意で、魔族政府お抱えの暗殺者であった。
そんなマニラスに魔族の最上位者から直々の依頼が来た。
「マニラスよ、そなたを探しておったのだ。」
「お久しぶりです、殿下。私に何か命がありますでしょうか。」
マニラスは魔族の中でも高位、王宮から直接……魔族の最上位者から直接依頼されるほどの者。依頼をした最上位者は、魔族の中で最も知恵と術に長け、魔族を統べる者である。
最上位者は基本的に変わらないが、もし最上位者に成りたいと考えるハングリーな者が最上位者に戦いを仕掛け挑戦者が勝った場合、その場で最上位者は変冠する。
「左様。マニラスよ、貴様の術を見込んで頼みがある。」
「どのような頼みでしょうか。」
魔族の世界は実力社会だ。頼まれた時点で断る選択肢はない。
「私は神陣営の奴らをそろそろ滅ぼしたいと思っている。だから戦争を仕掛けようと思っている。わかるな?」
「と、いいますと?」
「神陣営は魔族陣営となら互角だから普通に戦うだろう……そうしたら、負ける可能性だって出てくる。」
「ですね。」
「其処でだ。古臭い手ではあるが、種族の壁を越えた部隊を作れ。そしてその部隊を神族によって統合されたものとせよ。方法は何でもいい、神族に変装するなり、神族の者をリーダーに仕立て上げるなり、なんでもだ。そうすれば、他族は神族を疑うであろう。全て神々が焦ればこっちのもの。相手が焦った所を一気に潰すのは我らの得意分野だ。」
マニラスには野望がない。この依頼を断る道理もなかった。
「ふむ………わかりました。種族の壁を越えた部隊、作ってみせましょう。」
「頼むぞ。」
そして今に至る。
「(人間のメンバーをここで補充する………金は上の者がいくらでも出してくれるからな。首を洗って待っていろ神ども……)」
「はい、今日はここまで!」
「いい所で終わったな……結論から言うと、マニラスは魔族の優秀な者。で、奴が戦争の引き金なわけか。」
「そういうこと。」
マニラスは何も言わず、喉から出かかった台詞を飲み込んで去っていった。