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sin in the world in the sin  作者: 勧悪懲善者
16/19

十六頁 罪と鉄槌(前編)

「あれ、兄さんは?」


朝、リスカが一言。

グロウサイの何処を探しても、ザクロが居ないのである。


「そういえば見かけないな。」


「マニラスも見てないの?」


「見てない。カルルトには聞いたか?」


「それが、カルルトも見つからなくて…………さっきから手分けして探してるんだけどね……」


リスカの周りを漂っているのは、点のような目のついた丸い浮遊物。

リスカが異術で生み出した生命体である。


「まぁ、この子達と視界共有とか出来ないし、破壊されててもわからないからあまり意味はないかもしれないけど。それくらい本気で隠れるんだったらどのみち見つけられないし。」


「ま、そうなったら大人しく帰りを待つしか無いな。カルルトは度々いなくなる事がある。少し待ってりゃ帰って来るさ。」


「そっか。」


そこで会話は一応終了。

リスカとマニラスは、それぞれで時間を潰し始めた。

マニラスは鉄槌の手入れ。

リスカはチェーンソーの手入れをしながら、異術生命体と戯れている。

いつも会話を回しているカルルトや場を賑やかすザクロが不在なので、会話が発生しない。

そもそもリスカは話すのがそんなに得意じゃない陰の者だし、マニラスも自分から口を開くことはほぼ無い。

和気藹々と会話できる訳が無い。

…………そしてそのまま………一時間経ち………退屈に耐えかねたリスカがついに口を開いた。


「ねえ……マニラスの昔話、聞かせてくれない?前世で私に会う前の話。」


「俺の話?」


「うん……まぁ、単純に気になるというか……駄目、かな……?」


さて、これに対してマニラスの回答は。


「暇だからいいが、大して面白くない話だぞ。それでもいいなら聞かせてやるが。」


「いいよ、何もしてなくても暇だし……だったら話を聞いた方が有意義かなって。」


「言っておくが、前世の魔族時代の記憶は曖昧だからあまり話せないぞ。」


「え、そうなの?私は前世の人間時代の事は色々とわかるよ。誰かさんにイデアロスされるまでは。」


「その誰かさんのイデアロスによって脳にストックされた記憶が少ないから、お前は覚えていられるんじゃないのか?俺は魔族時代、確か数百年生きている。人間とは記憶容量が違うにしても、流石に風化する。」


「もしイデアロスのお陰でも絶対にお礼は言わないからね。……曖昧でもいいから話して。」


「…………そうだ、俺とこの鉄槌の出会いの話をしよう。多少は暇つぶしになるはずだ。」


イデアロスで思い出したのか、鉄槌を取り出すマニラス。


「そういえば、忙しくてその鉄槌に対して聞く機会も無かったね。聞かせてよ。」


「わかった。これに出会ったのは、俺がまだ小さいときで……」


そんなわけで、この薄汚れた病院で。

未だ激しい大戦争の原因となった男の幼少期が明かされる。

































俺は当時では上位中産階級……まあ、貴族ほどでは無いが裕福な家庭に生まれた。

父は優秀な軍人で、幼かった頃の俺は父の厳しい訓練で毎日へとへとだったさ。

そのお陰で、卓越した戦闘技術を手に入れられたがな。

母は教師で、俺に様々な怪術を教えてくれた。

たまたま、俺には適正があったらしく、幾つも怪術を覚えられた。

リスカ、お前とは比べ物にならない程、俺は恵まれた環境に生まれていたのさ。

そして当たり前のように学校に通った。

不思議な顔をするな。

「貴族階級でも無いのに学校に通えるのか」って?

お前ら人間はすぐ増えるから家柄重視にして絞ってるんだろうが、魔族神族は寿命こそ長いものの、人間より病気に弱く、一人産んだらその親からはもう子が産まれないし、人間程濃い遺伝子を持つわけでもないから、子供は貴重なんだ。

100年かけて、じっくり育てられる。

魔族の寿命は大体700〜900年……長い奴だと1000を越える事もある。

身体の成長は100年程で止まるがな。

…………この気持ち悪い目も子供の頃からだ。

何故わかった!?みたいな顔をするな。表情に出やすいというのは戦いでは致命傷になり得る、直しておけ。

学生時代はよく喧嘩を吹っ掛けられたが、逆にそれを利用して経験を積んできた。

結構な手練れが揃う学校だったもので、上級生になると本職の軍人とそう変わらない者もいた。

魔族にも、お前らと同じように差別はある。

家柄もあるが、一番多いのは「悪魔型」から「魔人型」への差別だな。

悪魔型は魔力適性を始めとした戦闘技能に秀でている……要は才能がある為、魔族型に対して優位だ。

俺は正直、悪魔型なんぞただの知性あるエネミーだと思うがな。見た目はあの獣どもとそう変わらない。

話が脱線したな。

……じゃあ、本題だ。


成績優秀だった俺はある日、学年主任の先生に呼び出された。

確かその時は19年生で、魔族学校は20歳から入学するから……39歳の時だ。人間なら中年でも、魔族ならまだまだ子供だ。


「マニラス君。君、来年から特進クラスに行くことが決まったよ。」


学年主任はそう言った。

俺が通っていた所では、学年の中でも特に成績優秀な者が集まる特進クラスがあった。

特進に所属する生徒はほぼ全員、悪魔型。

魔人型が所属するのはとても珍しい事だ。

そんな珍しい事例の一人になった俺は、


「やった!ありがとうございます!」


と、無邪気に喜んだ。

と言っても、当時の俺は今のような冷血ではなく、普通の子どものような純粋さを持っていたからだ。


「君は他の魔人どころか、悪魔型達よりも優秀だからね。今年なんか、全ての筆記テストで学年1位だっただろう?」


「いえいえ、それほどでも。」


「学園長先生も、君の事を褒めていたよ。………マニラス君。」


「はい?」


「気をつけてね。」


「?」


幼い俺は、この言葉の意味がわからなかった。


『悪魔型は魔人型に幅を利かせていて、気を付けてという言葉……ああ、大体予想ついた……』


そして時は流れ、20年生の最初の日。

俺は期待を膨らませ、特進クラスの扉を開けた。


「?」


「は?」


途端、こっちを見てくるクラスメイト達。

魔人型の魔族は精々角や翼があるだけで人間とほぼ変わらない容姿だが、悪魔型は違う。

身体のかたちは魔人型と同じく四肢がある者が多いが、上半身が牛だったり、下半身が馬だったり、炎で身体が構成されていたりと、恐ろしい見た目の者ばかりだ。

牛や馬はわかるか?獣形エネミーみたいなものだ。

どうも魔族とエネミーは同じ祖から生まれているらしく、親和性が高い。

逆に、神族はコードと親和性が高くなっている。

その影響で、コードとエネミーは仲が悪くなっているんだ。


「おいおい魔人の坊っちゃん、ここは特進だぜ?入る教室間違えてるんじゃないかい?」


「いや、合ってるよ。俺は今日から特進クラスに入る『カーストロイ=ジェミニ•マニラス』。これから宜しく頼む。」


「マニラス……そうか、お前か!今年入る魔人ってのは!」


周囲から「アレが……」「本当だったのか」「マジで人間とそんなに変わらないな」と、声がする。

「魔人なんかが、本当に俺達とやっていけるのか?」「へばったりしないといいけど」などと、悪口の様な声も聞こえた。

俺は少し不安な気持ちになったが、


「静まれ!」


ある者の声で、クラスの喧騒が静まり返った。


「すまないね。魔人型の子が特進に入ってくるのは珍しいから、みんな注目してしまうんだ。いい奴らだから、仲良くしてやってくれ。」


「ああ、ありがとう……」


一喝したのは……金色の角、高い鼻、長い耳など、いかにも悪魔型らしい特徴を持った大男だった。


「俺は去年このクラスで委員長を努めていた『ベルフェゴノス=ハルビン•カイル』だ。今年も委員長になる予定だから、クラス代表として君を歓迎するよ、マニラス。これからよろしくな。」


「こちらこそ、よろしく。」


カイルと俺は握手を交わした。

この時の俺は、カイルを良い奴だと思った。





だが、奴はやはり悪魔。

更に、悪魔型の中でもエネミーと親和性が特に高い部類だ。

仲間意識が強い分、例外には容赦がない。

そんなことを、俺はまだ知らなかった。


新学期1日目は特に何もなく、担任がつまらない話をして終わり。

あれから少し質問攻めに遭ったが、それだけで、特に非道い目に遭ったりはしなかった。

俺は新しいクラスでの生活への期待に胸を膨らませ、浮かれた気持ちになっていた。










授業が始まった。

流石特進と言うだけあって中々難しい内容だったが、俺は意外とすんなり理解できた。

宣言通り委員長になったカイルは、クラスメイト達に何か話しているようだった。

俺はそれを気にも留めず、呑気に授業の復習をしていた……


「マニラス、話したいことがあるんだが、時間あるか?なければ明日でもいいぞ。」


「やあ、カイル。大丈夫、今聞こう。」


放課後、俺はカイルに話しかけられた。

何か話があるらしい。

俺は特に疑いもせず、カイルに近づいた。

それが、誤りだったんだ。


「お前本当にいい奴だなぁ……これから宜しくな、()()()()()()()()()!」


そう言ったカイルは俺の頭を掴んで、


「フンッ!」


「がっ……!?あ゛あ゛あ゛っ゛!熱い!頭がぁっっ!」


「所詮魔人型なんて悪魔型の奴隷でしかないのに、こうやってノコノコ上の世界に来てさぁ……勉強のできるバカってのはお前の事を言うんだよ!」


昨日見せた優しさはまやかし。

カイルも同じように、差別主義者であった。

奴は俺の頭を掴み、手から炎を噴射して、俺の頭を焼いたのだ。


「ハハッ、似合ってるよ、その髪型!」


俺の髪の半分は焼け焦げ、皮膚は赤く腫れ上がっていた。


『今のマニラスに髪が半分ないのってそういう……』


ああ、今世では39歳になったら突然燃えた。

あの時は本当に怖かったな。

そしてカイルは、焼けた俺の頭に指を置いて言ったんだ。


「ちょっと前に来た魔人ちゃんは1週間で自殺しちゃったけど、お前はどこまで持つかな?」


「自殺……そうか、あの時先生が言ってたのは、こういうことか……」


『気を付けて』とは、このことだったのだ。

俺は浮かれていた自分のアホさを呪った。

そして、どうにかして奴を倒さねばならない。そうも思った。

その反抗的な目線が気に障ったのか、


「やる気か?いくらお前が優秀でもなぁ、」


カイルは俺を持ち上げ、


「ガリ勉じゃ俺には勝てねぇよ!」


投げ飛ばした。

いつの間にか、人だかりができていた。

周りにいるのは悪魔型ばかりで、俺が一方的にやられる所を見物しにきた様だった。


「はぁ……はぁ……」


俺はなんとか武器を探そうと、あたりを弄った。

そうしていると、指に何かが当たった気がしたので、俺はそこを見ると………鉄鎚が落ちていた。

そう、今世で俺がいつも使っているものだ。

ダイヤ型に形どられたクリスタルが付いている鉄鎚。

俺はそれを手に持とうとし……できなかった。

鉄鎚は地面から離れなかったのだ。


「っ!何で……」


両手を使っても、近くにあった定規でテコの原理を利用しても、全く動かない。

まるで俺には使う資格が無いと言っているかの様だ。


「おいおい……そこには何も無いぜ?幻覚でも見たのかッ!」


カイルは不審な動きを見せる俺に蹴りを寄越した。


「グエっ!」


俺はその蹴りを喰らい、


薄れゆく意識の中、


「じゃ、片付けよろしくな〜。」


カイルの声を聞き、


意識を、


失っていった……

そろそろこいつを掘り下げないと読者の皆様がキャラを理解できずつまらなくなってしまうかもしれない。

てことで、マニラス過去編です。

少しはマニラスの事がわかると幸いです。

ま、作者の私もコイツの設定全然練ってないので、結局ふわふわした設定と世界観は変わらんでしょうがね。

あ、ちなみに今世のマニラスは43歳くらいです。

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