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sin in the world in the sin  作者: 勧悪懲善者
13/19

十三頁 大いなる罪 リスカ(5)

マニラス達が連れて来られたのは、一つの教会であった。


「ここは?」


「ここは昔使われていた教会だ。だけど、今は化け物共の巣窟になっている。」


リスカの質問にカルルトが答える。


「化け物?」


「その化け物が今回の鍵だ。おい変態、そろそろ起きろ。」


「うう……リスカ、そんなに迫られてもお兄ちゃんはお前には手を出せないから…………グハッ!」


「おう起きたか。ちなみに今の寝言はリスカにばっちり聞かれてたから。」


ザクロが振り向くと、リスカは養豚場の豚を見るような目でザクロを見ていた。

とりあえず、「あ、なんかやばいこと口走ったんだな」とザクロは悟った。


「もう生きていけない!」


「落ち着け何年生きてんだ。初期異形の中じゃ女性経験はぶっちぎりだろ。すぐによりを戻せるって。」


「ここ数億年は恋人出来るたびにお前と愉快な仲間たちにその恋人殺されてるからより戻せてねぇんだよふざけんな!」


「まあいんじゃね?悠久の時を生きる俺達からしたら100年なんぞ一瞬だし。」


「うるせぇそんなことで俺の怒りはな!」


「兄さん早くして。長い。」


「よしカルルト、本題に入ろう。」


「俺はお前が怖いよ。」











「外観は普通の教会だな。ステンドグラスや扉にも細工はなし。屋根の上に何もないから何教かはわからないが……………中も普通だな。椅子と懺悔室、壊れたオルガン……これといって細工はない。」


3人が騒いでいる間に教会を調べていたマニラスだが、特にめぼしい物は無いようだ。


「マニラス、まだ地下には降りるなよ。」


「了解。」


「ここが教会か……人々はここで大昔に英雄である『聖人』に祈りを捧げたらしいよ。キラサリには教会なんて無いから、新鮮だなぁ。」


「そりゃそうだ。都市に住んでる高貴らしい人間はスラム街の人間を『同じ人間』として扱ってないから、スラム街に教会なんて建てない。そして、戦争中に人間は神族を裏切った。その時に教会は殆ど壊されたんだ。ここまでは理解できるか?」


「それが理解できないなら、私は私になってないよ。」


リスカは髪を指に巻き付けてそう言った。


「そこら辺は有名な歴史本に載ってる。キラサリの図書は大した事無いけど、それでも全ての文書を読めば一般的な知識はつくよ。戦争が始まる前は人間は神属と友好関係……いや違う。主従関係の従の方に近かった。エネミーが魔族に従っていたようにね。」


「そこまで知ってるか。キラサリの蔵書も舐めたものじゃないな。」


「神族や魔族からしたら人間なんて小さな存在だろうけど、舐めないほうがいい。」


「そうだな。1000年も戦争続けてる時点で人間の底力は十分通じることはわかるさ。」


魔族と人間、2つの陣営にいたマニラスは語る。


「寿命が短く頭数が多いが故に、死を恐れず異形を量産して戦う。何やってくるか分からない分、戒律に厳しい神族やら逆に統率が合わなさ過ぎるエネミー、いつまで経ってもハッキング耐性をつけないコードより恐ろしい相手だ。ではリスカ、異形化に失敗した人間がどうなるか、知ってるか?」


異形化実験は、成功率が低い。失敗したらどうなるのか?


「……どうなるの?」


「その答えが地下にある。そうだろ?カルルト。」


「その通りだ。気づいてたのか?」


「この鼻につく汚水の匂い、()()しかないだろう。」


「アレって?」


「ここの地下にその成れの果て達がいる。降るぞ。油断して死ぬなよ。」


「大丈夫だよリスカ、お兄ちゃんが守るからね!」


「あ、うん……ありがとう兄さん……」


地下に降りる一行。

地下は暗く、ザクロが能力で出したライトが無ければ歩けない程だ。

その闇の中に、()()はいた。


「うじゅるるるるる…………」


「ひっ………」


()()の声を聞き、姿を見てしまったリスカは恐れ慄き、後退りして後ろの檻にぶつかる。


「シュウウウウ………」


「うわぁっ!?」


背中に生温かい感触。

リスカは飛び退いた。

檻の中にいたのは、人間なのか、それとも獣なのか、はたまた、暴走機械か。

崩れた物質のキメラが、そこにいた。


「いつ見ても気持ちが悪いな、なり損ない……」


「なり損ない?」


「異形化実験の失敗率は高い。失敗した場合、被験者は死ぬ事が多い。だが、極稀にいるんだ。中途半端に異形になった結果、こうして化け物になっちまう奴が。」


「中途半端……だから、なり損ないか……」


「一歩間違えば、リスカもこうなっていた可能性が高い。良かったな、無事に異形になれて。」


「怖い事言わないでよ。此奴等がどんな存在なのかは理解出来たけど、私はまだ、何故なり損ない達がここにいて、何故閉じ込められているのかは理解出来てない。」


「それは今からわかるぞ。この林檎でな。」


カルルトは檻の隙間から、林檎を投げ入れる。

するとなり損ない達は一斉に、


「クイモノ…………!!!!」


「ヨゴゼ!!!」


「ハラヘッダァォァォァオオオォァァァァ!!」


粘液を蒔き散らしながら、林檎に群がっていく。

この粘液の正体は……知らない方がいいだろう。

世の中には理解しないほうがいい『禁忌』がある。

別に今回のこれは禁忌ではないけど……まぁ似たようなものだ。

よく理解しておきなさい。


「閉じ込められてる理由……食料を求めて暴れるから、とか?」


賢いリスカは、林檎に群がるなり損ない達を見てそう考察した。


「別に食料だけが理由で暴れるわけじゃないけど、正解の一つだ。もっと保守的に考えてみて。リスカはなり損ないの存在を知らなかったんだよね?」


「うん、全く。つくづく、自分の世界の狭さを痛感するよ。」


「ここにいるなり損ないは……10数体と言ったところだが、隠し場所……教会はもっと多い。つまり、なり損ないは沢山いるんだ。そして…………ミゲル。」


ミゲル。

その名をザクロが発すると、


「ミゲル…………ミゲル!!」


「ミゲル!死ね!」


なり損ない達は、一層暴れ出した。


「ミゲルはこの教会……つまり此奴等を管理している者だ。」


「そのミゲルに殺意を向けているって事は……死ねって言った事も踏まえると、なり損ない達は、人並みの知能を持っている事になるね?」


「そう。そしてこいつらが動けたら、どうなると思う?」


「あー、そういう事か。なり損ない達は人並みの知能があるから、自分達の存在を公表しようとする。そして彼等は、自分をなり損ないにした施術者やミゲルみたいな管理人に復讐をしようとする。つまり、人類は『人類の敵』を人間は自ら生み出している事になる。これが明るみになるのを恐れて、なり損ない達を閉じ込めてるんでしょ?」


「そういうこと。」


優等生なリスカの答えに、ザクロは満足気に答える。


「失敗率は高いが、死ぬだけなら人間のアドバンテージである『頭数』を活かして、奴隷を異形にすればいいだけだ。だが、奴隷を差し出すような上級層とは違い、一般の民は変にモラルがある。こんな化け物が誕生する事があるなんて明るみになったら、異形化反対デモが更に加速して戦争どころじゃなくなってしまう。」


そして、カルルトが補足する。

異形化反対デモとは、人権保護団体が度々起こしているデモ活動である。

人権保護団体はその名の通り、人を無理に異形にすることに反対し、奴隷の権利を叫ぶ者達だ。

もっとも、「今戦争中なのに人権を叫んでる場合か」と思っている者は多く、度々大規模デモを起こし軍を出動させることから、団体は毛嫌いされている。


「人類ってのは変な所で綺麗にいたがる。もっと黒くて穢らしい所には、神族や魔族をも穿つ恐ろしさを秘めているのに。」


人類の兵士だったマニラスは、思う所があるようだ。


「やっぱり、戦ってた頃はそう思ってたのか?」


「そうだな。前線で戦う兵士共でさえ、エネミーと神族が衝突して互いに消耗している所に不意討ちを仕掛けて漁夫の利を狙う作戦には、直前まで躊躇っていた。」


「その変なプライドも人類の魅力だ。隠せてないのに必死に隠そうとするから美しいんだ。」


「お前の感想とかどうでもいいっす……」


「おい。」


「それでさ。なり損ない達の事はわかったけど、なんでここに連れてきたの?」


リスカは話を本題に押し戻した。

それについて、答えは。


「リスカ、動かないで。」


「え……?」


ザクロの『虚言』を受け、リスカは金縛りに遭う。

ザクロは、ゆっくりと近づいてくる。

そして、怯えるリスカの口を強引に開けて、


『君は能力を授かった。理解する鎖の力だ。

理解する鎖、それは即ち、遺伝子だ。君は今から、遺伝子を操る力を手に入れる。

想像して。君は光るその鎖で、なり損ない達を人間の姿に戻すことができる。君はその力を今から持つ。君があの人達を救え。』


そう言った。

リスカは座り込み、首を押さえて過呼吸になっている。

息ができないのだろう。

今から彼女には、力が目覚めるのだから。


「う゛っ……オエッ………」


リスカは口から鎖を吐き出した。

その鎖は青く光っていた。

そして、曖昧な実態であった。


「どういうことだ?」


一人だけ蚊帳の外のマニラスは、カルルトに聞く。

今、リスカに何が起きているのかを。


「簡単に言うと、ザクロの『虚言』で能力を増やした。今からリスカには、『遺伝子を操る』力が宿るはずだ。」


「あ゛っ……あぁっ……んゔ…………はぁっ、はぁっ、はぁっ………ゔえぇ……」


口を抑えても、鎖はリスカの身体中から出てくる。

まるで、長い眠りから目覚めたように。

リスカは床に伏す。立っていられないほど、気持ち悪いからだ。

鎖を嘔吐し、涙が鎖となり、髪の中からも鎖が出てくる。

やがて、全てが出てきたらしく、青い鎖は交わり始めた。

本来の姿へ戻ると言わんばかりに、生き生きと。


「………」


嘔吐が収まったリスカはその鎖を、暫く見つめていた。

そして何かを感じ取ったのか、持っていたチェーンソーの刃を外し、捻れた鎖に突っ込んだ。鎖は弾けた。

鎖はチェーンソーの形に纏わりつき、主人の意思を感じ取ったかのように唸った。

その刀身は水色で、淡い光を放つ。

禍々しくも何処か美しいチェーンソーが完成した。


「適合したか……!」


「リスカを形作る要素は『理解』だった。だからうまく行ったのさ。もしリスカで無ければ、こいつらと同じようになっていただろう。」


ザクロはなり損ない達を指さして言う。


「えげつないなお前、妹のように可愛がっていたのに……」


それに対して、マニラスは驚きを隠そうとせずにそう言った。

この場合の驚きは、リスカの新しい力に対してである。


「成功すると思ってたからね、この子が大好きなのは本当さ。でも、俺は女の子よりも救わなければならないものがある。なら、快く協力してくれるだろ?」


「自己中心的というか、なんというか……怖いんだよな此奴は。」


「ふん……まあいい。で、リスカに『遺伝子を操る』力が追加されたそうだが、具体的にはどういう事なんだ?」


カルルトは説明を始めた。


「ザクロの『虚言』は、嘘を本当にする力。基本的に、出来ないことは無いと言えるだろう。奴の力が通じないのはこの世界そのものか、初期異形だけだ。そう決まっている。いいな?」


「わかった。」


「当然、ザクロは異形を作り出すことだって出来る。しかも初期異形と同じような概念モチーフをな。」


「概念もか?」


「そう。追加自体は簡単だ。でも、その力の負荷に相手が耐えられるかは別問題だろ?」


「それはそうだな。身の丈に合わない力は、身体の方から拒否反応を起こす。ここにいるなり損ない達もそういうもんだろ?」


「例えるのが上手いな。まさにその通り。力に身体がついていけなければ、無理矢理にでもついて行く為に身体が崩壊する。でも、ついて行けた頃にはもう手遅れ。それが力を得るという事だ。……………脱線してたな。話を戻そう。『理解』する『鎖』……つまり『遺伝子』。それが『リスカ』を表す存在になったんだ。」


「何故『遺伝子』なのかは分かった。能力の詳しい説明に移ってくれ。」


「了解。リスカ、この人形を生き物にしてみてくれ。」


カルルトは茶色い寸胴の人間を模した人形、所謂「埴輪」を出した。


「いや、生き物にって言っても……生きてないものをどうやって生き物にするの?」


「それは力に適合したお前が一番わかっているはずだ。感じろ。その鎖を。感じろ。遺伝子を。」


「遺伝子を、感じる…………」


















いやいや、わけわかんないよ。

遺伝子や鎖を感じろと言っても、私は力に慣れていない。

やり方も理解していない。

どうすれば、目の前の人形を生き物にできるのか。

ここからは理解なしで、自分の力でやらなければならない。

手始めに、どういう生き物にするか想像してみよう。

人形……『ヒトカタ』と言うくらいだから、やっぱり人間かな。

いや、でも人間にするには人形が小さ過ぎる。

いくら概念に関わる異形の力でも、質量は変えられないと思う。

兄さんのは……あんな物理法則に反しているものは参考にならない。

あんな無から有を生み出すような………

………ん?無から有?

あ、そうだ!


「私の理解は間違っていたんだ!」


そう言った瞬間、人形の表面に青い線が引かれた。





















「いきなりどうした?」


「今まで、兄さんの力は『無から有を生み出している』と思っていた。世界の質量が変わることはないという常識から外して、勝手に理解を放棄していた。でも、違ったんだよ。」


「なるほど?何が違うと思ったの?」


ザクロは優しく問う。


「これも私なりの理解だけど、兄さんの虚言で生み出したものは『そこにあった空間』を代償に作ってるんじゃないの?」


「そう。同じ大きさの空間には同じ質量が閉じ込められている。俺が立っているこの空間は、俺が存在することの代償として消えている。空間を転換するのが、俺が無から有を生み出す仕組みだ。」


「へぇ……そう解釈したか。」


「理解力の成長が凄まじいな。」


「だから私も、空間を転換して生み出すよ。命を!」


指を髪に巻き付け、離したリスカは、埴輪にチェーンソーを当てた。

埴輪の周りの空間が削られ、何も無くなる。

だが空間は戻り、代わりにチェーンソーが青く光る。

やがて、


ヴ……ヴヴン………ヴヴヴ………


久しぶりに動くように、チェーンソーが鳴る。

リスカは埴輪にチェーンソーを振り下ろした。

チェーンソーが触れたときの感覚は……無い。

刃が、埴輪をスルッと通り抜けた。

その直後、埴輪は……溶けて広がった。

液体のような、固体のような形になって。

だが、すぐに元の形に戻り……




「こン……ニチハ………」



人語を話す埴輪がそこにいた。

リスカは素早く、その埴輪を潰した。

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